鳥
異世界転生シリーズの始まりです。
異世界に転生すると鳥だった。
――鳥になって自由に空を飛んでみたい。
そう思ったことは一度や二度でない。
高所恐怖症だったからか、余計にそう思った。だから、鳥に転生したことを知った時、正直、嬉しかった。この世界で、鳥として生きて行くことができる。新たな冒険に、わくわくした。
転生した時、海原の上を飛んでいた。
陽光が波に反射してきらきらと輝き、真っ青な海がどこまでも続いていた。
周囲に鳥の仲間たちが見えなかった。陸地も見えない。どちらに向かって飛んで行けば良いのか、分からなかった。
仕方がない。風に乗って、飛んで行くだけだ。その内、陸地が見え、仲間たちがそこにいるはずだ。
俺は真っ青な海原の上をすいすいと飛んで行った。
夜になった。
陸地は見えない――と言うか、暗くなったので、何も見えないのだ。鳥目だ。陸地どころか、羽を休める場所すら見つからない。
いい加減、羽を休めたかった。
それでも海に落ちれば溺れ死んでしまう。
飛び続けるしかなかった。
朝を迎えた。
俺はまだ海原の上を飛んでいた。
風が凪いで、滑空ができない。羽ばたくのが辛くなって来た。
早く陸地を探さなければ。陸地が無ければ、船でも何でも良い。流木でも良い。とにかく、一休みできる場所が欲しかった。
俺は海の上を飛び続けていた。
夜になった。
また、何も見えない。
暗闇の中、手探り状態で、俺は飛び続けていた。
このままどこまで、いつまで飛び続ければ良いのか、俺には分からなかった。
だけど、飛び続けるしかなかった。
三日が経った。
相変わらず果てしなく海が広がるだけだった。陸地が見えなかった。
鳥の仲間もいない。
海に目を移しても、魚影を見ることがなかった。
俺はただ海の上を飛び続けていた。
一週間が経った。
もう限界だ。
休み無く飛び続けることに疲れ果てていた。何処かで羽を休めたい。そのことばかり考えていた。
板切れでも何でも良い。海の上に浮いてさえいれば、羽を休めることが出来る。
大きな魚の死骸でも良い。何でも良い。とにかく、海に浮いてさえいれば、それにとまって休むことができるのに・・・
この世界に転生して、どのくらい時間が経ったのだろう。
俺は海原の上を飛び続けていた。
限界はとうに超えていた。
このまま風が止めば、俺の体は飛行能力を失って、波間に消えてしまうだろう。
休みたい。
何処かに陸地はないものか・・・
意識が遠くなって行く。
もう羽ばたくことなんて出来ない。
俺は薄れゆく意識の中で、そう思った。




