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第49話「思わぬ助っ人」

 奏と政悟はお互いを睨み合っている。


 そのそばには樹と忠典が倒れている。


 2人は痛みで立つ事もままならない状態であった。


 成す術もないまま奏は政悟に引っ張られていく。


「離せっ!」

「躾のなってない庶民には教育が必要だ。さあ、行くぞ」


 樹が政悟の足を掴む。


「そいつを離せ。何でそいつに執着するんだっ。ぐわあああああぁぁぁぁぁ」


 政悟は無言のまま掴んでいた手を踏みつける。


「て……てめえ」

「庶民が、この俺に触れるな。汚らわしい」

「あたしもその庶民の一角なんだがな」

「お前には教育が必要だと言っただろう。さあ、行くぞ」

「奏……に、逃げろ。そいつは――」


 樹たちはそのまま地面に這いつくばるしかなかった。


 殴られた箇所はどこも急所だった。それは立ち上がる気力さえ奪うほどに屈辱だった。


 奏と政悟は2人きりになり、奏は相手の方が上と認めたのか大人しくなる。


「これからどこへ行くんだ?」

「決まってるだろ。ホテルだ」

「ホテルで何をする気だっ!?」

「俺は生意気な庶民と一夜を共に過ごしてポイ捨てするのが日課でねー。君にも教えてやろう。庶民が俺たちに逆らうとどういう事になるのかをな」

「サイッテーな趣味だな」

「あ?」

「そんな奴が総理大臣の息子だって知ったら、みんなさぞがっかりするだろうな」

「俺たちは法律も司法も思うがままだ。もし口外すれば君は名誉棄損に問われ、社会的に抹殺される。他の家族と共にな」

「!」

「俺が何故清廉潔白と言われてきたか、よく分かっただろう」


 奏は政悟に手を繋がれたまま、人通りの少ない場所を歩く。家族を人質に取られていた彼女は逆らえなくなっていた。


 傍から見ればカップルのようにしか見えず、誰も彼らを疑う事はなかった。


 ただ……1人を除いては。


「ちょっと良いかな?」

「何かご用でしょうか?」


 突然カジュアルな格好でサングラスをかけた男が話しかけてくる。


 さっきまでの顔に戻ってる。みんなこの顔に騙されてきたんだな。


 政悟が普段の表情に戻ると、奏がこの二面性に驚く。


「黒杉政悟、その女をどうするつもりだ?」

「どうするも何も、これから遊びに行くんですよ。ねっ?」

「え……ええ」

「とてもそんな顔には見えないな。さっきお前がボコった2人から証言を貰った。もしこのままこの女を連れ回すようなら、あの2人の証言をネットニュースに流す」

「貴様、この俺を脅すとはいい度胸だ。お前がいる新聞社もろとも潰してやろうか?」

「あいにくだがそれは不可能と思え。うちの新聞社は全てのニュースが電子化されていて個人単位で活動できる。もちろん専用のオフィスもない。それにうちは失うものが何もない連中ばかりなんでね」

「無敵の底辺庶民がジャーナリストとは、随分と厄介なマネをしてくれるじゃないか。この女とその家族がどうなっても良いのか?」

「構わん。その代わりお前がしてきた事を証拠ごとニュースに流す」

「……ふんっ。お前、名前は?」

「赤羽慎吾、ジャーナリストだ」


 2人を止めたのは慎吾だった。慎吾がそう言うと政悟は繋いでいた手を離し奏を解放する。掴まれていた部分は赤くなっていた。


「その名前、覚えておこう」

「もう1つ覚えておけ、貴様らは必ずこの俺が潰す」


 慎吾は両腕の握りこぶしをプルプルと震わせながら憎しみに満ちた顔で政悟を睨みつける。


 彼はそのまま黙ってスマホをいじり始め、少し遠くに泊まっていた黒い高級車を呼ぶと後部座席に乗り立ち去っていく。


「あの……さっきは助けていただいてありがとうございます」

「危ないところだったな。君の幼馴染に感謝する事だ」

「えっ?」

「俺は少し前に黒杉政悟がここにきているという情報を聞きつけて会場まで行ったんだが、あの立花とかいう男が本多という男と一緒に倒れていてな。ありのままの情報を全部吐いてくれたよ。通常なら暴行の罪で訴えるところだが相手が悪すぎる。その男が君を連れ出したと聞いて後をつけたわけだ。黒杉一家は東京では有名だからすぐに見つけ出せたというわけだ」

「もしかして、うちの弟と組んでいるジャーナリストというのは――」

「ああ、俺の事だ」


 慎吾は黒杉財閥の陰謀を暴くために日々動いていた。


 奏を助けるつもりは毛頭なく、そのまま証拠を掴めればそれで良いと思っていたが、政悟があっけなく奏を手放したために証拠を掴み損ねたのだ。


「黒杉がしてきた事の証拠って全部揃ってるんですか?」

「いや、今のは全部ハッタリだ。本当は証拠など掴んでいない」

「えっ! 嘘だったんですか?」

「奴らがそう簡単に尻尾を出すはずがなかろう。いくら法律や司法がやつらの手中にあるとはいえ、今までしてきた事がばれればただでは済まないはずだ」

「黒杉は今まで何をしてきたんですか?」

「そうだな。お前もやつらの闇を知ったのだから話しておこう。ここは人が多い、ひとまずあそこのカフェまで行くぞ」

「は、はい」


 奏は慎吾に言われるがまま彼についていく。しばらくして客席がガラガラなカフェへ入る。


 店内の奥の方にある2人分の木造のテーブルと椅子に目をつけそこに座る。


 奏は彼に黒杉家と大きな因縁があると悟る。

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