19話 場違いオブ・ザ・イヤーに選ばれました
……ここは私がいていい場所じゃない。
エレベーターの扉が開いた瞬間、私はそう確信した。
「……ひ、ひろ……」
目の前に広がるのは都内一等地のビルのワンフロア。
壁一面ガラス張りでとても開放的だ。
ビルを支える鉄骨すらもおしゃれに魅せられている。
フロアの一角に巨大モニターがずらりと並んで、それをチェックするたくさんの人達。
ダンジョンのリアルタイムデータや配信画面が映っていた。
(ここが、大手クランの拠点……クラン? ダンジョン配信者? これはもう企業のオフィスでは……?)
「おおおおぉ、すごーい!!」
隣では、りおちゃんが子供のように目を輝かせていた。
「ねえひなちゃん、見て! あの人、配信で見たことある! あっちの人もそっちの人も、あ、あそこの人も!」
「ひ、ひ、ひとが……多い……人に酔いそう」
「……」
「りおちゃん?」
「……私もちょっと緊張してきたかも。はしゃいじゃったけど、だ、大丈夫かな? 捕まったりしないかな……?」
「……」
「黙らないで!? 目を逸らさないで!?」
「りおちゃん……さ、差し入れ、持っていきますね」
「そういう話やめてぇ!?」
「ふふ」
小さな笑い声。
私達の前に数人の男女が歩いてきた。
その中心……背筋がすっと伸びた女性。
長い黒髪に落ち着いた微笑み。
でも、その身にまとう雰囲気は鋭く、怖いわけじゃないけど、自然と緊張してしまう。
「ようこそ。今日は来てくれてありがとう。それと、先日はうちのメンバーを助けてくれてありがとう。本当に感謝しているわ」
「あ、い、いえ……とんでもないです!」
「は、はい! 当たり前のことをしただけです!」
反射で深く頭を下げた。
りおちゃんも、こういう場面に遭遇したことはほとんどないらしく、珍しくとても緊張している様子だ。
「色々とお話をしたいんだけど……その前に、まずはお礼ね」
女性はそう言って、手元のタブレットを操作する。
「こちら、振り込みになるのだけど、二人の口座を教えてくれるかしら?」
「「え???」」
提示された額は、『0』の桁がおかしくて……
「こ、こここ、こんなにですか!?」
「これミスってますよ!? ミスミス!」
「ふふ、そんなことはないわ。だって、二人は命を助けたんだもの。これくらい払うのは当然のことよ」
「で、でも……」
「スパチャみたいなものだと思ってくれていいわ」
確かに、配信文化的にはわかりやすい例えですが。
でも、額がスパチャの概念を超えている……軽く上限突破していた。
「本当に二人には感謝しているの。あなた達がいなかったら、メンバーは確実に死んでいたわ。だから、受け取ってちょうだい」
「あうあう……」
「……ひなちゃん、厚意に甘えよう?」
「え、りおちゃん……?」
「『ホワイトウイング』の人達の面子もあるし……この人の言っていること、すごくよくわかるし。お礼を断るだけが優しさじゃないよ?」
「……う、うん」
結局、押し切られる形で謝礼を受け取ることに。
一気に貯金が増えてしまった……
「まあ、ここまでは前座のようなもの。二人共、まだ時間はあるかしら? 色々と話をしたくて……美味しい紅茶とケーキを用意しているわ」
「「ケーキ!!」」
ケーキに釣られた私達は、休憩スペースに移動して雑談タイムに。
「ここすごいですね。おしゃれで広くて機能的で……こういう拠点、すっごく憧れます!」
「ありがとう。みんなが頑張ってくれた結果ね」
りおちゃんは楽しそうに話しているけど、私はというと、ソファの端で縮こまっていた。
すごく高級そうなソファーで、座り方が合っているかどうか気になってしまう。
「……あなた」
「ひ、ひぃ!?」
女性の目がこちらに向いて、声が裏返った。
な、なにかやらかした!?
座り方が間違っていたとか、あるいは呼吸の仕方とか、そもそも私の存在が!?
「あなた、もしかして……」
空気がピンと張る。
りおちゃんも息を呑む。
次の瞬間。
「すごく可愛いわね!」
「ぴゃあああ!?」
いきなり抱きしめられた。
「あわわわわわ!?」
「やだやだ、なにこの小動物感! 可愛い、可愛い♪」
「ひぃぃぃ……!」
「あなたも可愛いわね!」
「きゃー♪」
こちらは喜びの悲鳴だった。
「はっ……!?」
我に返った様子で、女性が恥ずかしそうに咳払いする。
「ご、ごめんなさい。可愛いものを見ると、つい……」
「私、可愛いですか!?」
「ええ、とても♪」
「やったー!」
そこで聞いて喜ぶりおちゃんは、心底すごいと尊敬した。
「こほん……改めて。私は、黒羽芹那。このクラン、『ホワイトウイング』のマスターを務めているわ」
名刺を渡された。
すごい……トップクランって聞いていたけど、名刺なんて持っているんだ。
「よろしくね♪」
「た、小鳥遊ひな……です……」
「陽向りおです!」
「ふふ。よろしくね、二人とも」
挨拶は終わり。
これからが本題だ。
きっと、とても難しくて難解で難しい話が待っている……なんてことはなくて。
趣味とか日常のとか、そんな感じの雑談が続いて。
そのまま解散。
芹那さん……苗字で呼んだらすごく嫌そうな顔をされた……に見送られて、私とりおちゃんは『ホワイトウイング』の拠点を後にした。
――――――――――
フロアの最奥にある自分の席に戻った芹那は、窓の外を見ながら呟く。
「……あの子……」
一瞬、真剣な目。
「……いえ。まだ、なんとも言えないわね」
ふっと微笑む。
「可愛いのは確かだけど……さて、これからどうなるかしら?」
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