第201話 二日目は楽しんで終わり!
夜。
もう、寝た寝た。
社長とルンテさんとリーシュさんが集まって、こっそりビールで酒盛りしてたらしいけど、そんなの気付かないくらい爆睡した。
瞬平も大の字になって気絶したように寝ていた。
目覚めるとすっかり明るくなっていて、あたしたちの足元に社長が転がってガーガーいびきをかいていたのだった。
うおっ、酒くさっ!!
あまりに酒の臭いがするので、ガッシーやカマイタチが嫌がって窓際まで逃げてるじゃん。
「うお……おはよう。おお、凄いいびき。社長、酔っ払って寝ちゃったんだな。古来から酒は魔の物を清めるためにも使われていたから、苦手な子は苦手なんだろう……」
寝ぼけ眼で教えてくれる瞬平なのだった。
ほーん、なるほどなるほど。
酒を好む魔もあれば、酒を嫌う魔もある。
妖怪たちは日本の酒であれば好むが、ビールとかはあまり好きではないんだそうだ。
分からない世界だ……!
「ちょっと顔洗ってくる」
「いってらっしゃい」
部屋についている洗面所で、歯を磨いて顔を洗う。
鏡の中で、やけにスッキリした男の顔があった。
これまでずっと準備してきたイベントを成功させて、祝勝会みたいな感じで盛り上がって、それで旅館で爆睡したもんな。
うーん、成し遂げた顔だ。
この顔も完全に見慣れてしまった。
水で濡らして髪をガツッとオールバックにして終了。
よし、目が覚めた。
本日は完全なオフ。
チェックアウトの時間まで寝転がっててもいいし、温泉に入ってもいいし。
そして海で遊ぶ限りにおいては、自由。
「おはようー。俺は温泉に行ってくるわ」
社長がふらふらと出ていった。
展望風呂を使うらしい。
隣の部屋からリーシュさんもふらふら出てきたので、二人で温泉に行くんだな。
男女で分かれてるから一緒には入れないだろうけど、出てきたところで合流して二人きりで喋ったりするのかも知れない。
完全に仲を隠さなくなったな……。
もう時間の問題かも知れない。
ずっと苦労してきた人なので、社長に春が来るのは喜ばしいことだ。
それにあたしだって、アイドルじゃないかもだが歌で大きな舞台に立てる可能性もあるわけだし。
朝食はビュッフェ方式だった。
座敷ビュッフェ、新鮮過ぎる。
この宴会の間自体が軽く異界化しているそうで、汚れの類はすぐに何者かが消してしまうらしい。
それで実現した座敷ビュッフェ!
あたしと瞬平と、当たり前みたいに目がパチっとしてる明がいた。
こいつ、とにかく寝覚めがいい。
「恵美奈はダウン?」
「まだゴロゴロしてるらしいよー」
「恵美奈らしいなあ……」
パラスさんの姿もない。
ふうらいエレメンツは、シャキッと組とゴロゴロ組で分かれるようだ。
とりあえず料理を山盛り持ってきて、朝からガツガツ食べる。
明は朝から大盛りのカレーを食べていた。
「よくそんなに入るな……」
「瞬平はサンドイッチとサラダ? そんなので腹が膨れるかあ?」
「いや、目玉焼きあるし。十分じゃないか? なんで朝からそんなに食えるんだ」
あたしの場合は、食べて動けば全てエネルギーと筋肉になる。
明も同じじゃないか。
なんだかんだで似た者なのかも知れない。
食事を終えて、あたしたちは外へ。
今日はオフだという新井さんに連れられて、旅館職員だけのプライベートビーチで遊ばせてもらった。
おお、人がいない!!
「か、上鳴の水着、改めて見るとあまりにも刺激が強すぎる……」
「瞬平がかざりを見てクラクラしてるな……」
「えーっ、鎌崎さんと僕とで見知った仲でしょ。何を今更」
「いや上鳴、お前、だって女になってるんだから……! なんだその露出度は……。ぐうう」
『キュキュー!』
ふらふらしている瞬平の目を塞ぐカマイタチなのだった。
うんうん、純な瞬平には目の毒だな。
「そもそもかざり。あんた、ファノリーに毒されているぞ。そのチューブレスな水着は普通に露出度が高い」
「えっ、そうなの!? だってファノリーさんはこんなブイの字みたいな水着で」
「あれも言語道断なんだが、なんだかんだで着こなすよねあの女」
あれの近くに明を置いておいていいものなのか。
「いやー、しっかしあたいからすると、男になった明日奈の肉体もかなり目の毒だね……。本当に十代の肉体? はあー、均整が取れてて美しい……。ムラムラする」
「新井さんやめてよね!?」
目がマジだ。
あたしの心は女なんだが?
……という理屈もそろそろ通じそうになくなっている。
なぜなら!
なんか体に合わせて精神も男になりつつある気がするからだ!
やばい!
いや、やばくないのか?
なんかこの状態で上手く行ってるし。
その後、たっぷりと遊び、昼頃になった。
撤収の時間だ。
ルンテさんが呼びに来た。
「おーい若者たち、帰る時間だよー。新井さんお世話になりましたー」
「あ、はーい! こちらこそ! なんか懐かしい顔と懐かしい中身と一緒に過ごせて、楽しかったですよー」
あたしは新井さんに向き直った。
「ってことで、あたしは諦めてないんで。まだまだ前に行きます。あたしも、それからあたしの体に入ってるこいつも、二人でてっぺん取りますから見てて下さい!」
明を引き寄せて宣言する。
新井さんが目を丸くした。
それから、にっこり笑う。
「おう、期待してるぜ。二人のチャンネル登録しとくから、どんどん突き進んでな!」
彼女が突き出した拳に、あたしも拳を合わせた。
よし、託された!
「いいね、青春だねえ」
ニコニコしながらそこに拳を合わせてくる明。
「こうね、どうもね、にこやかで朗らかでちょっとむちっとした明日奈がいるのが凄く不思議な気分になるというかね……」
「サーバルも狼我さんも似た気持ちかも知れないですねえ」
「かもね! あ、それから二人が有名になったら、いつかオッターと遭遇すると思うから。そしたらよろしく言っておいて」
「うっす!」
「男みたいな返事して!」
新井さんがあたしの胸を小突いて、けらけら笑うのだった。
お読みいただきありがとうございます。
面白い、先が気になる、など感じられましたら、下の星を増やして応援などしていただけると大変励みになります。




