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ヘッドロック「服部稲荷大明じぃん!」

みなさんおやすみなさい。

 龍生と神崎は並んで廊下を歩いていた。



 もちろん、人通りのない廊下をゆっくりと慎重に歩いていた。


「すまん神崎、これからの予定を考えてなかったわ。慌てて瑛林のところ出てきたもんでつい」


「はぁ? 事情聴取に行くんでしょ?」


「だが、俺たちは容疑者たちがどこにいるかも知らない。どうやって探すんだよ?」



 そう言われて気がつく。龍生らしくないミスだ。

 彼女は親指の爪を口にあてがって悔しそうに、

「しまったわ、ここまでトントン拍子に行きすぎていたから思わず事情聴取まで簡単に済むと思ってた。でも、そこまでうまくいかないわよね」


 すると龍生が口を曲げて、

「そう言われると、うまくいくと言いたい自分がいるんだが……ま、警察が事情聴取を終えたところを俺たちで抑えれば一発だろ」


「なぁ〜にが一発じゃ〜?」

 龍生の後ろからおぞましい声が聞こえた。



「はえ?」

「ウラァアア!」

 大声とともに龍生の首をヘッドロックする腕が現れる。


「ぐごごごごお!」呻き声をあげて龍生が腕をタップ。

 しかし容赦無く締め上げていった。

「貴様ぁ、なんで帰ってへんねんやぁ?」


 神崎が腕を掴んで静止する「やめてください、ミーケ先生!」

 そう、龍生を締め付けていたのはミーケだった。

 いつもは玲瓏な声が今ばかりはおぞましく濁っている。

 するとミーケは神崎にも容赦無くそのおぞましい声を浴びせた。



「貴様、何をしたかわかってんのかぁ? この学校は私学の高校やぁ。規則に従わず、懲戒の処分を受けたらめちゃくちゃな量の罰を科せられることになる。それでもええって言うてんのか?」



 懲戒と聞き、神崎もたじろぐ。

「すみません……つい出来心で……!」


 その時、龍生が気絶した。


 ミーケは腕に手応えを感じてヘッドロックを解く。同時に声色を元に戻した。



「神崎、お前は優等生やと思っててんけどなぁ。龍生に毒されたんか? お前は初めてやから懲戒にはならんと思うけど、龍生こいつは違う。なんか事件があるたんびにうろちょろして注意されてるんや。だからこいつは今度こそ懲戒処分や。つまり停学」



 神崎が驚いて「ちょ、懲戒と停学じゃ意味が違うじゃないですか!」



 するとミーケは言いたくなさそうに、

「懲戒処分は停学やと決まってんねん。それに、停学処分から復帰したのは20年で5人しかおらんと言われてる。めちゃくちゃな課題を渡されて、復帰まで至らんねんな、ほんまに……」


 その瞬間、神崎にはとても大きな罪悪感が訪れた。

 龍生が教えてくれた大阪でのあらゆること。

 半分くらいがギャグであったが、もう半分が彼女の求めていた理想の探偵像だ。


 今日始めたあった人間にここまで尽くしてくれた彼に、神崎は改めて心から感謝した。


 なんとしてでも龍生を救わなければ。


 必死でミーケの腕を掴んだ!

「待ってください! 私のせいなんです! 私が龍生君を学校じゅう連れ回って、規則違反にさせたんです! 私が悪いんです! 罰を受けるのは私です! 龍生君を許してあげてください!」


 ミーケは言葉を濁して「そう言われてもなぁ……」


 神崎は畳み掛けた。

「じゃないと私が停学します! 理事長に志願します!」


「なっ! それは卑怯やないか……自分が理事長の親族やとわかって言ってるやろ!」


「何が何でもお願いします!」


 ミーケは言葉に詰まった。


 その時、三人の後ろから声がかかる。

「許してあげたらどうですか? 池野先生」


 声は凛としており、神崎が振り向くと松崎がいた。


 松崎はそのまま続ける。

「神崎さんは理事長の親族。彼女を停学させることは学年統括の私が許しません。業務命令です、それ以上の追求をよしてください」


 ミーケは頭をかきむしって不服そうに、

「それでは贔屓になってしまいます! 神崎さんだけを特別扱いはできませんよ!」

 しかし、

「業務命令です」

 松崎の声は変わらずそう突き立てた。


 ミーケの顔から不服の意が消えない。

「一万円の手当てを支給します」

「わかりました、仰せの通りに」ミーケはにっこり笑った。

 結局金である。


 神崎が大人の汚さを見てうなだれていると、廊下でへばっていた龍生が目を覚ました。

「うわぁ! ごめんなさい、服部稲荷大明じぃいん!」

「何があったのよ……」神崎がさらに呆れる。



 そこで松崎が提案した。

「確か、龍生かれは『例の問題がある生徒』ですね。推理研究部に所属しているとか」


 ミーケが記憶を探るように頭を掻いて「確かそうですね」


「なら、ちょうどいいかもしれません。たった今興味深い展開になっているところでして、お二人を立ち会わせてみてはいかがでしょか。取り調べに」


 神崎が首を傾げて、

「取り調べ?」

「はい。今、理事長の意向でこの学校で警察が容疑者の取り調べを行っているんです。そこに立ち会わせてみてはどうでしょうか?」


 松崎が凛としてそう提案するが、ミーケは猛反対だ。

「そんなこと警察が許してくれるはずがないやないですか! これ以上こいつらの事おだてちゃいけないでしょ!」


 しかし、神崎には松崎の言った『理事長の意向』という言葉の意味がわかっていた。


 松崎は続けてこう言う。

「いいえ、警察は許してくれるはずですよ。もし許してくれないのならば学校で取り調べなどするはずがないじゃないですか。それに、何度も言いますが神崎さんは理事長の親族です。お分かりですか?」


 神崎は己の家系が及ぼしている影響に少しだけ呆然としていた。

 理事長の親族ということは、神崎にも理事長の権威があるということだ。


 ミーケは呆れて「神崎伝説はなんでもありですか?」

「その通りです」松崎が頷いた。


 龍生も廊下にへばったまま、

「いいんじゃないか? 親からいただけるもんは全部もらっとけ」


 神崎が少し気分を害した。

「あなたにはわからないでしょうね。親の権力を目の当たりにする歯がゆさなんて」


 龍生はそっぽを向いて、

「ああ、分からねえ。偏差値75の学校から52の学校に来る理由が相変わらず分からねぇ」


 すると松崎が不敵に笑って、

「ちょうどいいですね。立ち会えば理由がわかるかもしれませんよ。金色きんいろの探偵もいることですし」


 龍生には理解ができなかった。


活動報告にて凹んでます。励ましコメントくださいね(T . T)

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