ロベリア⑤
ロベリア視点です。
「もう1度だけでいい。私のこと……信じて?」
マツが震える手を差し出した。
――この手を取ってほしい。
言葉にこそしていないけど……マツの気持ちが痛いほど胸に伝わってくる。
「……」
――私はどうすればいいの?
私は自分の心に問いかけた。
――息子とマツ……私はどちらを選べばいいの?
いや……違う。
マツは私に手を差し伸べてくれているけど……息子は私が勝手に手を掴んでいるだけ。
この子が望んだことじゃない……私が望んでいることだ。
「マツ……」
私の手からナイフが滑り落ちる。
そして私は、震える手をマツへゆっくりと伸ばした。
「ロベリア……」
やっと……やっとわかった。
――私は1人じゃなかったんだって。
マツの指先に、私の指が触れようとした。
その時――。
パァンッ!
乾いた破裂音が洞窟内に轟き、視界が歪む。
――肩が燃えるように痛い。
何が起きたのかわからなかった。
そしてぼやけた視界の先に見えたのは、銃を構えた数人の騎士達だった。
――まさか私、撃たれたの?
自分のことなのに……それすらわからない。
マツへ伸ばしていた腕から、力が抜けそうになる。
キィィィン――。
耳の奥で甲高い音が鳴り続けている。
周りの音が遠い。
私は痛みを堪えてマツに手を伸ばした。
――マツ、助けて。
そんな思いを込めながら伸ばした手……。
だけどマツは、私に背を向けた。
――なんで?
マツが騎士達に向かって何か言ってる。
だけどよく聞こえない。
私は必死に口を開いた。
「助けて……マツ」
だけどマツは振り返ってくれなかった。
――マツ……私のこと、裏切ったの?
一瞬、そんな疑惑が浮かんでしまった。
――違う。
マツがそんなことするはずない。
マツは私の大切な家族……。
鏡をだまし取ってお腹まで刺した私に手を差し伸べてくれたマツが裏切るはずない!
そう思った直後――
パァンッ!
遠くで、くぐもった銃声が聞こえた。
次の瞬間、胸に強い衝撃が走った。
――マツ……?
その瞬間、私の心が冷たい何かに包まれた。
――最初から騎士達に私を殺させようとしてたの?
――今までの言葉もあの涙も全部、嘘だったの?
「……」
胸から血が溢れているのに、もう痛みすら感じない。
――そうか、私もうダメなんだ。
自分が死ぬというのに、不思議と受け入れることができてしまった。
「……」
私は伸ばした手を下ろした。
――もうマツは私のことを家族だとも友達とも思っていない。
「……裏切り……者……」
口から漏れたマツへの言葉と共に、マツとの記憶がよぎった。
――これが走馬灯か。
あの最後の友達記念日……あの日から全てが壊れてしまった。
だけど、マツと一緒にいた時間は本当に楽しかった。
それだけは……胸を張って言える。
――視界が大きく傾いていく。
そして最後に映ったのは、息子の姿。
――ごめんね、こんなお母さんで。
そこで、私の意識は途切れた。
次話以降はマツ視点で進めます。
ロベリアはこの話で退場したので。




