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9 私の姿をしたジンが男子生徒たちの心を射止めました。

 昼食の時間になりました。

 食堂に行こうとすると、チェルシー王女がジン(体は私)のそばにぴったりくっついて離れません。

 どうしてもお兄様の学校生活を見たいと言って護衛と乳母におねだりしてここに連れてきてもらったらしいです。


 人見知りが激しくて舞踏会どころか年の近い子とのお茶会もできない……と聞いていたのですけれど。

 


「チェリー、フィーネおねぇたんといっしょにたべゆ! おにーたまもいっしょ」


 チェルシー王女はそう言って、私(体はジン)の手とディオン王子の手を取りました。

 さすがジン。幼い子と暮らしているだけあって、会ってすぐに王女の心を掴んだようです。


 というか、懐かれ過ぎではありません?


 ディオン王子は私のことを苦手だったと思うのですが、なんだかジンを見てそわそわしています。


 クラスの男子、レオンハルトが「俺も一緒に飯を食いたい気分だぜ」と言って後を追い、アルフは「ぼくも今日はご一緒したくて、えへへ」などと言いながらついていきました。


 レオンハルトは昨日まで「フィーネはもっと淑女らしく清純派を目指したほうがいい。お前みたいな男勝りを嫁にしたい男はいないぜ?」なんて笑ってました。


 アルフも「エンデバーだけは嫁候補に含まれてないから安心しなよ」と宣っていました。


 そんなことを言っていたくせに、中身が子育て能力マックスのジンになったとたん、手のひらクルクル回転させてるんですか。


 貴方達の婚約者候補に入ってなくてよかった。心底思います。

 

 

 私は私で、ロザリーはじめ女子生徒がよってきました。

 そして「ジンさん。もしよろしかったら、今日の昼食一緒にとりませんか? これまでお互いのことを何も知りませんでしたし」などと誘ってきました。


 ……私の記憶が正しければ、ジンは入学してからの一年、ずっと一人で昼食を食べていました。

 うちのクラスに奨学生はジンだけです。三年に二人、奨学生がいますが一緒にいるのを見たことがありません。


 なぜいきなり食事に誘ってくるようになったのでしょう。


「遠慮しておきます」


 絶対ボロが出るのでお断りします。



「はぁ。ストイックですわ……。心に決めた女性以外になびかない殿方って素敵」


 貴女がた、これまでまともにジンと会話したことなかったじゃないですかー。


 というわけで一人で気ままに食べます。



 気弱なジンが王族の誘いを断れるわけもなく、ジンは王子王女と隣り合って座っています。


 メニューは毎回変わりますが、ワンプレートにメインとサイド、前菜の盛り合わせ。それにスープがつくので食べやすくていいです。


 川魚のムニエル美味しいですねぇ。

 付け合わせのニンジングラッセもいい甘さで美味です。


 少し離れた席にいるジンたちはというと。



「チェリー、ニンジンを残してはダメだよ」


 ディオン王子が厳しい口調で妹を叱ります。

 チェルシー王女の皿の端には、綺麗に避けられたニンジンが並んでいます。


「にんじん、やー」


「アレルギーならともかく、チェリーのはただの好き嫌いだろう。料理を残すことは恥ずかしいことだ。国民が毎日野菜や家畜育ててくれているものなんだ。しかも多くの生徒がいるここで嫌だなんて言っては」


「やぁぁぁ! おにーたまも、やー!」



 まだ四歳の子どもに、正論で詰め寄っても効果はないようです。

 チェルシー王女は涙目になり、今にも泣きそうです。


「言うことを聞いてくれよチェリー。淑女たるもの人前でそんなふうに泣いては」


 王子が妹に振り回されているとは意外です。

 ……と思ったら。


「ニンジン食べないの?」


 ジン(体は私)が、チェルシー王女の脇に置かれていたクマのぬいぐるみを持って、それをふわふわと揺らしながら話しかけました。



「ニンジンさん、チェリーに嫌われて泣いてるよ」

「えっ? そうなの? ニンジンさん、泣いてるの?」

「うん、ムーにはわかるんだよ」


 ジンはムーになりきって喋る。


「かなしいよぉ……チェルシーちゃんに食べてもらえないと、ぼくたち、さびしいんだよぉ……」


「うぅ……」


 チェルシー王女は困ったようにニンジンを見つめる。


「それにね、好き嫌いしないでたくさん食べると大きくなれるんだよ。お残ししないで食べたら、お兄様より大きくなれちゃうかもしれないよ?」


「ほんと?!」


 チェルシーの目が輝いた。


「うん。チェリーが頑張って食べたら、きっとお兄様より大きくなれるよ!」


「チェリー、がんばゆ!」


 そう言って、小さな手でフォークを持ち、恐る恐るニンジンを口に運ぶ。

 もぐもぐと噛んで──ゴクリと飲み込む。


「……たべれた」


「チェリーえらい! すごーい!」


「えへへ!」


 得意げに笑うチェルシー王女の頭を、ジン(体は私)が優しく撫でる。


 ──その瞬間。


「癇癪を起こしたチェリーを叱ることなく食べさせることができるなんて……!」

「なんて素敵なんだ、フィーネさん!!」

「嫁にほしい!」

「俺もなでなでしてほしい……」


 近くで見ていた王子はもちろん、周囲にいた別クラスの男子生徒たちの目までがハートになっています。


 いや、ちょっと待って!

 私がフィーネ本人だったとき、男子生徒たちはこんな顔をしたことがないです!!

 むしろ「怖い」か「口うるさい」「厳しすぎる」と言われて、煙たがられていたのに!!


 いま現在、フィーネ・エンデバーの中身は男ですよ!?

 本来の私はこっちよ!?


 それなのに、ジンが私の中にいるだけで、こんなに好感度最高ってどういうこと!?


 体が私で中身が男のジンなのに、ジンがお兄ちゃんスキルを発揮するたび男子の心を射抜いていく……。


 ジンが私をやったほうが人気者になるなんて、納得いきません!!

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― 新着の感想 ―
きっとクラスの皆は貴族のご令息だったりご令嬢だったりで、小さい子の世話なんてやったことないだろうし、普段リリーちゃんやマリーちゃんと過ごして小さい子に慣れているジンくんのやり方にビックリしたと思います…
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