「野球」
太陽は傾いてオレンジ色の光を放っている。
空は茜色だ。
「・・・・・。」
彼はただ川を眺めていた。
とくに思うこともなく見ていた。
よくは見えないが子ども達が野球の練習をしているようだ。
犬を連れて散歩をしている人もいる。
ジョギングをしている人も。
なんにもない普通の景色だ。
彼はベンチに座っていた。
そうしていると、野球ボールが彼の足元に転がってきた。
ふと、まわりを見渡すとグローブを嵌めた少年がいた。
すると彼は、
「ほらよっ。」
っと少年に向かってボールを投げた。
少年はそのボールを受け取ると
「ありがとう。」
と、彼に言った。
すると彼は、笑って野球は好きかと少年に尋ねた。
少年は元気よく楽しいと答えた。
彼は、そうかと頷き、頑張れよと言った。
少年は軽く頷き友達の元へと駆けていった。
すると彼は、ため息をついた。
そして、自分の右腕を見た。
なんにもないただの腕だ。
すると彼は、立ち上がりどこかへ歩いて行った。
誰も彼のことは気にもしないだろう。
誰も彼のことは知らない。
ましてやどうなったのかさえ誰も知らないだろう。
変わっていったのは世界だけではない。
「・・・野球か。」
彼は破棄捨てるようにそう言った。
右腕が痛む重いものばかり投げていたせいでもう投げることは出来ないと医者に言われた。
「・・・・・。」
それでも人数が足りなかった。
だから投げるしかなかった。
けれど身体は限界のはずなのに不思議と飛んで行った。
完全に治ったわけではない。
まだ、リハビリは必要だと言われている。
「・・・・?。」
彼の目の前にまた野球ボールが飛んできた。
ファールボールだろう。
河川敷のグラウンドにはさっきの少年がいた。
「・・・はは。」
彼はボールを拾い高く挙げた。
そして、彼は右手でボールを投げた。
とても長い距離を投げるようなフォームではなかった。
ただ肘を曲げて投げた。
その姿に、少年らは苦笑いをしている。
「・・・!!。」
すると彼が投げたボールは落ちるとなくまっすぐ少年のグローブにぶつかった。
少年はそのボールを取りこぼしてしまった。
しかし、誰も少年を笑うことはなかった。
彼は照れくさそうに笑いまた歩いていった。
「「・・・時間はない。」」
彼は、そう思っていた。
だから、止めなければならないのだ。
たとえそれが正義でなくても、友を裏切ることであっても・・・。




