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第79話「煽りと焦り」

 2人の間にはとても気まずい空気が流れている。


 友達でも良いならと言う彼の優しさは、彼女には心を痛めつけるものだった。それは恋愛において事実上のお断りだからである。


 しばらくは2人共そこに立ち尽くす。


 2時間前――。


 真が京子と一緒にアトラクションを回っていた頃、菫はドリームランドで涼音と食事中であった。テーブルの上にはドリームランドの世界観を意識したメルヘンな料理や、名物となるキャラクターの形をしたスイーツが並べられている。


 店内には大勢のドリーム通と呼ばれるファンたちが食事を楽しんでいる。


 季節を問わず満員御礼であり、菫も涼音もやっとの思いで席を確保できたのだが、夢の国であるにもかかわらず、人気であるが故に行列に並ばされるという現実を突きつけられ、2人共精神的に疲弊しているところだった。


 彼女たちは2人でメルヘンな料理を食べている。


 菫の向かい側には涼音が座っており、お互いに注文した料理を眺めている。菫は以前涼音と出会って以来、共に遊びに行くようになっていたのだ。菫はそんな彼女と一緒に過ごす事に慣れ始めていた。


「無事に内定取れて良かったね」

「はい。一時はどうなるかと思いましたよ」

「就活と学業と婚活を並行してやるなんて、私だったら絶対無理かも。あっ、ごめんなさい。夢の国に来てるのに、何で現実の話しちゃったんだろ」

「良いんですよ。それより、何で私を誘ってくれたんですか?」


 彼女がさり気なく誘った理由を聞くと、菫は一瞬ためらってしまい、どこか申し訳なさそうな顔をしながら食事の手が止まる。


「……えっと……その……マコ君が急に来られなくなっちゃったからなの。別にその、代わりっていうわけじゃないんだけど、1人で行くのが寂しかったから」


 菫は怒られるものばかりだと思っていたが、涼音は嘘をつけない彼女にそっと微笑みを浮かべる。


「そうだったんですね。マコ君って、真さんですか?」

「うん、ずーっと一緒にここに来れる事を喜んでいたのに、ドタキャンされちゃって」

「酷い――でも、そんな事をするような人には見えませんでしたよ」

「きっと何かあったんだと思うけど、せめて断った理由を聞いとけば良かったぁ~」

「まあまあ、済んだ事は悔やんでも仕方ないですよ」


 涼音が菫をなだめるように言って落ち着かせようとする。


 私以上にずっと大変なのに、ここまで人に気を遣えるなんて……私もまだまだだなー。


 菫はそんな事を考えながら彼女の心遣いに感心する。


 ふと、2人が外の風景を眺めていると、そこには親子で遊びに来ている人々が何組もいる事に菫は気づいてしまう。


 あの親子、凄く楽しそう。


 私も――マコ君とあんな風に過ごせたらなぁ。


「菫さん、顔赤くなってますよぉ」

「えっ!」

「もしかして自分の将来でも想像してたんじゃないんですか?」

「……私もいつかは、あんな風に子供と一緒にここに来るのかなって」

「子供欲しいんですか?」

「いや、できればだけど……今は、無理かな」

「無理だって思っている内は無理ですよ」

「!」


 涼音が唐突に菫の弱気を指摘する。


「真さんの事、好きなんですよね?」

「えっ! ええっ!」

「また顔赤くなってますよ。もういい加減認めたらどうですか?」

「――うん。私、マコ君が好き。多分、この気持ちは今に始まった事じゃないと思う。きっと、ずっと前から……でも、普段のマコ君は意気地なしで、全然告白すらしてくれないの」

「だったら自分から告白すれば良いんじゃないですか?」

「えっ、私から? でも私、女だよ? こういう時は男の人から告白するべきじゃないの?」

「あなたはいつの時代の人なんですか?」

「今の時代の人だよ」


 すると涼音が、「はぁ~」とため息をつき、真剣な眼差しで菫を見つめる。


「えっ! もしかして私が好きなの? わっ、悪いけど、私にはもう既に好きな人がいるから、気持ちは嬉しいけど友達でいてほしいの」

「何勘違いしてるんですか?」

「勘違い?」

「作曲家の想像力が半端ないのはよく分かりましたが違います。良いですか? あなたは今、真さんに置いて行かれるかどうかの瀬戸際にいるんです」

「瀬戸際っ!」

「そうです。真さんも受け身タイプなんですよ。つまり真さんは菫さんからの告白を待っているって事なんです。ドリームランドでのデートをドタキャンするって事は、菫さんがなかなか告白しないから、それで一度断って様子を見ようと思った可能性があります」

「そうなのっ!?」


 この人、もしかして疑う事を知らない?


 いや、正直すぎるだけかも。悔しいけど、菫さんと真さんの相性の良さにはとても叶わない。ここは2人をくっつけるお手伝いでもしてやりますか。


「あくまで可能性です。でもそも可能性がゼロという保証もありません。でも真さんだったら、きっと色んな人とカップリングとかしてるんだろうなー」

「そんな事ないよ。だってマコ君は元々引きこもりで、意気地がなくて、いつもぼっちでいるような人なんだから」


 真さん可哀そう。でもそれだけよく知ってるって事なのかな?


 涼音は内に秘めた思いを隠しながら菫のサポートをする事を決断する。それがどのような結末を生むのかを、涼音はまだ知らない。


「じゃあ、真さんがぼっちでいる間に告白しないといけませんね」

「で、でもっ」


 菫は焦りながらも告白して振られた時の事や、告白しないまま真が他の女と一緒になってしまった時の事を想像する。


 どちらも菫にとっては受け入れがたい展開だ。涼音はそんな彼女の弱みを見抜いていた。行くも地獄戻るも地獄、そんなあおりを受けた菫はある決断をする。


「……分かった。今度のデートでマコ君に告白する」

「その意気です」

「ふぅ、今日は涼音と一緒に過ごせて良かった」

「何言ってるんですか。まだまだデートはこれからですよぉ~」

「なっ、何か企んでそうだけど、これからどうするの?」

「ジェットコースターに乗りましょうよ」

「!」


 菫は咄嗟にニュースでよくあるジェットコースター事故を思い出す。


 もはや断る気力さえ失ったまま、2人は会計を済ませて店を出るのだった。

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