これで、歯車が動き出す
正直全然寝れなくて、何か出来ること、したい事と思えば、とにかく前に夢で見た物語を書いてみた!
「やっと見つけたわ、アネラ。いつまでこんなところに隠れているつもり?」
その声が私を呼んでいることくらい、分かっていた。一瞬、足が止まる。
でも、ほんの一瞬だけ。呼ばれているのは私じゃないふりをして、また歩き出した。
「なんで黙ってるのよ! どうして何も言わずに消えちゃったのよ。今説明してくれないと、帰さないから」
背後から声が近づいてくる。足音も速くなった。それは怒りというより、もっと切実なものだった。ずっと、この日が来るのを怖がっていた。逃げ続ければ、いつかは忘れられると思っていたのに。でも彼女は、忘れるような人じゃなかった。
(やっぱり、無理か……)
次の瞬間、その手が私の肩を掴んでいた。抗いようもなく、無理やり振り向かされる。
「……」
「……」
今さら何を言っても、私を睨む少女――アリシアの機嫌を直せないだろう。沈黙だけが、二人の間に落ちていく。
「何も言わないの……? どうして」
アリシアの目には、うっすらと涙が浮かんでいた。その瞳は、五年前と少しも変わっていない。真っ直ぐで、まっすぐすぎて、痛いくらいだった。そんな目を見てしまえば、さすがに心が折れた。ずっと用意していた言い訳が、全部どうでもよくなった。
覚悟を決めるように深呼吸して、やっとまっすぐ目を合わせられた。
「ごめんね。でも、魔王も倒されたし、私みたいなのがそのまま王城にいるのはまずいでしょう」
「そんなの、理由にならないよ」
私の肩を掴むアリシアの両手から、食い込むほどの力が伝わってくる。きっと、かなり怒っている。いや、怒っているだけじゃない。悲しんでいる。その力の強さが、言葉にできない想いを、全部代わりに伝えてくるようだった。
「あなたが勝手に姿を消して、勝手に身を隠して、勝手に私たちを置いていっただけじゃない」
「何を隠してるのか知らないけど、納得するまでしばらくここにいさせてもらうから」
私は何も返せなかった。アリシアはもう行ってしまった。その背中を見送りながら、足が地面に縫い付けられたように動かなかった。たぶん、町の宿に泊まっているのだろう。彼女はこう言ったら、絶対に実行する。
昔からアリシアは、一度決めたら、ひたすら前へ進む女の子だった。周りが何と言おうと、自分が正しいと思った道を迷わず歩く。王女という立場すら、彼女にとっては背負うべきものではなく、使いこなすための道具だった。
「私とは全然違うね……」
少しため息をつく。とりあえず家に帰ってから、また考えよう。
久しぶりに友達に会って、昔のことを思い出した。アリシアは全然変わっていなかった。
お姫様なのに、誰よりも自立していて、勇敢で。もしアリシアに出会っていなければ、その後のことも起こらなかっただろう。
思い出に浸っているうちに、いつの間にか家のドアの前に立っていた。しばらくは静かな生活が終わるだろう。私がどうして離れたのかを素直に話さない限り、まず無理だ。
(どうせ毎日聞きに来るんだろうな……)
鍵を開けようと手を伸ばした、そのとき。ぼんやりしているうちに、突然、後頭部に強い衝撃を受けた。殴られた、と気づいたのは、視界が歪んで倒れ始めてからだった。意識が途絶える――。.
