第18話 そもそも、退魔師って何よ?
「あ、お客さん連れてきたの? 来る前に教えてくれないと困るなー。うちはあれだよ? これから大人気になる配信者、かざりんを抱えたファイヤー・アンド・ウインドだよ? 内部情報が流出しちゃうなー」
編集室から出てきた社長がそんな事を言った。
さっきまで寝てたのが明らかな寝癖と、寝ぼけ眼なのに。
「社長、これ。さっき道端でボコしてきた暴漢の動画。非公開にしてあるからダウンロードして編集しといて」
「へいへい。社長遣いが荒いなあ」
事務所の冷蔵庫から麦茶を取り出した社長が、これをごくごく飲みつつ編集室へ戻って行った。
さて、あの動画、どういう風に利用していくべきか……。
あたしが考えていると、明がじーっとあたしを見ている。
「かざ……上鳴さん」
「なに……?」
なんか、妙に真剣な口調だ。
「暴漢ってどういうこと? もしかして、上鳴さんと刑部さんが暴漢に襲われたってこと!?」
「そうですぞ、ちなみに今初めて名乗りますぞ。刑部恵美奈ですぞ。どうして私の名前が知られていたのか凄く興味がありますぞ」
「本当に襲われたんだ! そんな危ないことがあるなんて……!」
「ああ、しかも退魔師って奴らよ。ねえかみ……花咲里さん。退魔師ってああ言う連中なわけ?」
「退魔師……!? 退魔師が、二人を襲って……!? だとすると……あっ、配信で法術を乗せたから……!? うああ、考えが及ばなかった! ぼ、僕の責任だあ……」
あー、頭を抱えてうめき出してしまった!!
「落ち着いてくだされー。解決していますぞー」
そこに恵美奈が手を伸ばして、元あたしだった顔をもちもちと触っている。
うんうん、化粧水とかできちんと保湿できてるみたいね。
もちもち肌が維持されてる。
「解決って……」
「あた……俺がボコボコにした。俺の法術ってやつ、仕組みを完全に解明したからな。あいつのキラキラ光る剣も殴ってへし折った」
「殴って!? 法具を!? そ、そんなとんでもないことが僕の体でできるなんて! ……何か言われなかった?」
「両親を人質にするって言われたから、だったらお前らの法術使った動画、即日世界公開するわって脅した」
「ひぃー」
恵美奈にもちもちされながら、明が悲鳴を漏らした。
「な、なんでそんな凄い交渉力を発揮するの……」
「ムカつくやつはぶっ飛ばしたくなるんだよね。幸い、今はそれができる力を手に入れたから」
アイドルとして積み重ねてきたものと引き換えにな……!
「てか、あいつらの武器も光ってたり、嫌味なパーカーのやつはカマイタチっていう見えない攻撃してきたりしたんだけど。ねえあき……じゃない花咲里さん、退魔師ってなんなの?」
「……そうですね。それ、ずっと説明しなかった僕が悪い……。あっ、なんかずっと刑部さんにほっぺ触られてるんですけど」
「今気づきましたかな? ハハハ、私のことなど気にせずに話してください」
そうはいかない。
恵美奈は当たり前みたいな顔してここにいるけど、部外者じゃん!
ひとまず社長の編集室に放り込んでおくことにした。
「ちょっとー! 社外秘~!」
社長の抗議の声はおいておいてっと。
それに社外秘ってほどのものは無いじゃん!
「さあ教えてよね。退魔師ってなに?」
「ええと……退魔師って言うのは……言うなれば悪霊や妖物を祓う役割を持った一族のことなんだ」
「ふんふん、みんなお仲間なのね」
「そう。血筋を辿ったら平安時代の芦屋道満に繋がる。陰陽師や裏の社っていうのもあって、こっちは神道系。僕ら退魔師は密教系。反目しあいながら、ずっとここまでやって来たんだ」
「なるほどねえ……。っていうか、陰陽師って本当にいたのね。たまに動画に出てくる人達、そういうコスプレなのかと思ってた」
「いるよー! 彼らは表舞台に出たけど、僕ら退魔師は社会の裏側で暗躍してた。だけど、霊郭が出現するようになってから、政府に食い込んだ陰陽師と、政府と距離を取った退魔師であきらかに勢力に差が出て……」
「あー、それで退魔師は焦ってるんだ。余裕が無いわけだわ」
全て理解した。
それなのに、未だに秘密主義で、あたしがこの体で法術とやらを使ったら慌ててそれを止めに来るわけね。
今の情報化時代、それは通らないでしょ。
何より、あたしが成り上がる邪魔をするのは許せない!
あたしは好きな時に!
好きなだけ法術を使って、この人気商売の世界で成り上がるのよ!!
「うわーっ、花咲里さんの顔、決意が固まった人のそれだあ。や、やぶ蛇……」
「そりゃあもう、あたしはその退魔師っつー連中全員とやり合う覚悟よ。そうでないと上に行けないんだから! ……あれ? じゃああたし、退魔師と仲悪い陰陽師とか、裏の社? とか言うのと仲良くしておけばいいんじゃない?」
「た、退魔師と敵対!! ぼ、僕を信じて送り出してくれた父と母が~」
「そっちも取り戻さなきゃじゃんねえ。いやあ、明、あんた色々大変なもん背負ってるのね!! ま、でもなんとかなるっしょ!」
「前向き過ぎる! 無限に障壁があるような状況なのに、なんでそんなに前向きなの?」
「後退しても何も得られるものが無いからよ! あたしはひたすら前進して、邪魔するものを全部粉砕する以外の生き方ができないの!!」
「そ、それを僕の体で……! ひーん」
「嘆くな嘆くな! あ、そう言えば社長は元配信者だし、伝手を使ったら陰陽師にたどり付かないかな……。つきそうだな……」
あたしの中でむくむくと今後の計画が立ち上がってくる。
具体的には、陰陽師と繋がりを作って、明のご両親はそっち側で保護して、退魔師と全面対決しつつ、これをエンタメとして配信していく!
明の配信とあたしの配信。
うちの事務所の2本柱として行けそうじゃない……!?
っていうか、この時代にダンジョンに全力投球せず、人間同士の争いやってる退魔師ってほんとしょーもないのではないか!
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