表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/29

12話 ドラゴンソウル

 翌日。

 朝食を食べた後、まずは村の様子を見て回る。

 魔物の襲撃から一夜が経ち、村は落ち着きを取り戻していた。

 魔物に壊された家屋の修理をしている人々が見られるが、それ以外は、特に変わったところのない、平穏な光景が広がっていた。


 この様子ならば、俺が何かする必要はないだろう。


 村人と挨拶を交わした後、薪を取りに行くという理由で村を出る。

 そのまま、少し離れたところにある森に移動した。


「おとーさん、おとーさん。これから、なにをするのー?」


 一緒に連れてきたイノリが、不思議そうにコテンと小首を傾げた。


「魔法の訓練だ」

「おー、まほー!」


 イノリの目がキラキラと輝いた。


「私、つよくなれる?」

「ああ、なれる。俺がイノリを強くする」

「やったー!」


 ぴょんぴょんと飛び跳ねるイノリ。

 そこまでうれしいのか。

 ならば、その期待に応えられるように、俺も全力で教えることにしよう。


「イノリよ。昨日、教えた魔法を唱えることはできるか?」

「えっと……」


 イノリは両手を突き出して、魔法を詠唱する。


「火のよーせよ。

 われの力は汝の……」


 すぐに詠唱が中断する。

 やはりというべきか。

 イノリはまだ子供であり、加えて言うならば、つい一ヶ月ほど前まで奴隷だった少女だ。まともな学を得ていない。

 そんなイノリが、長文の魔法の詠唱をすることは難しいだろう。


 だが、その対策ならすでに考えている。


「イノリの才能は申し分ない。魔力もある。が、魔法は詠唱をしなければ発動しない。わかるな?」

「うん……でも、えーしょーはむずかしいの……」

「今日から勉強も教えよう。知識を身につけることで、きちんと魔法を唱えることができるようになる」

「おとーさん、教えてくれるの?」

「ああ、もちろんだ」

「やったー!」

「ただ、それでは魔法を身につけるのに時間がかかる。今は、ショートカットすることにしよう」

「しょーとかっと?」


 不思議そうにするイノリに、俺は指輪を差し出した。

 寝床を後にする時に持ち出した財宝の一つ、『ドラゴンソウル』だ。


「わー、きれー!」


 イノリはニコニコしながら指輪を受け取り、身につけた。


「その指輪は、マジックアイテムだ」

「まじく……あいてむ?」

「特別な力が込められた道具、という意味だ。その指輪の能力は……そうだな、その身で体験した方が早いだろう」


 イノリの後ろに回り込んで、小さな肩に手を置く。


「いいか? 昨日と同じように、俺が教えるから、魔法を唱えてみろ。ただし、意識はその指輪に集中させろ」

「ゆびわに? うん、やってみる!」

「では、いくぞ」


 ぽん、と軽く背中に手をやり、それを合図とする。


「いいか? 十分に集中したら、こう唱えるんだ。

 火の妖精よ。

 我の力は汝のもの。

 汝の力は我のもの。

 ここに契約を交わす。

 炎の矢」

「火の妖精よ。

 我の力は汝のもの。

 汝の力は我のもの。

 ここに契約を交わす。

 炎の矢!」


 イノリが魔法を唱えた……が、魔法は発動しない。


「ふぇ……私、しっぱいしちゃった……?」

「いや、成功だ。指輪を見てみるといい」

「んにゃ? ……ふぁ! 指輪がキラキラ、めらめらひかっているよ!」

「これで、指輪に魔法が登録された」

「とーろく?」

「この指輪は、魔法の詠唱を五つまで記録することができる。一度、登録した魔法は、簡単な言葉で使うことができる。試してみるといい。詠唱の最後の、『炎の矢』とだけ唱えればいい」

「えっと、えっと……炎の矢!」


 今度は魔法が発動した。

 イノリの手から、炎で形成された矢が高速で射出される。

 炎の矢は木の幹を抉り、爆炎を撒き散らす。


「ふわぁ」

「どうだ? それならば、今のイノリでも簡単に魔法を使うことができる」

「やったー! イノリ、まほーつかいになっちゃった♪」

「確かに魔法は使えるようになったが、道具の力を借りているということを忘れてはいけないぞ」

「うん、わかっているよー。ちゃんとおべんきょーもして、いつか、私だけの力でまほーをきちんと使えるようになってみせるよ!」

「うむ。それでこそ、俺の娘だ」


 与えられた力に満足することなく、自らを高めることを忘れない。

 それができる人間は、なかなかいない。

 やはり、イノリは賢い子だ。


 偉いぞ、と頭を撫でてやる。


「ふにゃ……おとーさんのなでなで、きもちいいな♪ これがあれば、がんばれるの」

「これくらい、いつでもしてやるぞ」

「ふぁ、いつでも……なでなで天国」


 なんだ、それは?


「ひとまず、魔法を五つ、登録してしまおう。そうだな……攻撃魔法をもう一つ。残りは、回復、身体強化、浮遊魔法にしよう」

「おとーさんにおまかせ!」

「では、さきほどと同じように、俺に続いて詠唱しろ。指輪に意識を集中するのを忘れないように」

「あいあいさー!」


 そのヘンテコな返事はなんとかならないものか?

 どうでもいいことを考えながら、イノリに魔法の詠唱を教えた。



====================

イノリ 10歳 女 レベル:1

クラス:なし

HP :20

MP :60

腕力 :5

魔力 :30

敏捷 :5

耐性 :5

運  :10

技能 :ドラゴンの加護・初級魔法・上級魔法

====================




――――――――――




 夜。


「すぴかー……ふにゃ……にゃむにゃむ……」


 食事を終えるなり、イノリはすぐに眠ってしまった。

 俺にしっかりとしがみついて、寝息を立てている。


「昼はがんばったからな……さすがに、疲れたか」


 イノリの頭を撫でながら、これからのことを考える。

 ひとまず、魔法は使えるように教えた。勉強を重ねて、知識を得れば、自力で魔法が使えるようになるだろう。

 それは後々のこととして……


 イノリは、強くなりたいと言っていた。

 戦う力を求めているのだろう。

 ならば……


「次は、実戦訓練にするか」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