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第81話「誤解から生まれた決裂」

ついに最終章です。

お楽しみください。

 真は深刻な顔のままこの世の終わりが来たかのような顔をしている。


 菫の姿はもう見えない。彼女はしばらく走り続け、その後ろから涼音が追いかけてくる。次第にその距離は詰められていく。


 涼音が菫に追いつくとその腕を掴んだ。菫は抵抗もせずに走っていた足を停止させる。


「菫さんっ! どうしたんですかっ!?」

「私……ずっとマコ君に遊ばれてたんだ。マコ君、あの人とカップリングしてたの。てっきり誰ともカップリングしてないと思ってた。でもそうじゃなかった」


 菫がこぼれ落ちる涙を拭かないまま話し続ける。


 カップリングは文字通りカップルになっている事を意味する。たとえそれがどのような形であっても。


「そんな風には見えませんでしたけど……」

「マコ君は誰にでも優しいから、最初はただの会話だと思ってたけど、何より私との約束をドタキャンしてカップリングした相手と当てつけのようにここでデートしていたなんて――許せない」

「それが本当なら私だって許せませんけど、真実を確かめてからでも遅くないんじゃないですか?」

「真実ならもうはっきりしてる。マコ君は私よりもあの人を選んだ。涼音ちゃん、悪いけど……今日はもう帰らせてもらうね」

「菫さんっ!」


 菫は再び快晴の中で走りだす。帰るにはまだ早い時間だ。だが彼女は一刻も早くこの場所から脱出したくてたまらなかった。


 涼音はその信念に負けたのか追いかけようともしない。


 そこに真がやってくる。京子はもう家へと帰り始めている。


「! 涼音さんっ!」

「――これはどういう事なんですか?」

「誤解です。僕がカップリングしていたのは、僕の意志ではないんです」

「真さんの意志ではない?」


 真は京子との間で起こった事を説明する。


「つまり話をまとめると、さっきまでいたあの人が真さんを脅して、真さんはそれにまんまと引っかかってカップリングする事になって今回も家族を守るためにデートに応じた……って事ですか?」

「そうです」

「じゃあ、真さんは何も悪くないじゃないですか」

「でも、僕はスミちゃんとのデートをドタキャンして、京子さんと一緒にここへ来た事は事実です。もうスミちゃんに会わせる顔がありませんよ」

「……京子さんはどうしたんですか?」

「帰りました。急用ができたと言って」

「こんな時に用事ですか」


 涼音は京子が婚活法の本当の理由を探していた事を知る。


 真が脅されていた間、色んな人に婚活法の理由を聞いていたのはそのためであると知る。


 だから最初に会った時、真さんは私に婚活法の理由を聞いてきたんだ。


 涼音は今までの真の行動を分析する。この人が嘘を吐いているとは到底思えない。


「ずっと真さんが、その京子さんって人とつき合っていたのは、家族を守るためなんですね」

「はい。でもそのためにスミちゃんを悲しませてしまったんです」

「京子さんは、きっと愛がほしかったんですね」

「えっ」

「黒杉家はその栄光の裏で、ずっと分家同士で覇権を争っていると聞いています。そんな事を繰り返していたら、家族が相手でも信用できなくなりますよ。多分京子さんも、それが原因で愛というものを知らないまま生きてきたんだと思います。でもカップリングのために人を脅しているようじゃ、真実の愛には永久に辿り着けないに決まってますよ。愛っていうのは自分のためじゃなく、自分を犠牲にしてでも相手を想う事なんですから」

「!」


 そうだ――僕は自分の保身の事ばかりを気にしていた。


 スミちゃんの気持ちも考えないで……。


「あっ! 私ったらいい歳して何言ってんでしょうね」

「いえ、涼音さんの言う通りです。僕は言い訳する事ばかりを考えていました。事実は事実なのに、僕はそれを否定しようとしていたんです。そんなんじゃ、嫌われても仕方ないですよ」

「菫さんにメールはしたんですか?」

「一応慌ててメールしたんですけど、返信の気配すらないです」

「しばらくはそっとしてた方が良いんじゃないですか?」

「……そうですね。じゃあ、僕はこれで」

「はい。元気出してください。真さんの想いはきっと通じますから」

「……はい」


 真は精一杯の笑顔で彼女の励ましに答える。


 2人はそこで解散する。


 去って行く真の姿が段々と小さくなっていく事に、彼女は口惜しいとさえ思う。


 涼音は菫を想う真の気持ちを応援してしまった事を後悔する。


 何で……きっと通じますからなんて言っちゃったんだろ。真さんと距離を近づける最大のチャンスだったのに。でも……そんな方法で真さんと一緒になっても、何か違うなって思う自分がいる。


 彼女は菫を裏切りたくなかった。


 そんな方法で真の心を手に入れようとしても真実の愛には辿り着けない。誰しもが簡単に黒杉家の人間のようになってしまいかねない事を彼女は自覚するのだった。


 その夜、奏が会社から帰ってくると、彼女はすぐに真の異変に気づく。


 真の様子がおかしい時は仕事を一向にしようとしない。モチベーションがない時に仕事をしようとは思わない。奏はそんな真の心情をよく知っていた。


 そして奏は夕食を作ると、真をいつものように呼び出すのだった。

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