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キングヤンマ

 私は冒険家だ。

 トング共和国にあるベイブ島に巨大生物がいると聞き、早速、ベイブ島に向かった。


――夢よ、もう一度だ。


 かつて骸骨島に住むビッグコングという巨大な類人猿を捕獲し、世界中でビッグコングの顔顔見せ興行を行い、大儲けをしたことがあった。

 二匹目のどじょうを狙うのだ。

 南国の港でベイブ島に行く船を探した。

「島の周りは岩場になっていて、しかも海流が急で、危なくて近寄れない」と、どの船長も尻込みした。

 仕方がない。

 髑髏島に連れて行ってくれた頼りない船長に連絡を取ると、直ぐに駆けつけるので待っていてくれと言われた。

 船長の船でベイブ島を目指した。

 島が近づくにつれ、海が荒れ、船は波間に漂う木の葉のように揺れた。

 気分が悪くなった。

「大丈夫なのか?」と何度も船長に聞いた。

 その都度、「分からない」と船長は答えた。頼りない男だが、操船技術はちゃんとしている。船は何とか島に漕ぎつけた。

 島に上陸する。

 滅多に余所者が訪れることのない島だ。腰に布を巻いただけで、槍を持って、顔に模様の入った原住民が群がって来た。


――殺される!


 と思ったが、熱烈な歓迎を受けた。

「我が島は観光産業に力を入れているのです。旅行者は大歓迎です。この恰好は単なる余興ですので、ご心配なく」と擦れた原住民の(おさ)が言った。

「ゆっくりお金を落としていってください」と身も蓋のないことを言われた。

 だが、「この島には巨大生物がいると聞きました。どこに行ったら、その巨大生物と会えますか?」と聞くと、途端に渋い顔をされた。

「巨大生物? そんなもの、いませんよ」

「へえ~そういう噂を聞いたのですけど」

「単なる噂です。うちは訪れる人が少ないので、根も葉もない噂が流れてしまうのです」

「残念ですね~島に巨大生物がいるとなると、どっと人が押し寄せるでしょうに」

「本当ですか⁉」

「間違いありません。観光客を増やそうと思ったら、やっぱり客寄せパンダが必要なのです」

「そうですかあ~そうかあ~」と長が考え込む。そして、「島には言い伝えがあります。キングヤンマは島の守り神です。だから、決して島から出してならない。その存在を島民以外に教えてはならないと」

「キングヤンマ・・・」

 巨大生物はキングヤンマという名前なのだ。

「だから、あなたがたに警告しておきます。島の東側、原生林を抜けると、岩肌がむき出しになって火山ガスが噴き出している場所があります。人体に有毒なガスが噴出していますので、注意が必要です。そのガス地帯を抜けると、キングヤンマの住処があるのです。決して、そこには行ってはいけません」

 忠告と言いながら、キングヤンマの居場所を教えてくれていた。



 我々はキングヤンマを目指して出発した。

 ジャングルを歩くこと一日、樹木が生い茂る原生林を抜けると、岩肌が露出した荒地に出た。火山ガスが噴き出す危険地帯だ。火山ガスを吸わないように、慎重に進んだ。

「うわっ、ダメだ。俺はここで待っている」と船長が早速、離脱した。

 はなから期待などしていない。船の操船だけやってくれれば良い。

 荒地を進むこと、また一日。

 やがて、青々とした森が見えて来た。荒地の向こうに、また森が広がっていた。森の向こうには、こんもりと盛り上がった小山が見える。綺麗な円形をしていた。傍らには、澄んだ小川が流れており、我々はここで一息入れることにした。

