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世にも不思議なショートショート  作者: 西季幽司
キャプテン・アサヒマチ
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キャプテン・アサヒマチ/スクール・ウォーズ

 キャプテン・アサヒマチは今日も町のパトロールに出ていた。

 出前用のスーパーカブに乗って町を巡回する。平和な町だ。事件なんて滅多に起きない。町の人々はキャプテン・アサヒマチの姿を見かけると、「キャップ。ご苦労様~」と手を振ってくれた。

 キャプテン・アサヒマチは、それにいちいち、笑顔で答えた。

 何時も通り、パトロールをしていると、突然、「キャップ~! 相談があるんだ」と呼び止められた。小学生くらいの男の子がキャプテン・アサヒマチに向かって盛んに手を振っていた。

「どうしたんだい?」とキャプテン・アサヒマチはカブを停め、少年のもとに歩み寄った。

「キャップ。ボク、学校で虐められているんだ」と少年が言った。

 少年はサトシと言い、サトシの話によれば、同級生のシンバたち四人から虐めを受けていると言う。サトシはダンボのように大きな耳をしている。毎日、耳たぶをシンバたちに指ではじかれる。サトシが油断しているところを狙って、背後から音も無く忍び寄ると、耳たぶを指で力いっぱい弾くのだ。

「痛っ!」とサトシが反応すると、シンバたちは「やった~」と大笑いしながら走り去る。そんな虐めを受けているのだと、サトシは泣き出しそうな顔で言った。

「ボク、それが嫌で、嫌で。ねえ、キャップ。キャップは正義の味方なんだろう? だったら、ボクの代わりに、シンバ君たちをやっつけてくれよ」とサトシは言う。

「それは・・・」とキャプテン・アサヒマチは口籠った。


――子供の喧嘩に親が出る。


 ことになってしまう。それが根本的な解決にならないことが、キャプテン・アサヒマチには分かっていた。

「何故、シンバ君に嫌だって言わないの?」

「それは・・・だって・・・そんなこと言ったら、ますます虐められるかもしれないから・・・」

「シンバ君は君が嫌がっていることが分かっていないんじゃないかな?」

「そんなことないと思う。キャップ。あいつら、やっつけてよ」

「サトシ君。僕はシンバ君よりずっとずっと強いんだ。だから、僕が彼らをやっつけたら、弱い者虐めになってしまう。虐めはダメだろう?」

「うん。虐めはダメだよ」

「そうかぁ~良い子だ。サトシ君。そうだねえ・・・う~ん」とキャプテン・アサヒマチは腕組みをして空を見上げながら考えた。そして、「そうだ!」と手を叩くと、「君に僕のとっておきの必殺技、真心百万馬力を伝授してあげよう」とサトシの肩を掴みながら言った。

「デンジュ?」

「教えてあげるってことさ。サトシ君も真心百万馬力が使えるようになるよ」

「へえ~真心百万馬力ってすごいの?」

「そりゃあ~僕の必殺技だからね」

「キャプテン・アサヒマチ必殺技~!」

 サトシは目を輝かせた。

「でもね。真心百万馬力を使えるようになる為には、辛い修行をしなければならないんだ」

「シュギョウ?」

「うんと練習しなくちゃならないってことだよ。どう? サトシ君。君は修行に耐えられるかな?」

「シュギョウをすれば必殺技を覚えることができるの?」

「そうだよ」

「じゃあ、ボク、頑張る」

「よ~し。そうこなくっちゃあ。じゃあ、今から始めよう」

 こうしてサトシはキャプテン・アサヒマチと修行を行うことになった。

 翌日から、サトシの修行が始まった。学校の帰り道、通学路にある公園でキャプテン・アサヒマチが待っている。

 公園で修業を行うのだ。

 先ずは基礎体力。ランニングから始まって、腕立て伏せ、腹筋、鉄棒の逆上がりまでやった。「ボク、もうダメだあ~」と弱音を吐くサトシに、「真心百万馬力を、必殺技を覚えたくないのかい⁉」とキャプテン・アサヒマチは励まし続けた。

 その過酷なトレーニングを目撃した下校途中の小学生たちは、目を白黒させた。

 雨の日も、風の日も、修行が続いた。

 一週間後、「キャップ。運動ばかりじゃなくて、そろそろ、真心百万馬力を教えてよ」とサトシが言うと、「まだダメだよ。真心百万馬力を使うには、体を鍛えなければならないんだ」とキャプテン・アサヒマチが答えた。

 こうして更に一週間、修行が続いた。

 サトシは修行に打ち込んだ。キャプテン・アサヒマチも感心するほどだった。

 そうやって、修行が始まって、一カ月が経った。

「サトシ君。よく頑張ったね。すっかり逞しくなった。そろそろ真心百万馬力を教えても良い頃だ」

「本当!」とサトシが喜ぶ。

「ところで、シンバ君はどうなったの?」

「シンバ君?」

「ほら、シンバ君から虐められているって言っていたろう? まだ虐められているのかい?」

「ああ、あれ・・・そうだったよねえ~そう言えば、最近は虐めを受けていないかも・・・最近、学校でキャップと一緒に何をしているのって、みんなに聞かれるんだ。だから、ボク、キャップに必殺技を教えてもらっているんだって答えるんだ」

「へえ~それで、みんなの反応は?」

「みんな、凄いねって。キャプテン・アサヒマチの必殺技を覚えたら無敵だねって」

 サトシは満面の笑顔だ。

 どうやら虐めは無くなったようだ。

 下校途中の小学生たちがキャプテン・アサヒマチと修行に励むサトシを見て、何をしているのか気になった。そして、サトシから必殺技の修行をしていると聞いて、サトシのことを見る目が変わった。畏敬の目で見るようになった。シンバたちはきっと、怖くてサトシを虐めることが出来なくなったのだ。

「修行はもう必要ないね。これで、止めても良いよ」

「嫌だよ。キャップ。ボク、真心百万馬力を使えるようになるまで、修行をしたい!」

「そうかい。じゃあ、もう少し頑張ろう!」

「はい!」とサトシが大きく頷いた。

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