第肆の噂「森の魔女」⑧〜明良、狙撃される!〜
注意
・本作品はフィクションです。実在の団体、人物とは何ら関係ありません。
・この作品には一部性的な描写、暴力シーンやグロテスクな表現が含まれております。苦手な方はまた、作中に登場する心霊スポットは、すべて架空の場所です。廃墟に無断で立ち入る行為や犯罪行為を本作品は一切推奨いたしません。
森の中を進んでいくと、道がY字路に分かれた。立て看板には『左側:駐車場 右側:教会』と書かれていた。
明良は足早に教会への道を駆け出していた。さっきから、昼間に感じていた茹だるような熱気は感じられず、まるで真冬の外にいるような得体の知れない寒気がまとわりついてくる。もはやここは、この世ではない別の世界へと変わりつつあるような気がした。
死者が苦しみ、呻き声を上げる真っ暗な森はさながら地獄のようだ。こんな場所に長居していては、自分自身が引き摺り込まれる危険すら感じる。
そして、ようやく道が拓けた。
かつては教会があったと思われる場所には、土台の上に焼け落ちた木材や瓦礫が積み重なり、焼け落ちた当時のままであるような無惨な教会の焼け跡が放置されていた。
そこに、一人まるで祈りを捧げるように座っている女性の姿があった。
英美里だった。
彼女の足元には花束とお菓子が置かれ、線香からは青い煙が静かに上がっていた。英美里は両手を合わせて、瞳を閉じていた。
「中条さん!」
声をかけようと近づいた時、草むらから黒い影が動いた。
「南雲さん?」
「危ない!!」
瞬時に明良は飛び出す。坂を越えて飛び上がり、英美里の前に立ちはだかる。黒い影、やがてそれは黒い服にズボンといった黒ずくめの服装を着込んだ人間であることが分かった。白髪混じりの短く刈り上げた短髪、長身で服越しでもわかる鍛え抜かれた体躯を持つその男は、懐から取り出した拳銃を素早く身構える。
銃口が彼女を狙い定める。
男はわずかに唇の端を釣り上げた。
英美里の瞳が大きく見開かれ、固まった。
そして男の人差し指がゆっくりと引いた。
「英美里さん!!」
叫び声と共に、英美里の前に明良が立ちはだかる。
ドン。
ドン。
ドン。
素早く三発、連続で躊躇なく発射した。
その音を聞いた直後。
明良はまるで雷に打たれたような衝撃と一瞬の激痛を感じた瞬間、意識が急速に遠のいたような気がした。吹き飛ばされて浮遊感を感じた。そして全身を地面に叩き付けられる。
『南雲さん!?』
英美里の悲痛な叫び声が聞こえたような気がした。明良が何とか英美里の様子を確認しようとするが、身体が全く言うことを聞かない。鈍い痛みで意識が朦朧とし、視界がぼやける。
(撃たれたのか)
やがて身体が異様に寒く感じてきた。身体から熱が急速になくなっていく感覚に、思考さえ奪われていく。最後に感じたのは自分の手が瓦礫の上に力無く当たった感触だった。
『・・・あなたの・・・を・・・かし・・・さい』
誰かが話しかけてきた。
頭の中に響いてくる、悲痛で真剣な声色だった。
明良はそれが誰なのか分からないまま、意識は暗闇に飲み込まれた。
★★★★★★★★★★★★★★★
駐車場に着いた途端、森の奥から銃声が立て続けに三発鳴り響いた。車から飛び出した青鮫たちが顔を強張らせる。
「何だよ、今の音は!?」
「向こうからだわ!!」
獅子島と青鮫が真っ先に飛び出して、あとに続いて鷲尾とゼロ係が追いかけていく。すると森に続く林道から黒ずくめの服装に身を包んだ長身の人物が飛び出してきた。その人物は無駄のない動きで獅子島たちの隣をものすごい速さで駆け抜けていく。
その瞬間、霧江の超嗅覚が発動した。
「火薬と硝煙の匂い!」
振り返ると同時に黒ずくめの人物が振り向きざまに取り出した拳銃の銃口が霧江たちに向けられて、一発、乾いた音と共に弾丸が発射された。
「ちっ!!」
「いやあっ!!」
一斉に物陰に隠れると、黒ずくめの人物は一旦警戒するように辺りを見回し、一目散に逃げ出した。階段を駆け下りていき、男の姿はみるみる見えなくなる。