「生き返るようだ」

 我々が鋭気を養っていると「もし、もし」と声がした。

「何処からか声がするぞ!」

 不思議なことに、声はするのだが、姿が見えない。辺りを探し回った。すると、雑草の中から「この先はキングヤンマの住処です。近づいてはなりません」と声がした。

 雑草をかき分けると、そこには掌サイズの二人の小さな女性が立っていた。二人、そっくりだ。双子の小美人だ。

「うわっ!」

「この先はキングヤンマの住処です。近づいてはなりません」と小美人が繰り返す。

「あ・・・あなたがたは・・・?」と尋ねると、「私たちは太古の昔から、キングヤンマと共存してきた一族です」と答えた。

「キングヤンマと共存?」

「そうです。スモール・ビューティ・ペアと呼んでください」

 あら? そこは随分、世間ずれしているようだ。

「この先にキングヤンマがいるのですね」

「先代のキングヤンマが亡くなり、新しいキングヤンマの誕生を待っているところです」

「新しいキングヤンマ」

「そうです。あそこに見えるのがキングヤンマの卵です」

「ええっ!」小山に見えたのが、キングヤンマの卵だと言う。想像を絶する大きさだ。とても、我々が乗って来た船では運べそうもない大きさだった。

「あんなに大きいのですか・・・しかも、まだ卵」

「そうです。卵は火山の地熱により温められ、キングヤンマが孵化をするのを待っています」

「キングヤンマは何時、孵化するのですか?」

「分かりません。明日かもしれないし、百年後かもしれません」

「百年後! そんなに待っていられない」

「キングヤンマ~や~ヤンマ~」と小美人が歌い、踊り始めた。上手い。小さな体に似合わず、我々と変わらない声量で、しかも澄んだ高音だ。

 私は考え込んだ。莫大な費用をかけてキングヤンマを運んだとしても、果たしてどれだけの人が卵を見に来てくれるだろうか。卵を運んで、採算が取れるだろうか。

「そうだ!」

 ひらめいた。

 私は小美人、もとい、スモール・ビューティ・ペアの前にかがみ込んだ。



 タフな交渉だった。

「私たちは島を離れることができません」と渋る小美人、もとい、スモール・ビューティ・ペアと交渉を重ねた結果、私は彼女たちを町に連れ帰ることに成功した。


――何時でも契約を解消することが出来る。


 という条件付きだった。

 膨大な費用をかけて、巨大な卵を持って帰っても、最初は珍しがられるだろうが、その内、飽きられるに決まっている。その点、小美人なら輸送は簡単だ。しかも、二人、歌と踊りが得意だ。小美人コンサートを開けば、人気になるだろう。そして、世界中の人々が彼女たちの歌声に酔いしれるのだ。

 卵は島に置いて来た。

 町に来て、その歌声を披露するようになると、出す歌は軒並み世界的な大ヒットとなり、小美人は瞬く間に有名人となった。コンサートのチケットは直ぐに売り切れ、ワールドツアーも大盛況だった。

 スモールサイズの彼女たちの姿を大型スクリーンに投影し、観客が鑑賞できる「小美人劇場」を建設した。観客が押し寄せ、劇場は常に満席だった。

「ギャラは間違いなくいただきますよ」

 小美人はしっかり者だった。

 都会の仕組みを理解すると、自分たちの銀行口座を開かせ、ギャラをきちんと治めさせた。そして、SBPスモール・ビューティ・ペアという会社を設立すると、歌は勿論、関連グッズまで、自分たちに関するものの著作権、版権、肖像権など、知的財産の管理を始めた。

 ざくざくと金が入って来た。

 とにかく小美人は小さいので、お金がかからない。彼女たちの住居は、小スペースで済むし、豪華な食事であっても少量で済む。とにかく、彼女たちの生活費は安上がりだった。

「そんなに金を溜めてどうする?」と聞くと、「お金もうけは楽しい。いっぱいお金を溜めて、ベイブ島を豊かにするのです」と答える。

 小美人のお陰でベイブ島を訪れる観光客が増え、キングヤンマの卵は観光名所になっていると聞いた。

「島は豊になったと聞いているよ」と小美人に言うと、「キングヤンマはいずれ孵化します。そうなれば、私たちは島へ帰らねばなりませんし、危なくて観光客は島に近づけなくなるでしょう」と答えた。

 だから、今の内に稼いでおこうということだ。

「キングヤンマが孵化をするのは、百年後だろう?」

「百年後かもしれませんし、明日かもしれません」

「何故、孵化したら島に戻らねばならないのです?」

「キングヤンマと話が出来るのは私たちだけだからです。私たちがいなければ、キングヤンマは世界を破滅に導く恐ろしい怪獣になってしまいます」

 要は、キングヤンマをなだめることができるのは彼女たちだけだということだ。

 キングヤンマは巨大なトンボの怪獣で、卵から孵化すると、ヤゴンと呼ばれる幼虫になる。やがてヤゴンは脱皮し、キングヤンマへと変身する。小美人からそう聞いた。

 住居や衣装など、彼女たちが一流のものに拘り始めると、金がかかるようになった。ステージ衣装など、彼女たちのサイズでつくるとなると、小さすぎて金がかかるのだ。

「家が欲しい」と言うので、私の家の庭に彼女たちの家を建てた。極小サイズだが、オール電化で冷暖房完備、太陽光パネル付きの家で億単位の金がかかった。

 すると今度は、「ダイヤの首飾りが欲しい」と彼女たちの要求はエスカレートして行った。

 まただ。小美人の露出が増えると、早速、人権団体が抗議を始めた。私が小美人の無知につけこんで、彼女たちを酷使し、虐待していると言うのだ。

 冗談じゃない。彼女たちには最高の待遇を与えている。彼女たちにメディアの前で「虐待なんてされていない」と証言してもらったのだが、今度は私が彼女たちを操って言わせていると難癖をつけられた。

 もうお手上げだ。

 爆発的だった小美人の人気が一段落すると、彼女たちが、私の知らないところで株式投資を始めていたことが分かった。彼女たちは超がつく大金持ちになっていた。

 そして、ある日、家に戻ると、彼女たちが言った。


――キングヤンマが目覚ましました。私たちは島へ帰ります。


「ちょ、ちょっと待ってくれ。今、帰ると言われても、コンサートのチケットは完売しているし、ドラマのオファーまで受けてしまっているんだよ」

「ここに来る時の約束です。私たちは島へ帰ります」

「そんな・・・帰るったって、どうやって?」

「キングヤンマが迎えに来ます」

 小美人の言葉と共に、地響きが聞こえて来た。家の床がぐわんぐわんと揺れ始めた。そして、家の屋根が飛んで行った。

 屋根の上には巨大な生物がいた。

 ヤゴンだ。

 ヤゴンは水生生物なので、ベイブ島から泳いで来たようだ。

「では、失礼します~」と小美人はヤゴンと共に去った。ちゃっかり、庭につくった家を持ち去っていた。

 ヤゴンが上陸した町は壊滅的な被害を受けた。

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