第60話 今週新しいことしかしてない
「自宅で一人でやるのも不安だろうし、何よりまだ防音設備とかないだろ? うちこいよ!」
……ということで……。
あたしはクジョーさんの家にお招きいただいたのだった!
この人、現役の格闘ゲームのプロでもあるんだそうで、ご自宅はゲーム設備に防音設備が整っている。
あたしが行ったら、奥さんとお子さんが出迎えてくれた。
奥さんと!?
お子さん~っ!?
配信者って世帯もてるの!?
「ハハハ、混乱しているようだなあ」
クジョーさんが愉快そうに笑った。
彼のゲームルームへご招待いただいて、見たこと無いくらいのハイスペPCと音響設備、さらに壁や天井、床に施された明らかに高額であろう防音処理に驚愕。
「ク……クジョーさんって凄い人だったんですね……!?」
「稼いでるだけだって。世界的なゲーム大会は、優勝すると賞金もあるからねえ。案件をもらっての配信だってやるし、俺の配信は画面のここにスポンサーの名前があるだろ? 常にそれを背負って配信すると金が入るの」
「な、なるほどー。本当にプロの方だったんだ……」
あたし、プロフェッショナルは尊敬してしまう!
「昔、ゲームは国際的な大会なんか出来ない状況でさ。俺がガキの頃はもっと規模が小さかったんだ。だけど、俺が憧れたゲーマーがいて、その人が冒険配信者になったんだよ。で、その人は仲間たちと一緒にダンジョンに立ち向かって、世界の通信を遮断していたそういうシステムを破壊した。それで世界中が繋がるようになったし、各国を行き来もできるようになったんだ」
「凄い人がいたんですねえ……。世界を変えてしまった……」
規模が大きすぎる!
あたしなんか、自分のことで手一杯なのに。
「若いうちはそんなもんだって。今は俺等に先輩面させてくれよ! いやあー、かざりさんだと女の子だからコンプラとかあって気を遣うけど、やっぱ男同士はいいなあ」
ちょっとー!
あたし中身は女子なんですけどー!
いや、確かに男としての生き方に馴染んできてしまっているけど。
「よし、んじゃバーチャルメットを被るぞ。PCかAフォンに繋ぐから。ここをこうしてな」
「はあはあ、なるほど……。なんか今週、釣りにバーチャル世界にダイブと、人生でやったことないことばっかやってますよ」
「いいことだぜー。世の中は刺激に満ちてんだ。どんどんやってこう。俺らの仕事は新しいことにチャレンジして、そいつをリスナーに見せて奴らのドーパミンをドバドバ出させる事だからな。もちろん、俺らの代名詞のゲームとかダンジョン配信を怠ったらダメだぜ。よし、じゃあダイブ!」
「ダ、ダイブ!」
ヘッドマウントディスプレイである、バーチャルメット。
視界にバーチャル世界が広がる。
あたしが降り立つ予定なのは、マチダロビー。
その前にまず、姿形をデザインしないといけないらしい。
「ええと……ひとまずあたしの姿のままで」
OKが出た。
バーチャライズしたサンダーマスクの姿で、バーチャル空間に登場だ。
「おお、きたきた」
クジョーさんは、なんか影のある、コート姿の美形みたいな姿になっていた。
な、なんだその格好~!!
いや、深くは言うまい……。
「好きな姿になれるバーチャル世界で、元のままの三十路男をやる理由がないだろ」
「言われてみれば……」
「サンダーは若くて全能感に満ちてていいねえー。今が一番キラキラ輝いてるからな? 堪能しろよ? そして大人になり、所帯を持ったりすると子ども最優先の生活になっていく……」
「現実的ですねえ……。あ、配信していいですか」
「いいぜー。うちはもうずっと配信してる」
「なんですって」
※『そもそもずっと配信流れてるぞサンダー』『サンダーが気付いてなかっただけだぞ』『年頃男子が先輩男性に導かれる様子いいわー』『この数日、サンダーが楽しそうでいいな』『あのままだと無茶しまくって死んじゃいそうだったもんね』
「あっ、チャットが一気に! まさかAフォンが隠してたのか? お、お前~」
「あるある。Aフォンって不思議なもんで、明らかに意思があるんだよな。で、一番撮れ高がありそうなアドリブをかましてくる」
「すげえ心臓に悪いんですけど!」
「わはは! まあいいじゃない。それじゃ行こうぜ。案内するよ」
クジョーさんに連れられて、バーチャル世界を歩く。
マチダロビーから、各地のゲームスペースやイベントスペース、ライフスペースへ跳べるようになっている。
「まずはライフスペースを見て回るか。ここはな、みんなで集まって大きな街を作ってるスペースだ。現実では別の立場や仕事がある人達が、ここでは店を作ったり、飛行場やサーキットを作ったりして運営している」
「へえ……」
降り立ったのは、賑やかな街の中。
港町って感じで、傍らにどこまでも広がる海が見える。
「夜になると夜景が綺麗だぞ? ここ、リアルタイムで動いてるから、昼である今はこっちも昼なんだ。……まあ、昼からああいうお店を利用するやつもいるけどな」
『おー、やっぱ授乳カフェは最高だねー。おじさんまた生き返っちゃったよ。五十年くらい若返ったんじゃない?』
「なんか赤い衣装のちっちゃい女の子が出ていったんですけど!?」
「あー、あの人はそういうお店の常連だから。中身はおじさんだから気にしないで」
見た目幼女で中身はおじさん……!!
ま、まあ、広義のあたしと明みたいなもんか。
でも、そういうお店とは?
授乳カフェとは一体……?
「興味ある? 行く? 俺、流石に行くと嫁さんに怒られるんだけど」
「あ、行きません行きません!」
慌てて返答するあたしなのだった。
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