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10話 ありがとう!

 私は、できるだけ距離を取ったまま、陽向さんの顔を見た。


 陽向さんはにこにこ笑顔。

 私とお話できることが嬉しいみたいだけど……


 罠?

 なにかしらの詐欺?

 ついついそんなことを思い、警戒してしまう小心者を極めた私だった。


 陽向さんは両手を胸の前で合わせて、ぐっと身を乗り出してきた。


「まずは、この前のこと! ほんとにほんとに……本当にありがとう!」

「……い、いえ……」

「ひなちゃんがいなかったら、私、死んでいたと思う……だから、ひなちゃんは命の恩人! 改めて、ありがとう!」

「……あの、えっと……その……」


(やばい。言葉が続かない)


 陽向さんは、うんうんと頷きながら、目を輝かせている。

 頷くのやめてほしい。

 期待が乗る、言葉に圧がかかる。


 私は必死に言葉を探して、なんとか見つけたのがこれだった。


「た、大したことは……してないので……」


 陽向さんは一瞬きょとんとして、次の瞬間、勢いよく首を振る。


「大したことだよ!? 命だよ!? 命!」

「そ、そうでしょうか……?」

「そうだよ!」

「で、ででで、でも……私、は……魔物を倒しただけ、なので……」

「そのおかげで私は助けられたんだよ♪」


 うわぁ……笑顔が眩しい。

 陽キャの笑顔って、本当に太陽みたいにキラキラしているんだ。


 ……私が欠片も持っていないものを持っていて。

 ちょっとだけ。

 ほんのちょっとだけ羨ましいな、なんてことを思う。


「でも、どうしてもお礼を言いたくて、騙し討ちするようになっちゃって……そこはごめんなさい!」

「あ、いえ……べ、別に謝る必要は……」

「ありがとう。ひなちゃん、優しいんだね」


 私は優しくなんてない。

 ただ臆病なだけだ。


 逃げているだけ。

 ……色々なことから。


「ちょっと聞いてもいいかな?」

「は、はい……どうぞ」

「ひなちゃんも……って、あ!?」

「ぴぃ!?」


 いきなりの大きな声にびくりと体が震えた。


「そういえば、自己紹介していなかったね。ごめんね。私はひなちゃんのことを知っているけど、ひなちゃんは私のことを知らないよね?」

「え、えと……陽向りお、さん……で、ですよね?」

「えっ。もしかして、私のこと知ってくれているの!?」

「な、なんとなく……?」

「ちょっと、っていう感じかな? うーん、残念……」

「あ、あのっ、ご、ごごご、ごめんなさい!?」

「ううん、大丈夫! まだまだ私が未熟っていう話だからね。これからもがんばるよ、えいえいおー!」


 すごくテンションが高い。

 笑顔が眩しすぎる。

 太陽かな?


「じゃあ……私は、陽向りお。十六歳。ダンジョン配信者系アイドルで、一応、事務所にも所属しているの。将来の夢は、武道館でライブをすること!」

「ぶ、ぶどーかん……?」

「うん! 私、ダンジョン配信も好きだけど、歌うことも好きなんだ。だから、いつか武道館でライブをやりたいの!」

「す、すごい夢ですね……」

「ありがとう♪」


 にっこりと笑う陽向さん。

 それから、じーっとこちらを見つめてくる。


 ……はっ!?


 これはもしかして、次は私が自己紹介をする、ということ?

 え、待って待って。

 無理ゲーすぎる。


「え、えっと……」

「わくわく♪」

「そ、その……」

「どきどき♪」

「……ひぃん」


 泣ける。


「た……小鳥遊……ひ、ひな……ですっ!」

「うん、ありがとう!」


 こちらこそ、ゆっくり待っていただいてありがとうございます。


「ひなちゃん、って呼んでもいいかな? もう呼んじゃっているんだけど」

「だ、大丈夫……ですっ!」

「やった! それで……ひなちゃんも配信者なんだね! 同い年くらいの子って珍しいから、会えて嬉しい!」

「……あ、あの……」

「普段どこの階層で活動してるの? レベルは? 武器は? 得意な戦い方とかある?」


 質問が多い!


「……え、えっと……」

「うんうん♪」

「……だいたい……その……」

「わくわく♪」

(どこ? どこって言えば安全?)

「……えっと……そこそこ……です……」


 陽向さんは目を輝かせた。


「そこそこ!? どこ? 具体的に! 何階層?」


(具体的にって言葉、怖い)


「あ、あの……えっと……み、みんなが……行くところ……」


 私は、世界で一番意味のない答えを出した。


 陽向さんは一瞬固まって、すぐに笑った。

 春の木漏れ日のような笑顔だ。


「ふふっ、ひなちゃん可愛い! 照れ屋さんなんだね♪」


 照れ屋じゃないです、ド陰キャなだけです。

 心の中で訂正しながら、私はさらに追い詰められる。


 陽向さんは腕を組んで、うーんと考える仕草をした。

 アイドルっぽくて、かわいくて、でもちょっと……本当にちょっとだけアホっぽい。


「じゃあね、レベル! レベルなら言える? 私はね、まだまだで……えへへ、最近ようやく二十になったんだ!」


 初心者卒業って言われているのが十レベルだから、陽向さんはけっこうダンジョンに慣れているみたいだ。

 この前のサイクロプスは五十近くが推奨なので、あれは単に運が悪い。


「私は……ひ、低いです」

「えっ、低いの!? でも昨日、あれ……」


(昨日の話はしないでください)


「た、たまたま……?」

「たまたまで、あれ!? すごいよ! 天才じゃん!」


(天才って言葉も重い)


 重い言葉を軽々と投げないでください。

 危ない、足元に落としたら爆発する。


 私は、心の中で壁に頭を打ちつけた。


(だめだ……この子、褒め言葉の爆撃機だ……)


 悪意はゼロだけど、でも、私にとっては毒。

 私なんかが褒められるなんて、そんなこと……ひぃん。

 胃が痛い。


「武器は……えっと……その……手で」

「手!? 素手!? かっこいい!」


(かっこよくないです。怖くて普通の武器を使えないだけです)


「得意な戦い方は?」


 逃げること。

 ……とは、さすがに言うことはできなかった。


「……速く……終わらせる、こと……ですっ」

「速攻タイプなんだね! わかるわかる。私もね、配信だとテンポ大事はすごくだなーって思っているよ」


(配信のテンポじゃないです。生存のテンポです)


 会話がすれ違っている。

 でも、陽向さんは楽しそうだ。

 それが、なんだか不思議だった。


 私と話して楽しいの?


(……そんなはずない)


 私なんかと話して楽しい人なんて、いない。

 だから今のこれは……


(……夢?)


 夢なら早く覚めてほしい。

 覚めたら寂しいかもしれないけど、寂しいとか考えるな私。


「ねえ、ひなちゃん」


 陽向さんは、ふと、少しだけ真面目な顔になった。


予約登校したつもりになって忘れていました、すみません・・・><

この後、21時半にもう一回投降します。

その後は、毎日19時に投降します。

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