210 姉の悩み
最近花音の様子がおかしい。前みたいにがっついて来なくなったし、こちらのことを見る目が明らかに変わった。
今だって普通なら肩を寄せて来てそのまま腕に抱きついて来るところだが、彼女は一定の距離を保ってソファに座っている。
「………」
悪いものでも食べたのだろうか。とりあえず少しだけ観察してみる。
「…??どうかしましたか…??」
「え?あ、いやなんでもないけど…」
「そうですか…?そんなに見られると恥ずかしいです…」
「ああ…ごめん…」
えやっぱりおかしいよね。
普段の花音なら嬉しそうに笑いながら「私のこと好きになっちゃいましたか?♡」とか言ってくるだろうに。つまりこれは明らかに異常事態だ。流石の柊も不安になって事情を聞き出そうとする。
「あのさ…なんかあった?」
「はい?別に何もありませんよ?」
「そっか…なら良いんだけど…」
そんなはずが無い。彼女は明らかに思い悩んでいる表情をしていて、明らかにいつもより雰囲気が暗い。それに最愛とも言っていて柊にすら本音を隠すということは多分相当な事があったんだろう。
柊は瞬時にそれを察し、想像よりも深刻な状況であることを理解する。そして咄嗟に母の方を向いた。
(これ、ヤバくない…?)
沙也加に目で語りかける。すると彼女も柊の言いたいことをなんとなく察し、謎のアイコンタクトで気持ちを伝えようとしてくる。
「〜〜!!!」
(…なるほどわからん)
伝えたいという気持ちだけは伝わって来る。しかし彼女が何を考えているのかは全く理解できなかった。つまり顔を見合わせての会話は不可能ということ。
父親とは出来るんだけどなぁ。何が違うんだろう。まあ今はそんなのどうでも良いか。とりあえず母が余計なことをする前に声をかけてみよう。
「えっと…まあ何かあったらいつでも相談してくれよ?」
「はい…?」
「そうよ?私たちは家族なんだから。花音がどんな悩みを抱えていても笑ったりしないし、絶対に味方でいるわ」
「……」
さっきまでしらばっくれていたが、ここでようやく神妙な表情を浮かべた。沙也加の言葉が心に響いたということだろうか。親の力は偉大だ。
でも花音は自身の悩みを話すのを躊躇っていて、下を向いたまま硬直してしまっている。だがしかしここからが母親の力の見せ所だ。沙也加は花音の横に座り、優しく背中を撫で始めた。
「大丈夫。ゆっくりで良いわ。あなたが話したいと思ったタイミングで話してくれれば。私たちはいつまでも待つわ」
母親の優しい声。それは子供にとって温かくてとても安心する声で、自然と心が明るくなるものだ。それは花音も例外ではなく、心なしか少しだけ表情が明るくなった気がする。
そして柊も花音の心を楽にするために背中に手を当てて手の温もりを伝える。
「大丈夫。きっとなんとかなる」
「柊…」
心底救われたような表情を浮かべる。そしてようやく少しだけ明るい声を出し始めた。
「ありがとうございます。少しだけ、楽になりました」
「それは良かったわ」
「ではその…私の話、聞いてもらえますか…?」
「ああ」
「ええ」
ようやく語る気力が起こったらしく、顔を上げてこちらを向いた。
そして一度深く呼吸をして勇気を振り絞り、今自分の身に起きていることを語り始めた。
「実は最近…毎日同じような夢を見るんです。私以外の誰かになって、普通の人生を歩むという夢を」
「「…??」」
二人の頭には疑問符が浮かんだ。




