第34話 グッズ展開にはこんな理由が……!
「ねえ社長。なんでアクリルスタンドなんですか? お金が必要なのは分かりますし、グッズを作ればみんなが買ってくれるっていうのも分かるんですけど……」
「そうだねえ。アクスタは生産も早いし、個人向けなら三百個とかをさっと注文して作ることもできるんだ。すぐに作れて、原価が安くて、欲しい人の手元にすぐ届く。それがアクスタなんだよ」
「なるほどです……!」
僕の知らない世界の話ばかり。
毎日が驚きだ。
こういう話をしているのは、受付の前。
アポイントの話をした後、担当者が来るのを待っているのだ。
受付の女性が、僕を見てニコニコしている。
「きら星かざりさんですよね?」
「あ、は、はい! ご存知なんですか?」
「もちろん! あのサバゲー配信見てて、すごく可愛い子がいるーって思ったらあなただったので! 登録しちゃいました」
うわーっ、カザトモだこの人!!
「ご、ご視聴ありがとうございます……!」
ファンサービスということで握手した。
ついこの間まで何者でもなかった僕が、偉そうに握手なんか、いいのか……!?
そ、そこまでの価値が僕に……!?
あと、今アバター被ってないんだけどなんで分かるの?
「花咲里ちゃんってもともと生身で活動してたからねえ。分かる人にはすぐ分かるんじゃない?」
「あー、そういうことなんですね」
「もっとも、上鳴くんが入って健康的な食事をしているから、最近のかざりちゃんはほどよくむちむちして来ているけど」
「えっ、太ってきてます?」
「ちょうどいいんじゃない? 前の花咲里ちゃんはちょっと神経質なくらい体型維持に気を遣ってたから」
全身が映る、鏡のような壁があちこちにあるので、その前に立ってみる。
うーん……。
確かに初めて出会った頃の花咲里さんよりも、お肉はついた気がする……。
服もサイズアップが必要になってると思うし。
この衣装で激しく動いたら、お尻とか胸が破けそうだ。
くるっと回ってみたら、うーん、この体型の方がほどよく重みがあって、戦う時に重心が取りやすいんじゃないかな。
受付さんが社長に何か言った後、にこにこで僕の姿を何枚も撮影していた。
なんだろう……。
その後担当さんが到着。
若い男の人だ。
「どうもー! BS出版の柿崎と申しますー!」
大柄な男性で、社長より一回り小柄なくらい。
眉毛が薄くて無いみたいに見える。
「あ、どうもどうも」
社長がペコペコして名刺交換をし合っている。
この柿崎さんが、僕のアクスタを出さないかって提案してきた人?
彼がこっちを見て、
「きら星かざりさんですね! ご襲名おめでとうございます! 業界ではその話題でもちきりですよ」
「えええーっ!? そ、そ、そうなんですかーっ!? あ、あ、ありがとうございます」
襲名の話題でもちきり!?
何が起こっているんだーっ!!
すぐに通されたのは、応接室の一つ。
お茶とお菓子が出た。
ああっ、最近、お菓子を見ると体が欲しがるようになってしまった。
僕がしっかり食べる生活をしたことで、花咲里さんの肉体のリミッターが外れた気がする。
「どうぞ召し上がって下さい。近くの洋菓子店のお菓子で、とても美味しいんですよ。グラブジャムンって言うそうなんですけど」
「で、ではいただきます!」
「いただいちゃおうかな」
二人で、蜜のかかったケーキみたいなのを食べる。
ああーっ。
エネルギーが全身に満ちる味がするーっ。
体が喜んでいるのが分かる。
無言で食べてしまう。
「甘っ!!」
社長はちょっと食べてから、甘すぎてギブアップした。
残りは僕がもらいますね……。
「あ、こちら企画書です。BS出版で、私がプロジェクトを立ち上げたんですが、きら星かざりプロジェクトと申しまして」
「おお……これは……本格的な」
社長が唸っている。
なんだろう。
きら星かざりプロジェクト……?
凄く大仰な名前な気がする……。
「アクスタからスタートします。数種類のバリエーションを持たせて、1ロット一万個で作成します」
「一万!?」
社長が椅子ごとひっくり返りそうになった。
「私は、これは新たな時代の転換期であると睨んでいるんですよ! あのきら星の名を、本人から正式に受け継いだのは彼女が初めてなんです! これまで、自発的に名乗って後継者を自負する配信者は幾人もいました。ですが、彼女は違う。あの人にアバターを担当してもらったところから、即座のコラボ、そして継承。配信前にお二人が雑談しながら継承するところまで、既に切り抜きが流れています」
「なんてこった……」
僕はここでやっとグラブジャムンを食べ終わり、口の中の圧倒的な甘味を渋いお茶で洗い流しているところだった。
この、甘みから渋みに変わる心地よさ……。
ストイックだった頃の僕は、一体何を楽しみに人生を送っていたんだろう。
甘味と渋いお茶、最高……!
「ご存知のように、我が社は伝説の配信者、きら星はづきとともに歴史を歩んできました。そのため、我が社の資料課にはその時の貴重な文献が大量に存在しています。これらのデータベースから読み解くと、配信者界に大きな動きがある時、この時代にも何らかの巨大な異変が起こると……そう考えられるんです」
「そ、そんな大げさな……。ファイヤー・アンド・ウインド合同会社は小さい小さい会社ですし、まだかざりちゃんもそこまでの規模では……」
なんかBSホールディングスさんのデータベースが予言書みたいになってる。
「外れたら外れた時です。会社としても、青田買いする価値のある配信者だと考えているということです。我が社はきら星かざりさんに投資します! そのための第一弾アクスタ、第二弾はミニタペストリー、第三弾でぬいぐるみを予定しています」
「す、凄いことになってる……」
僕も企画書を見たら、CGで書かれた予想図が並んでいて驚いた。
それらがカザトモの部屋に置かれている図まである。
「配信者のグッズは、配信外でもその配信者へ同接という名の祈りを届ける役割を果たします。言うなれば、祈りを受容する端末です。このターミナルから中枢である本人へと祈りが送られ、配信者を強化します。それだけなら一般の配信者も同じですが……ここに継承の物語が乗ることで、バフが掛かるんです」
柿崎さんの熱っぽい語りに、僕は圧倒されてしまった!
そ、そうだったのかー!
「な、なんだかよく分からないですけど、僕はいいと思います……!」
「そ、そう? かざりちゃんがそうなら、俺もいいと思うな。よし、じゃあ我が社としてはこの申し出をお受けします。よろしくお願いします!」
「ありがとうございます! よろしくお願いします! 良いビジネスにして行きましょう!!」
社長と柿崎さんが握手した。
大きい男性同士の握手、迫力があるな。
……なんで二人とも僕をじっと見てるの?
あ、僕も手を差し出す必要があるんですね?
すっと伸ばして、握手の上に手を重ねる僕。
なんだかビジネスが動き出した予感……。
そして僕は退魔師からどんどん離れていっている予感……。
ど、どうなってしまうんだ~っ!
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