キャプテン・アサヒマチ
朝日町の平和を守るスーパーヒーロー「キャプテン・アサヒマチ」の活躍を描いたショートショート集です。「キャプテン・アサヒマチ」は、そう、「キャプテンアメリカ」のパロディです。
キャプテン・アサヒマチは朝日町の平和を守るスーパーヒーローだ。
その正体は不明――ということになっているが、蕎麦屋のヒデさんであることは、町のもの皆が知っている。実際、細君は一人で蕎麦屋を切り盛りしているようなもので、訪れるお客さんに「うちの旦那、町の平和を守るんだって変な恰好をして、毎日、ふらふらして困る」とこぼしていた。
それでも、町の人間はキャプテン・アサヒマチが大好きだ。
姿を見かけると、手を振って、「キャップの姿を見ることが出来たので、今日はきっといいことがある」と言って喜んだ。
町の人々は親しみを込めてキャプテン・アサヒマチをキャップと呼ぶ。
キャプテン・アサヒマチはフットネスクラブ「ザクザク」で鍛えた筋肉隆々の体をネット通販で買った洒落た制服と防弾チョッキで包み、左手にはトレードマークの丸い楯を、右手には警棒を持っている。楯には朝日町のシンボルマークがデザインされていた。
ヒデさんは日頃、蕎麦屋の厨房で蕎麦を打っているが、町の人間が助けを求めると、キャプテン・アサヒマチに変身し、出前用のスーパーカブに乗って駆けつける。
今日も蕎麦屋のヒデさんは、蕎麦を打つ手を止めると、「助けを求める声が聞こえる!」と言い出した。
「何で助けを求めていると分かるのよ⁉」と細君が聞くと、「俺にはスーパーセンスがあって、町の人間が助けを求めている声が聞こえるのだ」と答える。
蕎麦屋のヒデさんはキャプテン・アサヒマチに変身すると店を出て行った。
途中、事故渋滞で道路が通行止めになっていた。
キャプテン・アサヒマチはスーパーカブを乗り捨てると、走り出した。
そして、一軒の家の前で足を止めると、「ここだ」と言ってチャイムを鳴らした。
「キャップ」
家から転がり出て来た少年がキャプテン・アサヒマチの姿を見て歓声を上げた。
「どうした? 少年」
「お母さんの具合が悪いんだ」
「どれ、見てあげよう」
キャプテン・アサヒマチは家に上がり込むと、母親の様子を見に行った。
ベッドに横たわっていた母親は高熱を発しており、「もし、お母さん」と呼びかけても返事が無かった。意識を失っていた。非常にまずい状況だ。
「一刻も早く病院に連れて行った方がいいな」
「どうすればいいの」
「救急車を呼んだ方がいいけど・・・」
事故渋滞で道路は通行止めになっていた。ここまで救急車は入ってくることができない。
「お願い。お母さんを助けて」
少年がすがるような眼を向ける。
「大丈夫。私に任せておきなさい」
キャプテン・アサヒマチは母親を背負った。
「病院まで遠いよ」と少年が心配する。
「心配ない。私には “真心百万馬力”があるのだ」
「真心百万馬力?」
「ザクザクで伝説のトレイナーから伝授された私の必殺技だよ」
そう言うと、キャプテン・アサヒマチは母親を背負ったまま走り出した。
早い。早い。車に負けない速度で、キャプテン・アサヒマチは母親を背負ったまま走った。あっという間に五キロの道のりを走り切った。
そして、病院に着いた。
母親は入院したが、治療が間に合い、命に別状はなかった。
少年が喜んだことは言うまでもない。
キャプテン・アサヒマチは今日も町の平和を守るために、スーパーカブに乗って走り回っている。
町の人間は、そんなキャプテン・アサヒマチに手を振り、応援する。
「キャップ! 今日も頑張ってね~」




