スイリヤの後始末
遅れましたが更新いたしました。最近、ひどい言われようをしたものですから、つい卑屈になりました。
ようやく自信を取り戻したので、ぜひお読みください。
放課後。
「てなわけで、事件をひとつ終えたわけだが。やらなければならないことがあるらしい」
軽やかな手の動き、風になびく短髪、ちょっとだけ澄ました鼻先が、彼を少しだけイケメンに感じさせた。
少女は首を振ってその考えを改める。
するとそこには明らかに退屈そうにした、たいそうだるそうな人間が。今彼の姿を白馬の王子様のように見せたすべてのきっかけと現象にゲンコツを叩き付けてやりたくなる。
「と、そういうわけで俺たち二人は歩いているわけだが……ふわぁあぁ」
木造校舎の特有の香りが漂う中、龍生が大あくびをしてそうのたまった。
またいつもの学校で、隣にいる成績優秀な美少女をなんとも思っていないように歩き出す。
その少女、神崎慧見は彼ののっぺりとした歩き姿と、堕落と呼べるほどやる気のない姿には呆れざるおえなかった。
だが、そんな姿にも少しなれると神崎は頷いて、
「いさらぎ先生がなぜ桃城さんに冤罪を使った詐欺を持ちかけたかってことよね?」
「うん、その通りだ」
「そして? 今はどこに向かっているのよ?」
「視聴覚室だ、この前取り調べをしたところ」
視聴覚室。前回、形式上だけだが寺井を取り調べした部屋だ。
なぜ、そこに行くのかは教えてもらえなかったが、神崎はなんでもかんでも尋ねるのはヘドが出るほど嫌だった。そこには彼女の学業優秀というプライドがある。
すると、道中にとても大きな黒い姿が見えた。しかし、近づいてみるとそれは140センチほどの大きさで、大きく見えたのは全体が真っ黒い髪の毛で覆われているからだ。
どこぞのホラー映画で見るようなその姿。
絹と形容できるような黒髪は足元まで伸びきっており、一本一本が蛍光灯の光を弾いてハイライトが過剰などことなく筆先に似た形。
龍生は動じることもないが神崎は少々怯えつつその姿を横切った。
「まちたまえ、まちたまえ」
呼び止められて二人が振り向くと、そこには妖精のような容姿を持った瑛琳の姿があった。彼女は、マジで素通りする奴があるか、とでも言いたげに顔面が仰天している。今すぐやめてください。
どうやら、後ろ姿を筆先と勘違いしていたようだ。
そんな彼女は本を片手に、
「あんまりじゃないか、私にも事件を解決させてくれたまえよ」
妖精に似つかない厳かな女性の威厳も含む欲張りな声。
彼女の頭がいい、とそれだけでわかってしまうようなそんな印象。
龍生は彼女に鼻で笑うと、
「俺はお前の思うほどピュアなボーイじゃないが、それでもいいのか? 容赦なく罵ってやるぞ」
「望むところなのだよ。君こそ、怪物を目の前に驚くような真似はよせよ?」
神崎にはわからないが、この二人の中がいいことはわかった。
三人が視聴覚室に向かいながら、状況を整理する。
瑛琳が髪の毛をたなびかせながら、
「きみ、今回の事件はいさらぎの過去が大きく関わっていると考えられるのだよ。その点において、何か情報はあるのか、龍生?」
「それを今から訪ねに行くんだ。視聴覚室にな」
そう言うとたどり着いたその部屋の思いドアを開ける。視聴覚室だ。
その先には一人の人物がいた。
「松崎先生……?」神崎が手で口元を抑える「まさか、松崎さんがいさらぎ先生と共謀していたの?」
だが、龍生も瑛琳もそんな話をしていたわけではない。ただ、ここに何かがあると言っていただけだ。
彼女の悲痛な声を聞いて松崎が遮るように、
「なんのことでしょうか? 私は取り調べの後かたずけを担当してただけですが?」
冷静沈着な回答、嘘はつき慣れていると言ったところか。
すると、瑛琳が彼女の元へと歩いて行き、観察、観察、そして観察を重ねる。その間、瑛琳が彼女を通り過ぎるまで3秒ほどだ。
そして唐突に、
「右手、右足、左肩、そして……『右ポケット』」
右ポケット、その言葉だけに松崎は明らかな動揺を見せた。
しかし、それは神崎は状況を捉えきれずに「なんのこと?」、と拍子抜けな声をあげる。そしてすかさず己の矜持を持ってその発言を悔いた。また、尋ねてしまったと。
龍生が補足的に推理を始める。
「右手左肩に嘘の兆候、無意識に右手を隠している姿、体全体の傾きから右ポケットに何かを隠していると推測したんだろう」
「そんな馬鹿な……」神崎はそれを見抜いた龍生と、それができた瑛琳に驚愕していた。
すると松崎の慣れた平静は簡単に崩れ去る。
「なななな、ななんあなあ、なにをいってりゆん、ぶへぇ! 舌噛んだ!」
驚愕を吹き飛ばすほどの姿をさらし出す彼女に神崎は苦笑う「そんな姿見たくなかった……」
瑛琳がそれらのやり取りを鼻を鳴らして蹴散らす、くだらぬやり取りだと松崎を睨みつけて、
「話たまえ、きみがその右ポケットに隠している長方形のそれを。それとも、このままきみの今朝の小豆トーストを食べた過去から、いさらぎと関わっていただろう10年前までさかのぼってやってもいいんだがな」
相変わらず、彼女の推理は尋常を超えて異常だ。
その場の龍生にすらなぜ『小豆トースト』なのか、なぜ『10年前』なのか、みじんもわからない。
神崎はようやく、化け物を目の前にする態度の意味がわかった。
その時、彼女の隣では龍生が少しだけ息を荒げ始める。まるで、変態かのように。
しかし誰も触れぬ間にコトが進む。
松崎もぞってしていた。彼女からしか分からぬ角度で覗いた瑛琳こと黒い髪の妖精は瞳が深く、黒い。上からおぞいているのにも過かわらず、それを眺めているのにもかかわらず、松崎はまるで地下深くまで続く洞窟の中を飛び降りているような感覚を一瞬だけよぎらせた。
瑛琳が松崎の隣を通り過ぎるまでの情報収集量は、龍生が感じたその三倍か。いやそれ以上かもしれない。
松崎は降参した。両手を挙げて、まるで銃を突きつけられているかのように命すら諦めたように安堵した。
「お話ししますよ。わかりました」
コンビニの店員
「ありがとーございやしたー」