目を覚ましたとき、最初に感じたのは、ひどい頭痛だった。
後頭部がずきずきと痛む。あの一撃、本当に容赦がなかったらしい。指先ひとつ動かそうにも、体が言うことを聞かない。
(……最悪)
体を動かそうとして、自分が縛られていることに気づく。いや、縄だけじゃない。鎖だ。冷たい金属が手足に食い込んでいる。動くたびに、石の床に鎖の音が響いた。この音だけで、ここが普通の場所ではないと分かる。
周囲は薄暗い。天井が異様に高い。石造りの広間で、床には見たこともない魔法陣が描かれていた。幾重にも重なった紋様が、ろうそくの炎に照らされて、不気味に揺れている。
空気が違う。魔素が濃い。肺に入るたびに、ちりちりと肌が痛む。たぶん、ここは魔王領の奥地。それも、かなり深いところだ。
「おお、目が覚めたかね。今はどう呼べばいいのかな、騎士団長のアネラ……元勇者のアネラ……それとも、アネラちゃん?」
聞き覚えのある、けれど思い出したくない声。振り向くと、そこにいたのは、ローブをまとった男――セオドアだった。痩せた体に、異様に輝く目。五年前と少しも変わっていない。いや、その執念だけは、より深くなっているように見えた。
「……あんた、生きていたの」
「失礼だな。私はしぶといのだよ。研究に必要なのは、体力よりも執念だからね」
セオドアは嬉しそうに笑う。以前、魔王軍で古代魔法を研究していた変人。戦場ではほとんど姿を見せず、討伐のときも行方不明だった。まさか、今まで生きていたなんて。それも、こんな場所で。
「五年ぶりかな? 君は少し大人びたね。まあ、そんなことはどうでもいい。今は、君に協力してもらわなければならない」
「協力? こんな鎖で縛っておいて?」
「うむ。君はこの儀式の一番重要な部分だからね。逃げられては困るのだよ」
セオドアは魔法陣の中央を指さす。そこには、私が寝かされている。周囲には、同じように縛られた魔族や人間、魔獣がたくさんいた。みんな意識が朦朧としている。全部、祭品、か?
「何をするつもり」
「それは、この儀式が成功したらまた話そう」
セオドアは杖を掲げる。魔法陣が一層強く光り始めた。祭品たちが苦しそうにうめく。私の体にも、魔力が流れ込んでくる。まるで、魂を無理やり引き剥がされるような感覚。冷たいものが血管を這い回り、骨の髄まで染み込んでくる。
「君は、魔王討伐の中心にいた。その魂は、この地の魔素と深く結びついている。アンカーとしては最適だ」
「勝手に決めないでよ……!」
もがいても、鎖はびくともしない。魔法陣の光が強まり、空間が歪み始め。嫌な予感がする。空気が軋んでいる。世界そのものが、悲鳴を上げているようだった。
「あとは、君を生贄にすれば完成だ」
セオドアが短剣を抜く。その刃は、黒く濁っていた。光を吸い込むような、そんな色。
「最後に教えよう。私が見つけた古代魔法では、アンカーと大量の生贄と引き換えに、どうやら時間軸を歪めることができるらしい」
「君の命をアンカーに、世界を君が存在しない時間軸へ。実に、実に面白い魔法だ」
「そんなの……絶対にさせない」
「残念だが、君に止められるものではないよ」
セオドアが短剣を振り上げる。私は目を閉じた。でも――。
「アネラ!」
その声。聞き間違えるはずがない。アリシアだ。
「セオドア! そこで何をしている!」
アリシアが剣を抜いて駆け込んでくる。その後ろから、小さな光の粒が飛び出した。ローラだ。女神の侍従である小さな精霊。
「アネラ、今助けますから!」
セオドアが驚愕する隙に、アリシアの剣が短剣を弾き飛ばす。金属が石の床に落ちる音が、やけに大きく響いた。
「おやおや、招待されていない客が来たようですね。今回はこのままにしておきましょう。続きはどうなるか、楽しみにしていますよ」
黒い渦が現れ、セオドアの姿は消えた。儀式は中断された。けれど、すでに集められた魔力が暴走を始める。魔法陣の光が制御を失い、紋様がめちゃくちゃに明滅していた。
「アネラ、しっかりして!」
アリシアが鎖を切る。でも、私の体はもう限界だった。魔力に触れすぎた。意識が遠のいていく。視界の端で、ローラが必死に光を放っているのが見えた。
「アリシア……ローラ……ごめん……」
「謝らないで! 今、助けるから!」
アリシアの声が、遠く聞こえる。ローラの光が、優しく私を包む。でも、抗えない。意識の底へ、沈んでいく。
(ああ……また、迷惑かけちゃったな……)
そして、私の意識は完全に闇に落ちた。
書いたは書いたけど、やっぱり苦手ね、そんなに面白く書いてないと思うけど、やっぱりそれでも残したいから、これからも続き書きます!




