第213話 Aギルドでお茶会を
Aギルドの喫茶室。
喫茶店というわけではなくて、物凄く広い喫茶スペースなのだ。
自販機が大量に並んでいて、好みのドリンクとお菓子などを購入、めいめい勝手に食べることができる。
食べ終えた後のゴミは分別必須。
もし散らかしたまま帰ると、個人特定の上で配信中にスタッフが凸してくる。
怖い!
「本日はインタビューにお答えいただきありがとうございます! お疲れ様でした!」
大人の人間モードになったうぉっちもんさんが、コーヒーの入った紙コップを掲げた。
りりすさん、しるふさんもコップを掲げた。
中身はチョコレートドリンクと、抹茶ラテ。
僕はコーラ。
「乾杯!」
紙コップ同士だと、乾杯しても音が全くしないなあ。
力を入れると潰れちゃうしなー。
「そう言えば、三人とも名前がひらがなじゃない?」
りりすさんが言った。
言われてみれば……。
「まあ、その方が柔らかい雰囲気が出るし。私ってかなり口調や声、RPからしても高圧的なイメージになりやすいし」
「しるふさんは配信始めるととっつきやすくなるじゃない? ツッコミどころができるから」
「突っ張りどころ?」
「あっあっ、談話室で突っ張り仕掛けてくるのやめて~」
りりすさんとしるふさんのやり取りに、僕は笑ってしまった。
面白いなー。
やっぱり配信者の妙は掛け合いにもあるよね。
漫才とかコントとかとは違う、日常会話の中で出てくるクスッと来るような掛け合い。
そういうのの積み重ねがファンの中でも積み重なっていって、唯一無二の体験になるんだなあ。
というようなことを呟いたら、お二人もうぉっちもんさんもニコニコになった。
「新鮮な感想~!! 初々しくて好き~!」
「あーっ、りりすさん距離が近いです」
「そもそもリリスはアダムの最初の妻とされている存在だったりするわけでー。つまり少年を誘惑するのはごく自然なことなのよねー」
「僕は正面切って堂々と誘惑されたのは生まれて初めてかも知れません!!」
「もしかして、かざりちゃんの初誘惑もらっちゃった!? ラッキー!」
『マスタ~!』
「現在Aフォンモードの風神号くんは手も足も出ないのであった! かざりちゃんいい匂いするね~」
「あーれー」
「おやめなさいおやめなさい」
「ウグワーッ! しるふさん突っ張りはやめてー!」
「大変面白い三人だ……」
うぉっちもんさんが何か目に鋭い輝きを浮かべている。
な、何を考えているんだろう。
「りりすさん、しるふさん、かざりさん。三人とも……期間限定ユニットで活動してみないかい?」
「期間限定ユニット!?」
凄い申し出が来た。
つまり、所属も活動年数も違う配信者が集まって、チームとして短期間活動するということみたい。
一つのコンセプトを設けて、それに沿って配信をしたり、場合によっては歌を出したりとか。
「えと、ちょっと事務所に確認します」
「かざりちゃん、一人だけ事務所所属だもんねー」
「りりすだって弟子入りしてるみたいなものでしょ?」
「あの人、普段は連絡取れないから、私はほぼフリーかなって……。しるふさんだってほら、ねえ」
「まあ前世はあるわね……!!」
前世!?
社長に電話をし、面白そうだからいいよ! という許可をもらい。
戻ってきた僕は耳慣れぬ言葉を聞いたのだった。
前世とは一体?
「それはね」
りりすさんが説明してくれる。
うぉっちもんさんは何も言わなくていいから楽ちんみたいだ。
「いい先輩後輩関係だなあ」
「企業に所属している配信者の場合、配信者名とアバターは企業の持ち物なの。だから本来、企業から卒業するとそれを持ってはいけない。場合によっては買取もできるけど、途方もない額だねー。っていうのも、持っていけちゃうとその配信者としての姿は固定資産になって、税が大変なことになるからね、企業としても財産だし、卒業した配信者の大きな負担にもなるし……ということで色々難しい問題なわけよ」
「ほえー」
そんな事があるんだなあ。
『つまりふうらいエレメンツですと、きら星かざりとサンダーマスクはほぼ自前のIPと言っていいと思います。事務所主体ではなく、自らが名乗って作り上げてきたものですから。これはマスターが事務所を卒業しても、自分のものとして使えます。ですけれど、エイミーと切崎は事務所が用意したIPです。彼らが卒業しても、これを持っていく事はできません』
「なるほどー。自前のものか、そうじゃないかで違いがあるんだ! つまりしるふさんは……」
「そう。わたくしは元・某イカルガの配信者! 誹謗中傷してくる者たちを次々法的に血祭りに挙げていたら、結局そちらを見に来たリスナーが増えたの。そんなのわたくしがやりたい配信じゃないでしょう? 古巣にも迷惑だし、スパッと辞めて今は個人で出直しているの。そして……封印していた相撲を全面に押し出した!!」
「この風の妖精系お嬢様力士という唯一無二のスタイルで、今は地位を築いてるんだよこの人。凄いよねえ」
りりすさんは、しるふさんを尊敬してるみたい。
「ありがとうりりすさん。でも、かざりさんと風の妖精で被ってしまったわね……! 風の妖精が二人いるユニットなんていいのかしら? 残る一人は悪魔コンセプトだし」
「いいんじゃない? ねえうぉっちもんさん?」
「うん。しるふさんが全てをなぎ倒す猛風なら、かざりさんは草原を吹き渡る春の風のような……春一番にもなるけど」
どちらも猛風では?
僕は内心で突っ込むのだった。
こうして、うぉっちもんさんプロデュースの、僕の新しい活動が始まった。
天使関連と合わせて、どんどん忙しくなるなあ。
本格始動は夏休みが終わった秋かららしい。
ちょっと楽しみでもあるのだった。
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