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魔物の住む町  作者: Satoru A. Bachman
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第7章 聖戦 ―ジハード(Ⅰ)―

 第7章 聖戦 ―ジハード(Ⅰ)―


 「俺が父ちゃんの仇をとるよ」

そう決意し、卓は次の日の放課後に行動を始めた。家の庭にある倉庫の中や使われていない物が沢山入った押し入れの中を何か武器になる物はないか探し回った。出てきたのは少年野球で使っていたバット。それから前にスフィアを撃ったサムライエッジのガスガン。鵺は空とはいってもそれほど高いところにいるわけではない。何か飛び道具があれば攻撃できるはずだ。

卓はラレーのマウンテンバイクに乗って楓町にあるセコハンミフネというリサイクルショップに行った。店内を歩き回り、パチンコを見つけた。スリングショットというやつだ。弾になる物は何かないだろうか。石ころよりも飛びそうな物。卓はスリングショットを買い、セコハンミフネを出て、玉寺アーケードのそばにあるホームセンターに行った。なかなかめぼしい物は見当たらなかったが、なんとなく工具が並んでいるコーナーを見ていたらベアリングボールに目が留まった。銀の鉄の弾。こいつはいい。「シルバーバレットだ」と卓はひとりごちて、それを一箱手に取り、レジに向かった。


 卓は楓川の河川敷でエアガン用の的をつけた空き缶を野球場のベンチに置いて、早速、スリングショットで撃つ練習をした。あの魔物は俺が倒す。最初の2発は外したがベンチに当たった鉄の弾がパチンと大きな音を立てて跳ね返る。3発目で的に命中した。それからまた数発は外したが、2発目に空き缶に命中すると的の紙が一部砕けて缶に穴が開いた。ガスとバイオBB弾を込めたサムライエッジのピストルに持ち替え、的を撃った。10発中7発は命中した。紐を引く際に多少は力を使うスリングショットよりも断然、銃のほうが使いやすい。ガスガンには殺傷能力はないが、生身の生き物になら充分にダメージを与えることは出来るはずだ。ガスガンとスリングショットをアウトドアのリュックにしまい、土手を上がり、マウンテンバイクにまたがって走り出した。さて、今日は、鵺はどこにいる。町や空を見渡しながら走った。


 「ヒー、ヒョー」

その鳴き声は町の南のほうから聞こえた。あっちだ。西木町側の土手を走っていた卓は橋を渡り、安房美船村へ向かった。道中、またあの裸の自己啓発おばさんを見かけた。そして、そのおばさんに泣きつく人々。路上で布団を敷いて寝転がる老人。犬にディープキスをしている若い女の人。青ざめた顔で相変わらず幽霊のように町をさまよう留学生のブルーノ・グエズ。民家の屋根の上でセックスに耽る男女。卓は変人だらけの町を駆け抜け、安房美船村の奥へ奥へと向かい、美船市営霊園が見えてきた。


「ヒー、ヒー、ヒョー」


霊園の奥に10メートル程の高さのところにぷかぷか浮いた雲の上に鵺はいた。手入れをされていない犬のような獣臭が鼻を突き刺す。

挿絵(By みてみん)

「んー、んー…」

と唸るような女の声がそばから聞こえてきた。辺りを見回すと、墓石と墓石の間の芝生に陸上部の女子マネージャーが倒れていた。

「花香!」

卓は彼女の肩を揺すった。花香は目を閉じていて意識が無い。

「ん…んー…」

「しっかりしろ、花香」

あいつに襲われているに違いない。あいつに精神を狂わされている。卓は向き直り、鵺のほうを見上げた。真っ赤な猿の顔をした化け物の銀色の眼がぎらりと光り、卓を睨みつける。そして、この世のものとは思えないような恐ろしい咆哮を上げる。いつものトラツグミのような鳴き声ではなかった。

“そこをどけ、醜い男。彼女をそのままにしておけ。そいつは私の獲物だ。皆の不安や恐怖が私の栄養となる。さあ、どくんだ、醜い男め”

邪悪な咆哮の中に鵺の意思が聞こえた。耳で聞いたのではない。卓の頭の中にメッセージのように鵺の意思が伝わる。

“美船から出ていけ、化け物”

卓は心の中で叫んだ。

“それは出来ない、この町ほど快適な場所はない”

卓の意思が鵺に通じた。彼は鵺の目玉が放つ死を思わせる陰鬱な光を見つめながら更に意思疎通を試みた。

“なんでこの町なんだ?こんな寂れた田舎が快適なのか?”

卓は鵺に問いかける。

“地図上からも見落とされがちなくらい小さい町だからこそ私は快適に生きていける。もし東京や大阪や名古屋が鬱病患者や狂った人間ばかりになったらどうなる?北京、ロサンゼルス、ニューヨーク、ベルリン、ニューデリーなどの市民の大多数が精神を狂わせたらどうなる?たちまち大ニュースだ。私の鳴き声から存在を突き止められ、殺されるだろう。だが、美船のようなこんな小さな町に鬱病患者や狂った人間、それから変質者が増えたところで注目する人間などいるものか。さあ、そこをどけ、醜い男。彼女を置いて去れ。その変態女の不安を味わっていたところなのだから”

マグマのような憤怒が卓の胸の奥から湧き上がる。

“させるか”

卓はサムライエッジのピストルを鵺に向け、引き金を絞った。ぴちっ、ぴちっ、とバイオBB弾が鵺のイノシシのような剛毛に覆われた体に当たる音が響く。

ぎょえぇぇぇぇあぁぁぁぁっ!!!!

恐ろしい悲鳴を上げる鵺。化け物は雲から地上に飛び降りる。虎の足で凄まじい速さで霊園の中を駆けていく。卓はマウンテンバイクに再びまたがり、鵺の後を追う。スピードに乗ると、一番重いギアに切り替え、飛ばす。片手でガスガンをぶっ放す。弾が命中する度に悲鳴を上げ、スピードを落とす鵺。徐々に鵺に迫る卓。だが、容易に鵺に近づくことは出来ない。鵺の尻尾である蛇がこちらを向いて今にも噛みついてこようと牙を立てているからだ。美船市営霊園を抜けると鵺は墓場のそばの空き地に逃げ込んだ。卓は追い続ける。コンコロリンと呼ばれる謎の穴がぽっかりと開いた空き地。サムライエッジの引き金を絞る。また一発命中する。雄叫びを上げる鵺。ガスガンのスライドがブローバックしたままになる。弾倉が空になったようだ。卓はバッグからスリングショットを取り出す。彼がそれを構えるよりも早く鵺はコンコロリンの穴の中へ飛び込み、姿を消した。逃がすか。卓も化け物を追ってコンコロリンの穴へ飛び降りた。





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