51話 本当に恐ろしいもの
ダンジョンの床にぐったりと転がる一人の男を見て、私達は小首を傾げる。
「……この人、ど、どうしましょう?」
「うーん……正直、放っておきたい気持ちはあるんだけど、さすがにダンジョンの中だからまずいかなー、って」
「で、ですよね……」
どうしよう?
縛る? 引きずる?
でも、こんな人触りたくもない。
私とりおちゃんの中では、この人はもう、あの……口にするのも嫌な虫と同じくらいのレベルに落ちていた。
と、その時
「……ひなちゃああああああーーーーーんっ!!! リオちゃあああああああーーーーーんっ!!!」
「ふぎゅ!?」
「むぎゅ!?」
なにかがものすごい勢いで突撃してきて、りおちゃんと一緒に抱きしめられた。
「大丈夫!? 怪我していない!? 怖くなかった!? ちゃんと可愛いまま!?」
「せ、芹那さん……?」
「どうしてここに……」
「リスナーのみなさんから通報があったのよ。ただ、ごめんなさい。あまりに通報の数が多かったから情報が錯綜して、出遅れて……本当にごめんなさい」
離れて、深く頭を下げる。
私とりおちゃんはすごく慌てた。
「い、いえ!? そ、そんな……!」
「芹那さんが気にすることじゃないですよ! 悪いのは全部あいつ!」
「……ありがとう。そう言ってくれて助かるわ。それにしても……」
芹那さんは地面で伸びている男を見る。
「こいつ、最低最悪のヤツだけど、実力だけは本物なのよ。そんな相手に勝つなんて……二人とも、すごくがんばったのね」
再び抱きしめられた。
「よくやったわ。本当に偉い」
「あ、ありがとうございましゅ……」
「えへへー!」
なんだかんだ、褒められて嬉しい。
抱きしめられると、なんだか、ほわんというかぽわんというか。
柔らかくて温かくて気持ちいい。
……私もいつか、あんな風になれるかな?
「あ! それで芹那さん。私達、この人をどうするか困っていたんですけど……」
「大丈夫。こいつのことなら任せておいて」
芹那さんがにっこりと笑う。
でも……おかしいな。
笑顔だけど笑っていないというか。
周囲の温度が数度、下がったような気がした。
「きちんと『処理』しておくわ」
「……しょ、処理……?」
「それは、えっと……だ、大丈夫なんですよね? ほら、あの……」
「ええ。もちろん『合法的に』よ?」
合法でも不法でも、処理するのには変わらないらしい。
楽しそうに言う芹那さんが逆に怖い。
でも、まあ……
男にはまったく同情できないので、処遇は任せることにした。
「じゃあ、あとは大人に任せてちょうだい。二人は、このままがんばって」
「……え?」
「えっ?」
私達は目を丸くした。
「でも……時間、かなり取られちゃいましたし……」
りおちゃんが少し申し訳なさそうに言った。
「今からじゃ、さすがに優勝は……」
「……いえ」
考えて。
答えが出てきたところで言う。
「まだ……いけます」
「え?」
「ボス部屋はもうわかっていて、ここからそう遠くありませ……ん! だから……いけます」
「りおちゃん」
私はりおちゃんに背中を向けてしゃがむ。
「それって……また、おんぶ?」
「はい。私が、その……タクシー代わりになって、一気に……駆け抜け、ます!」
>タクシーw
>時速100を超えてそうw
>法令違反
>シートベルト必須
>大丈夫なのかこれ?w
「の……乗ってください」
「……う、うん?」
「い、いきます!」
足にぐっと力を込めて。
そして、思い切り駆ける。
「ひえええええええぇぇぇーーーーー!?」
「がんばってねぇ……」
りおちゃんの悲鳴と。
すぐに遠ざかっていく芹那さんの声。
それらを背中に、私はダンジョンの中を駆け抜けていく。




