13話 魔物の被害
翌朝。
イノリと一緒に朝食を食べた後、家を後にした。
実戦訓練をするための、良い場所を探さないといけない。
「あとは、家具も買わないといけないな」
「かぐー!」
隣を歩くイノリが、うれしそうに拳を突き上げる。
この様子だと、よく意味はわかってなさそうだ。
だが、そんな仕草も微笑ましい。
「ベッド、机、テーブル、椅子、タンス……ひとまずはそれくらいか」
「おでかけ? おでかけ?」
「まずは、買い物だ。その後、時間があれば訓練をしよう」
「くんれん?」
「イノリは、五種類の魔法が使えるようになっただろう?」
「うん! おとーさんのおかげ♪」
「ただ、それだけでは『強い』とはいえない。困っている人を助けるためには、『力』を身に着けないといけない」
「ちから? まほーとはちがうの?」
「魔法は、ただの武器と考えた方がいい。力とは、戦う術だ。うまく力を扱い、他者だけではなくて、己を生かすためのもの」
「ん? んんんぅー?」
イノリの頭の上に疑問符がたくさん浮かぶ。
賢い子とはいえ、さすがに難しいか。
「そうだな……簡単に言うと、魔法をうまく扱うための練習をする、ということだ。イノリは魔法を使えるようになったばかりだから、上手に扱えるとは言えないだろう? 例えば……攻撃魔法を、的に百発百中で当てることができるか?」
「むりぃ……」
「訓練をすることで確実に当てられるようになる」
「おーっ、すごいね! くんれん、すごいね!」
「大変だが、やるか?」
「やるっ!」
即答するイノリ。
何も考えていない、ということはない。
その瞳には、確かな決意の色が宿っていた。
この歳で、これだけの覚悟を抱くことができるとは……
賢い子だ。そして、強い子だ。
将来が楽しみだ。
「くんれん~♪ くんれん~♪ まほーを使うぞどんどんどん~♪」
訓練が楽しみなのか、妙な歌を歌い始めた。
こういうところは、まだまだ子供だな。
……まあ、まだ幼いのだから当たり前のことか。
「訓練はするが、先に家具を買ってからだ」
「おー、わすれてたー」
「行くぞ」
イノリの歩幅に合わせて、速度を落としながら丘を降りる。
イノリは、ちょこちょこと俺の隣を歩いていた。
途中で、何かに気がついた様子で、コテンと小首を傾げる。
「おとーさん、おとーさん」
「なんだ?」
「かぐ、どこで買うの?」
「それは、もちろん……うん?」
どこで買えばいいのだ?
この村のことは、まだロクに知らない。
どこに何があるのかすら理解していない。
というか、そもそも、こんな辺境の村に家具なんて置いているのだろうか?
「ふむ、どうしたものか」
「あっ……クロさん、イノリちゃん」
聞き覚えのある声がした。
アンジェリカだ。
笑顔を浮かべて、一礼。こちらに歩み寄ってくる。
「おはようございます」
「おはよう」
「おはよーっ!」
挨拶を交わしたところで、ふと、思いついた。
「気持ちの良い朝ですね。クロさんとイノリちゃんは、お散歩ですか?」
「いや、家具を揃えようと思ってな。この村に、家具を売っているところはあるか?」
村のことは村の者に聞けばいい。
そう思い至り、アンジェリカに尋ねると、難しい顔をされた。
「家具ですか……」
「もしかして、ないのか? 簡単なもので構わないのだが」
「あ、いえ。あるにはあるんですが、今は、品切れの商品が多いと思いますよ」
「そうなのか?」
失礼な話ではあるが、品切れになるほど、この村に人がいるようには思えないのだが……
もしかして、俺が知らないだけで、観光産業で有名な村なのだろうか?
そのような仮説を立てるが、アンジェリカは違うことを口にする。
「村を出て少しのところに、森があるのはご存知ですか?」
「知っている」
その森を通ってこの村に来たし、昨日のイノリの魔法の練習も、そこで行ったからな。
「普段はその森で木材を採取しているんですが、最近になって、魔物が住み着いてしまって……」
「なるほど、話が見えてきた」
魔物が住み着いたせいで、家具を作るための木材が採れず、商品が枯渇してしまった……そんなところだろう。
どこの村にでもよくあるような話だ。
「あの森は、他にも薬草などが採れるので、度々、足を運んでいたのですが……」
「冒険者などを雇い、討伐すればいいのではないか?」
「はい、そのつもりだったのですが、昨日の魔物の襲撃で、冒険者の方々は怪我をしてしまい……」
「あぁ、なるほど」
色々とタイミングが悪いものだ。
しかし、森に住み着いた魔物がどのようなものか知らないが……
ハンタードッグを相手に苦戦するような冒険者が、討伐できるのだろうか?
おそらく、村が雇ったという冒険者は、半人前程度のDランクの冒険者なのだろう。
そのような冒険者では心もとない。
雇うのならば、ベテランのBランク……せめて、一人前のCランクの冒険者だ。
とはいえ、村の財源がそれを許さないのだろう。
観光も何もない辺境の村だ。
高ランクの冒険者を雇う余裕はないのだろう。
Dランクの冒険者も、やっとの思いで雇ったのだろう。
しかし、ハンタードッグの襲撃で、全てが破談してしまった。
やるせない話だ。
「おとーさん」
くいくい、と服の端を引っ張られた。
見ると、イノリが何か言いたそうな顔をしてる。
すぐに娘の言いたいことを理解した俺は、頷いて見せた。
「アンジェリカ。一つ、提案がある」
「はい、なんでしょうか?」
「森に住み着いた魔物、俺たちが倒してこよう」




