第32話 配信、やっていこう
「今日はたまたまあたしが暇なので、普段明が何をしているのかをじっくり見定めていく……」
「ええーっ、花咲里さん来るの!? なんか緊張するなあ」
「あたしなんか命の掛かったやり取りしてきたんだからね!? ハッピーな環境で配信できる己の幸運を喜んで欲しい……。んで、なんでエコバッグから大根が顔出してるの?」
「これが今日の武器なんで……」
「だ、だ、大根が!? あ、あ、あ、あたしのイメージが!!」
どうどう。
嘆く花咲里さんをなだめて、僕は配信場所になる公園へ。
緑のAフォン……僕は風神号と名付けた。
風神号が後ろを飛んできて、撮影してくれる。
「始まりました、今日の配信。みんなの要望を受けて、武器は大根で行ってみます! とっても太くて片手じゃ持ちきれない感じなんだけど、両手ならなんとか……」
※モチョチョ『あーっいけませんセンシティブ過ぎます!』大判『手つきが……な……』『かざりん、可愛い上に無自覚センシティブか……推せる』
「ちょっと明、コメント欄キモいんだけど!」
※『外から声がするぞ!』回転『この素晴らしいボディの持ち主がいるようだな……』『ちょっと部外者(本来の持ち主)は口を出さないでくれないか!』
「な、なんだとぉーっ!? うぎぎぎぎ~っ!」
「あのう、花咲里さん、僕の配信なので今だけ静かにしておいてもらえると……。ほら、カザトモのみんなも挑発しないでね。僕だけ見てて下さいねえ。ほーら、僕しか見えなくなる、見えなくなる……」
※モチョチョ『はいぃ~』大判『御意~』回転『まさに魔性……』
よし、みんな落ち着いたぞ。
「今日の公園なんですけど、多分ここ、夜の間だけ微妙にダンジョン化するところみたいなんです。ほら、見えますか? 僕が知らない遊具がたくさんあるんですけど……」
※『あっ、掴まって回転するやつ!』『ジャングルジムだ!』『懐かしい……』『どこかのガキがこれで怪我して保護者が騒いで撤去されて行っちゃったんだよな……』『ちょ、待てよ、かざりんがこれ知らないってことはジェネレーションギャップ……』
「皆さん詳しい~! 僕、助かっちゃいます~」
※『ああ~^』『助かったんならええか^^』『かわいいねえ』『かわいい』
僕が笑顔で手を叩いて、画面に向かって手を振ると何故かみんな喜ぶ。
なんでだ……?
やっぱりこのアバターが凄く可愛いってことなのかな。
花咲里さんはAフォンの後ろでギギギギギとかしてるし。
公園に踏み入ってみると、思ったよりもずっと広くなっている。
遊具がたくさんあり、半透明な子どもたちがそこで遊んでいる。
「ちょこちょこ目撃情報はあったんですけど、なんだか全然、危険じゃなさそうなダンジョンですね……。武器持ってこなくて良かったかなあ……」
※『かざりん、それはフラグだぞー』『何かを呼び込んでしまうぞ』『さあエコバッグを腕に下げたまま大根を構えなさい』
「あっはい。こうかな。太いなあ……」
花咲里さんの手が小さいとも言う。
※『ああ~^』『グッドセンシティブ~』モデレーター『BANしますか?』『ヒエ~ッ』『堪忍してくだせえーっ!』
「あ、ちょっと待ってちょっと待って! みんなー。今の人は、うちで新しく働くことになった人です! 僕には分かんないですけど、なんかよくないことを言うと自発的にBANっていうの……? してくるみたいなんで、ほんと、気を付けて下さい……!」
※モチョチョ『かざりんの配信にリミッターがついただと……!?』回転『まあ、このままだとエスカレートしそうだったからな』
こうして、大根を両手で構えて公園ダンジョンを歩き回る僕。
半透明の子どもたちが不思議そうにこっちを見たり、近くを走り抜けていったりする。
見た感じ、危険さは感じないけど……。
「へっへっへ……、お、お、お嬢ちゃん……」
「あっ、いつの間にか眼の前に、コートを着込んだ中年男性が……! あの、コートから出てる足が剥き出しで裸足なんですけど」
※『いかん! これは……来るぞ!!』『本当に見苦しいものが来る!』『うおおーっ、かざりんの目に醜いものを映すなー!』
コメントがワーッと流れていった。
なんだろう!?
花咲里さんが慌てて駆けつけてこようとして、子どもたちにワーッと群がられて、腕にぶら下がられたり後ろから抱きつかれたりして足止めされてる!
いや、懐かれてる……?
「お嬢ちゃん……これ……見てくれーっ!! 俺を! 見てくれーっ!!」
バッとコートを広げるおじさん。
あっ、裸だ!
Aフォンが気を遣って、サッとおじさんの股間にモザイクを掛けた。
「ほどよいサイズだったので収まりましたね」
「あっ」
※『やめてあげて!』『かざりん、全く動じないぞ……』『魂のほうが見慣れてるからかも知れん……』
おじさんは大人しくなった。
だけどすぐに気を取り直し、
『女の子一人で夜の公園に来るなんて、危ないなあー!! おじさんみたいな悪い大人にいたずらされちゃうぞー!!』
グワーッと腕を振り上げて威嚇してくる!
声にエフェクトも掛かって、もしかしてこの人……ダンジョンに出現する悪霊……!?
「あのっ、悪霊だったりしますかっ……! 一応聞いとこうと思うんですけど!」
『そうだぞ! おじさんは悪霊だーっ!!』
「そうでしたか! じゃあ……えーいっ!!」
僕は大根を振り回して、おじさんの頭をぽかっと叩いた。
『ウグワーッ!!』
おじさんは叫び声をあげると、細かい粒子みたいになって消えてしまった。
コートだけがパサッと落ちる。
「まだ春先だから、絶対そのコート一枚だと寒いでしょ。今度はちゃんと着込んで出てきてね……」
※モチョチョ『もしやかざりん、何も理解していないのではないか』『恐るべし天然!』『天然かわいい』『これには変質者もにっこり』
なんだか分からないけど、丸く収まったみたいだ。
おじさんが消えたあと、公園ダンジョンもスーッと薄らいでいく。
もしかしておじさんがダンジョンのコアだった……?
「うおーっ、まとわりつかれて重かったー!! いや、くっついてくる以外、何も害を成してこないんだけどさ。なんだったんだ、このダンジョン……」
「さあ……。ダンジョンにも、人を傷つけたりしない平和なダンジョンがあるのかも……?」
何とも不思議な体験だった。
ちなみに、花咲里さんが通う僕の学校で、一年の学年主任があのおじさんにそっくりだったらしい。
も、もしかして生霊……?
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