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第66話「癒しの空間」

 真凛は自らの傲慢さに気づかされると共に己のしてきた行動を悔いる。


 自分の事なのに他人から指摘されるまで気づけなかった。そんな自分自身に彼女は苦悩する。一体自分は何を目指していたのかと。


「私、ずっと誰かに幸せにしてもらう事ばっかり考えてました。相手には求めてばかりなのに――私は相手に対して何の対価も与えられていなかった。いや、与えようともしなかったな――」


 真たちに話すというよりは、自分自身に言い聞かせるために話すという感覚であった。


「真凛さんは何で結婚したいって思ったんですか?」

「勝ち組になりたかったんです。ニュースで芸能人同士の幸せそうな結婚を何度も見ている内に、自分も向こう側に行きたいって思ったんです。でも肝心の本命からはずっと振られ続けて、仕事でも失敗して、ホント駄目ですね。私って」


 奏さんにはあんな偉そうな事を言っておいて、私だって散々なのに――はぁ~、私、何してんだろ。もう自分が分からない。


 彼女はそんな事を考えながらうつむく。


 自らの無力さが彼女の心を一層傷つける。


「そんな事ないですよ」

「えっ!?」

「僕は何かに対してそこまで真剣に取り組んだ事もなければ、人生の事も全然考えてこなかったような人間なので、真凛さんみたいに、何事にも一生懸命になれる人が羨ましいです」

「!」


 真凛が真の言葉に驚きながらほっぺを赤く染める。


「普段のマコ君はずっーと平和な日常が続けばそれで良いって思ってる事なかれ主義だもんね」

「それは否定できないけど、僕だって頑張ればできるし」

「どーだか。じゃあアフィリエイト極めるの?」

「――来年から本気出す」

「それ絶対本気出さない人の台詞だよ」

「ふっ、ふふっ」

「「!」」


 真凛が吹っ切れたかのように笑い出す。


 真も菫もそれを見て驚くばかり。


 真凛にはこの2人がまるで本当の恋人のように見えたのだ。言いたい事を包み隠さず言い合える2人は、ずっと言い男を獲得するために建前ばかりを言い続けていた真凛にとっては心底微笑ましい光景であった。


「あのー、何かおかしな事言いましたっけ?」

「いえ、何だかずっと馬鹿みたいに真剣になっていた自分があほらしくなってきちゃって。これからは真さんを見習って、もっと気を抜いて生きようと思いました」

「マコ君をお手本にしたら駄目ですよ。サボり癖がついちゃいますから」

「酷いなー、僕だっていつもサボってるわけじゃないのにー。それに僕の場合は労働時間が決まってないから、サボりじゃなくて休憩って言うんだよ」

「ふふふふふっ! あはははははっ!」


 真凛がさらに笑いだし、2人の会話をコントのように楽しむ。


「何だか元気が出たみたいで何よりです。じゃあもう行きましょうか」

「あー、もうこんな時間かー。もっといたかったです」

「あはは……」


 真たち3人は居酒屋黒杉を後にする。


 この時も東京には多くの人々が歩いており、その勢いはとどまる事を知らない。


 3人は解散しそれぞれの家へと帰っていく。


 かと思いきや――。


「真さん、ちょっと良いですか?」


 真の後ろから明らかに彼に話しかける声が聞こえる。彼が後ろを振り返って声の正体を確かめる。それはさっき解散したはずの真凛だった。


「真凛さん、帰ったんじゃ」

「私も途中までは一緒なので――あの、菫さんとは仲良いんですか?」

「いえ、幼馴染ですけど」

「そうですか」


 真と菫の仲を確認すると、彼女はホッとしたように笑みを浮かべる。


「じゃあ、私とつき合ってみませんか?」

「ええっ!?」

「そこまで驚かなくても良いじゃないですかぁ~。お試しでも良いんです」


 どっ、どうしよう。そんな事したら浮気になっちゃう。スミちゃんとはキスまでしちゃった手前、そうやすやすと他の女性ともつき合うわけにもいかないし、かといってスミちゃんとつき合ってるわけでもないし、あぁ~、どうしようぉ~。


「真さん?」

「あっ、いえ、こっちの話です。えっと、友達としてなら構いませんよ」

「……そうですか。じゃあそれで構いません。じゃっ」


 真凛はそう言うと、安心したような顔で真の元から去る。


 途中まで同じ道だって言ってたのに、明らかに逆方向に行ってるような気がする。


 まあいっか。それにしても、スミちゃんとキスしてから、ずっとスミちゃんの事ばっかり考えてる気がする。気のせいかな――。


「まことー、おい、真っ!」

「えっ、な、何?」

「さっきからずっと飯ができたって言ってるのに、このごろずっとボーッとしてるな。スミちゃんと何かあったのか?」

「い、いやっ! 別にそんな事ないからっ!」

「分かりやすいな」

「姉さんは今日休みなの?」

「んなわけねえだろ。今日も婚活イベントの日だ。真も早く行く場所決めとけ。マリブラは待ってくれないからな。早く来いよ」

「う、うん、分かった」


 あのデートから1ヵ月が経過し、真は菫とのキス以来、ずっと彼女の事が磁石のように頭から離れなかったのである。その後も真は菫と度々デートを繰り返す。


 奏は婚活イベントがもはやメアド交換会のようになっており、そこで樹と度々会っていた。


 そして今日も2人は共に食事の時間を過ごすのだった。

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