第19話 陰陽師事務所
「しゃ、社長の業務じゃない~!」
社長が汗だくで帰ってくるなり、編集室にあるベッドに飛び込んでいった。
なんだなんだ。
「どしたのよ社長。珍しくスーツなんか着て」
「あのねー! 俺はね、花咲里ちゃんが大いに暴れたフォローをしているんだよね! つまりね、チャラウェイさんの伝手で陰陽師の偉い人とお会いして、上鳴くんのご両親の保護を依頼したりとかね」
「あ、そうなの!? 凄いじゃん! 今までで一番社長らしい業務かも」
「……あれ? そう言えばそうなのかな……?」
「動画の編集はあたしがやって、いい感じのを流しておいたから。ほら見て! 結構再生されてる! 四桁再生数!!」
「花咲里ちゃんの動画が四桁!? あ、今は上鳴くんだったっけ」
社長のPCで、編集した動画の再生状況を見る。
これは、この間襲ってきた暴漢とのバトルを撮影したやつ。
うんうん、サンダーマスクがコンボ数で戦うヒロイックな配信者だって伝わってきてるね。
なんと、登録者数もガンガン増えてる。
さっきまで94人だった登録者数が、もう258人に!!
明の化け物みたいな増え方と比べたらあれだけど、それでもあたし史上最大の伸びなんだが!?
「相手の目が隠れきってない黒い線が、雑に引かれてる……!!」
「社長、何を戦慄してるのよ」
「ま、まあいいか! ギリギリプライバシーは守られてるし、相手は暴漢だし……って、バンのナンバー隠れてないじゃん! 見えてる見えてる!!」
「あ、それも隠すんだっけ?」
「花咲里ちゃん、こんど編集というものをしっかり教えるからね……。でも今の俺は力の限界。寝るよ……」
「せめてシャワー浴びてから寝てよね社長! 部屋が汗臭いから、散々換気しといたんだからね」
「ああ~、直射日光に弱い機材もあるから、換気するなら夜にして……! あ、そうだ。明日、空けておいてね」
社長が何かを思い出したらしい。
あたしはいやーな予感がした。
翌日。
あたしの学校帰りに社長の車が待ち受けている。
「おや上鳴くん! あれは社長さんではないですかな」
「ほんとだ。おいおい、外で男が乗った車が待ってるなんて、アイドルとしてスキャンダル……いや、もうあたしは男なんだった……」
恵美奈と一緒に車に近づくと、社長が「乗ってよ!」と助手席のドアを開けた。
「……どこ行くの?」
「陰陽師の先生のところ」
「なんで俺が?」
「退魔師と事を構えたの君でしょー! 味方につけるなら本人が行くのが一番。あちらさんも大歓迎だって」
「うええ」
「では私も……」
「恵美奈まで乗り込んできてる!?」
「……ねえ、君たちもしかして付き合ってるの?」
「付き合ってねーよ!」
社長が変なことを聞いてくる!
恵美奈と行動をともにしているのは、彼女があたしの退魔師としての秘密を知る唯一の人物だから。
クラスの他の男子は、話しかければ仲良くお喋りできるけど変な顔されるんだよね。
「上鳴くんがあまりにも雰囲気が変わりすぎてて、みんな戸惑っているのですな」
「そんなもんかあ? それくらいで?」
「ほぼ別人で、見た目が似てるだけになってますからな」
「そこまで!?」
「かざ……上鳴くん、ちゃんと上手くやってるのぉ……?」
心配げな社長なのだった。
車に揺られて到着したのは、安倍陰陽師事務所。
ここってもしかして……。
「イカルガエンターテイメントが提携してる事務所じゃん!」
「正解!」
社長はニヤッと笑った。
日々汗をかいて駆け回って、ついにここに伝手を作ったらしい。
頑張ったなあ社長……!
イカルガエンターテイメントというのは、配信者業界では知らない者のいない大企業だ。
かつて伝説の配信者、きら星はづきが所属し、今も凄い配信者が複数所属している。
年一で開催されるオーディションの競争率は、一万倍とも言われてるのだ。
「ほほう、陰陽師の……! ムフフ、オカルトの香りがしますぞ。退魔師の上鳴くんと、次は陰陽師の事務所に。オカルト運が向上してきているのが分かりますな」
ご機嫌な恵美奈なのだった。
なんだオカルト運って。
陰陽師事務所は、雑居ビルを一棟借り切って運営しているようだった。
入口はいい感じにデコられて、鳥居風のオブジェが張り付いている。
「どれどれ?」
あたしが通過する時、一瞬ビリっと来た。
わっ、本当に何かの術が仕掛けてあった?
「うわーっ!! 上鳴くん、いきなり突っ込んだねえ!? こういうの、防犯用の術が仕掛けられてたりするもんなんだよ!? なんで無防備に行ったの!?」
「えっ、そうなの!? あ、いや、当たり判定みたいなのが無かったんで……」
そう。
連続コンボ式の法術とか言うのに目覚めてから、あたしには超常現象の当たり判定が見える。
そこに当てればHit取れるなーというのが分かるわけだ。
ここにはそれがなかった。
でも、見えない当たり判定ってのもあるのか……?
「何もなかったと思いますがなー」
恵美奈も当たり前みたいな顔をして、あたしの後に続いてきた。
最後にこわごわと社長。
「あーっ、ビリっとした! なんか術が仕掛けられてるー! こわーい!」
「社長が一番女の子みたいな反応してるんだけど!」
「だって俺オーガだからね! モンスター扱いされたらこまるでしょー」
わいわい喋りながら、ビルの中へ。
そうしたら、どこからか声が響いた。
『いらっしゃい。ファイヤー・アンド・ウインドの御一行だね? 突き当りのエレベーターで最上階までどうぞ』
それは機械を通した音声という感じじゃなく、まるで耳元で囁かれる肉声のようだった。
どういうこと!?
「このビル自体に何か仕掛けがされているということでしょうな」
「恵美奈、詳しそう……」
「オカルト部ですから」
えっへんと胸を張る恵美奈。
相変わらずでかいな!
三人でぎゅうぎゅうに狭いエレベーターに乗り込む。
「あーっ、上鳴くん近いです近いです」
「社長がでかくて恵美奈に当たりそうだから、俺がこうやって壁になってんの!」
「社長さんに当たらなくても壁ドンしてくれてる上鳴くんと密着してるんですがー!」
精神的には女同士なんだからいいんじゃない?
なんか妙に、腕の中の恵美奈がポカポカと温かいのだった。
体温高いのか?
到着した最上階。
エレベーターの扉が開くと、そこはもう屋内だった。
事務室へ続く扉は開かれていて、和装の男性が立っている。
「ようこそ。当事務所の代表、安倍宇宙明です。親しみを込めて宇宙さんとお呼いただければ幸いですよ。では、伺いましょう。時代遅れの退魔師たちを、歴史の表舞台に引きずり出す話をね」
お読みいただきありがとうございます。
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