「青鮫、行くぞ!!」
「おう!!」
獅子島が鬼のような形相で走り出し、あとから青鮫、鷲尾が追いかけていく。
霧江たちが林道に飛び込んでいくと真っ暗な闇が広がっていた。青白い肌、濁り切った白い瞳、生気を感じられない死者の姿が視界に入り、怨嗟と絶望に満ちた呻き声が響き合うまさにこの世の地獄だ。霧江はむせかえるような『死臭』に身体中の鳥肌が立ち、鼻を抑えながら目頭に涙を浮かべる。
「・・・ヤバい、ここ、ヤバすぎるよ」
「ええ、おそらく森のどこかに置かれたお社か何かが霊たちをこの森に押さえ込んでいるようですが、あまりにも死者が多すぎて浄化や鎮魂が上手く作動していないのかもしれないわ。これはボスに報告しておかないと」
そう言いかけた時だった。
教会の方から、悲痛な叫び声が聞こえた。
女性の声だった。まるで誰かに助けを求めるような必死さが伝わってきた。
「あっちです!!」
「まさか、えみぽんの声!?」
牡丹と霧江の顔色が青くなる。嫌な予感を振り払うかのように走り出すと、階段を下りた先に英美里が愕然とした表情のまま座り込んでいた。
そしてすぐ近くでは、明良が横たわっていた。
ぴくりとも動かない。目は閉じられて、シャツの腹部が赤く染まっていた。肌は紙のように白くなっていた。
「明良さん!?」
「あっきー!!」
牡丹と霧江が駆け寄り、牡丹が震える手で懸命にスマホを操作し、霧江が明良に近づくと明良の腹部には止血用のタオルがきつく巻きつかれていた。英美里が止血を施したようだ。英美里はふるふると身体を震わせながら真っ青な顔でぶつぶつ呟き続けていた。
「出血を止めなければ・・・、早く病院に連れていかないと・・・、このままじゃ危ない・・・!!」
「分かってるよ!!えみぽん、しっかりして!!」
霧江が英美里を正気に戻そうと懸命に声をかけ続けるが、英美里の瞳の焦点は定まらない。
「ボス!!大変です、明良さんが、南雲警部補が!!」
『何だと!?』
明良が撃たれたことを聞いて、電話の向こう側から桜花の叫び声が聞こえた。
★★★★★★★★★★★★★★★
しくじったか。
まあ、まだいくらでもチャンスはある。
あの魔女の教えを受け継いだ忌み子の生き残りがまさか警察関係者だったとはな。そんなヤツが警察組織にいる事自体が許されざる罪であり、正義に対する冒涜だ。
そうだ、鴨川もずっと私を欺き続けていた。
私は心から彼を、彼の理想を信じ続けていた。
今の生ぬるい法制度では対処出来ないテロリストや凶悪犯を法の名の下に始末することが出来る超法規的組織、私が長年周りから批判されてきたやり方が肯定される真実の正義を発揮出来る組織を作り出す。私の信念を、彼だけは理解してくれていたと信じていた。
それなのに彼はまさか、犯罪者などと手を組んで情報を手に入れて、その情報を利用して私腹を肥やしたばかりか、その事実を突き止めようとした警察官を、テロリストどもを焚き付けて利用し、手にかけたのだ。許し難き裏切りだ。今でもあの男の顔面に拳をめり込むまで殴りつけた感触が残っている。耳障りな命乞い、嗚咽、断末魔、耳にこびりついたノイズが私の苛立ちを増していく。
あの事件に関わっていた人物、そしていたずらにこの事件に関わってきたゼロ係などと言う異端者どもの集まり、そしてかつて私の仲間だった獅子島。
彼らの存在は私が貫かんとする正義を否定し、私を貶めようとする、忌まわしい異端者どもだ。
異端者は一人残らず処刑しなければ。
疑わしきは全て罰せよ。
私の正義は正しい。私を邪魔する事、私を煩わせる存在は全て悪なのだ。悪は一人残らず罰を与えなくては。
まずは中条英美里だ。
7年前に始末したはずの異端者の生き残りを何としても始末しなければ。
もはや相手が警察官だろうと関係ない。
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