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第65話「薄幸の女」

 真たちはおすすめセットを食べながら雑談を続ける。


 店に入ってから30分が経過し、真凛はすっかり真とも打ち解けていた。真と菫が『ダイキリ』を飲む中、真凛は『ビール』を中年親父のように飲み干す。


 彼女はすっかり羽目を外していた。


「ぷはぁー! やっぱ婚活が終わった後のビールってサイッコー!」


 彼女はジョッキに入ったビールを半分まで飲み、口の周りにはビールの泡がついている。酒には強いもののすぐに陽気な性格になる。


 それは今までの出来事を全て忘れようとするかのように。


「お酒強いんですねー」

「そうですねー。奏さんと度々飲んでますから」

「何かまるで嫌な目に遭った人みたいですね」

「――分かります?」

「えっ! ……まさか本当にそうなんですか?」

「はい」


 さっきまで酒の勢いから陽気さに拍車がかかっていた真凛が突然斜め下を向き、ほんのりと不安気な顔で語り始める。


「私、今日の婚活パーティで『本命』から振られたんですよぉ~」


 彼女は罪の自白をするかのように顎を机に密着させながら嘆くように話す。真も菫もゴシップにはそこまで興味はないものの、真剣に話を聞いている。


「本命から振られたって、どういう事ですか?」

「はっきり申し上げますと、私はハイスペックな男にしか興味がないんです。イケメンで金持ちで見た目もスタイリッシュな人と結婚したくて婚活を始めたんですけど、今日、本命の人に告ったらまさかの交際拒否ですよ。理由なんだと思います~?」


 真凛が目を半開きにして下を向きながら真たちに問う。


「欲望が表に出たからじゃないんですか?」

「だったらまだ良かったんですけどね。もっと残酷な理由ですよ」

「残酷な理由?」

「――私、『母子家庭』なんですよぉ~。小さい頃からお父さんがいなくて、それでお母さんは毎日バイトしながら子育ての毎日でした。でも私が高校生の時に今までの無理が祟って倒れたんです。それで今は家で療養中の身で、私はバイトをしながら大学を卒業して就職したんですけど、お母さんの教えを守って誰に対しても笑顔で気さくに接するようにしてたんですけど、危うくそれが原因で大事な取引先を失うところでした。そしたら今度は母子家庭で親が療養中の身である事を理由に交際を断られたんです。多分介護が嫌なんでしょうねぇ~。これでもう5回目ですよ。私は幸せになりたいだけなのに」

「「……」」


 思ってたよりずっと深刻な話だなー。


 つまり真凛さんが美人なのに結婚ができてないのは、療養中の親がネックで本命から何度も交際を断られ続けた……という事なのかな?


「じゃあ、真凛さんにキープ君が3人いるのって――」

「はい、私の稼ぎだけではお母さんを養う事ができません。だから私の事を気に入ってくれているキープ君たちに貢いでもらってるんです」


 真凛は母子家庭という事もあり貧しかった。毎日泥水をすするような思いで生きてきた反動でハイスペックな男を求めるようになった。


 自分はこれだけ頑張ってきたのだから、自分は相当な対価を貰ってしかるべきなのだと。


 しかしその欲望が強ければ強いほど男が離れていく。彼女は婚活地獄に陥っていた。


 彼女の服装や身に着けている宝石は比較的高級である。指にはダイヤモンドがはめ込まれた指輪、手首の近くには有名ブランドの腕時計。


 真はこれがキープ君たちに貢いでもらったものである事を理解する。


「真凛さんがカップリングできない理由が分かった気がします」

「母子家庭だからじゃないんですか?」

「いえ、もっと残酷な理由ですよ」

「残酷な理由?」

「真凛さんは、まだ人を好きになった事がないんだと思います」

「!」


 いきなり核心を突かれた真凛が青ざめている。


 真はそんな彼女を憐みの顔で見つめ、菫はそんな2人を空気と一体化しながら見守っている。出されたメニューはアルコール以外残っていなかった。


「何でそんな事が言えるんですか?」

「真凛さんがその本命を好きな理由です。その理由は何ですか?」

「それはもちろん、スペックが良かったからですよ」

「そこですよ。スペックっていうのは本来であれば機械に対して使う言葉です。それを人に対して用いている時点で、男は自分にとって都合の良い道具だと言っているように聞こえるんです。それが言動に表れているからこそ、道具のように扱われる事が相手に伝わってしまっているんです」

「……」


 真凛が勢いを失ったように黙ってしまう。


 彼女にとって真の言葉は酔いが醒めるほどの一撃であった。


 ぐうの音も出ない正論に彼女は何も言い返せなかった。


 自分にとって男はのし上がるための道具と化している。その事実を認めたがらない自分と闘いながら反論の言葉を探す。


「あの、私は恋愛とかした事ないんでよく分からないんですけど、私は相手に条件を求めた事って全然ないんです」

「えっ!」

「私は幸せになるよりも、誰かを幸せにしたい気持ちの方が強いんです――そういう気持ちがないと、良い曲って作れないので」

「幸せにしたい気持ち……」


 真凛は自分が幸せになる事は考えても、誰かを幸せにしようと思った事はなかった。


 それに気づかされた彼女は、今までの行動を振り返るのだった。

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