30話 大人は待つことを知っている
ファミレスを出ると、すっかり日が暮れていた。
少し食べすぎてお腹が重い。
ちょっと眠い。
でも、少し冷たい夜風がシャキンとさせてくれる。
「今日はありがとうね」
芹那は笑顔でひなとりおに言った。
「こちらこそ!」
「い、いえ……」
りおはいつも元気いっぱい。
ひなは、小動物のようにおどおどしている。
でもそこが可愛いと、芹那は、心の中ででへへへとなった。
わりとおっさんっぽい心を持っているのだ。
「また誘ってもいいかしら?」
「コラボですか!? ぜひぜひ!」
「ふぇ……」
「ふふ。コラボもしたいけど、こうして食事だけでもいいわよ?」
「そ、それなら……」
ひなは安心した様子で頷いた。
そんなひなを見て、芹那は内心で小さな吐息をこぼす。
(やっぱり、自己評価が極端に低いのよね……なんでかしら?)
芹那は疑問に思いつつ、二人を駅まで送る。
「またですー!」
「……さ、さようなら……」
手を振るりお。
ぎこちなく振り返るひな。
その背中が駅の改札口を潜り、消えるまで芹那は笑顔で見送っていた。
そして、二人が完全に見えなくなったところで、隣に立つ零士に声をかける。
「それで、今日の感想は?」
「……何度も言わせるな」
零士は、少しバツが悪そうに頭をかく。
「ごっことか遊びとか、そんなことを言ってたわよねー?」
「……俺が間違ってた。あいつらは……本物だ」
「あら、ちゃんと認めるのね」
「しっかりと動いていたし、特殊個体を相手にまったく怯んでいない。なによりも……芯を感じた。まだガキだからちと甘いところはあるが、そこらの適当なベテランよりも上だろうな」
「よろしい」
芹那はくすりと笑う。
「ちゃんと認めることができて偉いわ。成長したじゃない」
「……うるせえ」
零士はため息をこぼして。
それから、反撃とばかりに芹那に言う。
「っていうか、黒羽さんはどうなんだ?」
「なにが?」
「諦めたわけじゃねえんだろ」
「ふふ……そうね」
芹那は、二人が消えた駅の改札口を見る。
(ひなちゃん)
正直に言えば惜しい。
とても惜しい。
戦力としては今でも十分すぎるほど。
鍛えれば、トップクラスに成長するだろう。
配信者としてもトップクラス。
こちらはなにをする必要もなくて、勝手に有名になっていくだろう。
その性格は配信者に向いていないと思う人もいるかもしれないが、しかし、ひなはあれでいい。
あのスタイルこそがベストであり、視聴者も庇護欲を掻き立てられていく。
……なんて、芹那はひなに魅了されていた。
とはいえ。
(無理に引き剥がすものじゃないわね)
最近になってひなの認知度、人気が急上昇しているのは、もちろん、本人の資質によるものが大きいが……
ただ、りおの貢献も大きい。
りおがなにかしたわけではない。
ただ、一緒に配信しているだけ。
それこそが完成形であり……
二人で一つ。
そう言えるくらいに、コンビとしてピタリとハマっていた。
下手に手を出せば、二人共、歪んでしまう。
そのようなことを芹那は望まない。
将来有望なダンジョン配信者を潰したくなんてないし……
それ以前に、二人のファンなのだから。
「当面は……」
芹那は独り言のように呟いた。
「普通に仲良くするだけかしら」
「それでいいのか?」
「いいのよ」
芹那は微笑んだ。
「『待つ』っていうのも大人の戦い方だから」
「……めんどくせえな」
「あなたも、そのうち分かるわ」
夜道を歩きながら、芹那はひなの姿を思い出す。
速い。
なによりも速く、芹那の目でも、時折、捉えきれないほど。
スピードだけなら芹那は負けている。
全体的な総合度で言えば、まだ芹那の方が上。
ただ、ひなはまだ若い。
これからの成長を考えると……
「……っ……」
芹那の背中がぞくりと震えた。
ひなの『これから』が楽しみだ。
ただ、同時に心配にもなった。
とても後ろ向きな性格は、まあ、個人差としても……
あの自己評価の低さは、いったいなんなのだろうか?
(……危うい)
自分の価値をまるで信じていない。
守ることには迷いがないのに、自分を前に出すことには異様なほど慎重だ。
(あの子……放っておくといつか壊れそう)
だからこそ。
無理に囲わない。
無理に引き上げない。
今は、ただ見守るだけ。
それが大人の役目だろう
「……ほんと、気になる子ね」
「あん?」
「なんでもないわ」
零士にそう返して、芹那は夜の街へと歩き出した。
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