金色虫は閲覧室にいる
今回「瑛林」というキャラクターがとあるキャラクターに似ているとご指摘を受けた舞うかもしれませんが、完全に私の趣味ですのでお気になさらぬよう、お願いします。
場所は変わり、体育館の下のフロア。
またしても廊下を進み、透明なガラス扉の部屋にやってきた。
神崎が尋ねる。
「ここは?」
「図書室だ。ここに本の虫がいる」
龍生はそう言うと、そうっとガラス扉を押し開けた。
「見つかるな、ここでばれたら逃げ場がないぞ」
「わかってるわよ」
龍生と神崎は簡単な会話を済ませて図書室の奥へと進む。
無人の図書室は本棚が多く、入り組んだ先にはカメラにも映らない小さなスペースがあった。
そこには小さな机と椅子、たくさんの本。
だが、それしかないように見えた。
龍生と神崎の二人が近づく。
やはり本しかないように見えたが、龍生のアイコンタクトに従い見る角度を変えるとわかった。
本の影、そこには人がいる。
龍生は声を潜めてその人に声をかけた。
「おい、一緒にいる人間は神崎ってヤツだ。友達で全く害がないはず、たくさん推理小説も読んでいてお気に召すかもしれないぞ?」
ガタァ!
その時、その人が大きく机を叩いた。
すると顔をあげる。
「龍生ぃ、私の睡眠を邪魔する間抜けな人間はお前かぁ〜。今読んでいる魔術書通りに鷹の爪と生姜、あとダークマターを煮込んだ物を飲ませれば簡単にお前を爆殺することができるんだぞ?」
上がった顔を見て神崎が思わず「可愛いっ!」
「ナハァ?」
その人が口を大きく曲げる。
その人の顔はとても精巧に作られた人形のようだ。
その人はまるで背の小さい無垢な妖精のようだ。
その人は艶のある黒髪の長髪に一切の乱れがない。
その人はあたかも自分が賢者のように鼻を鳴らした。
「龍生ぃ、お前の要件はわかるぞぉ? 私に新たな推理ゲームを持ちかけてきたな! わかる、わかるぞ! 君は弟子なんだからまだ私を頼りたいのはわかるが、なんというタイミングだ! ちょうど君を黒魔術で呼び出そうとしていたところなのだ!」
龍生はそんなことをのたまう妖精にいかつい手のひらを向けて、
「神崎、この女は錐先が言っていた『金色虫』。平塚瑛林あだ名の由来は本の虫だ」
神崎が頭を下げて丁寧に、
「初めまして平塚さん。わたしは——」
「なんだね君はぁ! そこはなぜ『金色』なのかと聞くところではないか!」
瑛林の叫び声は図書室中に響き渡ったが、誰も駆けつけない。
神崎は仕方なく、
「なんで『金色虫』って言われているんですか?」
瑛林は鼻を鳴らして「龍生ぃ、答えてやれ」
「金色の所以は俺が初めて読んだ推理小説に登場するキャラクターだ。妖精と呼ばれていた」
「と、いうわけだ! わかったかね?」
瑛林の勢いに負け、神崎はため息をつく「また変人か……」
その時、瑛林のポケットが振動した。
「おや、どうやら私の機械の板がPDFを受信したようだ」
勢いのままスマホを取り出し、メールを確認。
このタイミングで龍生が尋ねた。
「その人物に心当たりはないか?」
瑛林は「う〜むぅ〜」と唸って眉間にしわを寄せ、スマホに表示された画像を見つめる。
神崎が思わず、
「PDFって画像の事よね? メールを見る前になんでわかったの?」
ガタァ!
途端に瑛林が机の上の本を強く叩いた。眉間にしわを寄せたまま、
「今検索中だ。黙りたまえ」
「ごめんなさい……」
龍生が神崎の耳元で囁く。
「瑛林に物を聞くときは大概が人物の詳細だ。だからここに来た理由もそうだろうとわかったわけだ」
神崎がささやき返して「でも、メールの中身が画像とは限らないじゃない」
ガタァ!
すると瑛林がまたしても本を叩いた。
神崎が思わず「ごめんなさい……!」
しかし瑛林は鼻を鳴らして、
「ふんっ、太ったスーツの男はこの学校で経営コンサルタントを務める『寺井』という男だ。もう一人の英語教師だが、彼は見たところ新任のようだ。私のメモリーにはなかったよ。でも、この画像から推測するに元ラグビー選手だろうね。彼なら殺人現場の大きなタンスも動かせるだろうよ」
神崎が瞬いた。
「一体どこからそんな情報を? なんでラグビー選手なのよ。細身もいいところよ。それに殺人事件だなんて一言もいってないわ。タンスのこともなんで?」
龍生が神崎の言い分を微かに笑った。
瑛林が神崎の顔を指差す。
「君、そんなに分からず屋なのかね? 龍生ぃ、私の代わりに説明しろ」
「おそらく、英語の教師は日焼けをしていたんだろう。画像の姿から鎖骨、もしくは肩の怪我を見抜き、そこからタックルの怪我を連想、ラグビー選手と結論を出した。というところか。コンサルタントの方は瑛林が元から知っていたんだろう」
神崎は悔しそうに納得した。
しかし、瑛林は突き詰めて、
「では、私が殺人事件と理解した理由は?」
龍生が首を振る。
「わからん」
その時、瑛林が不敵に笑って、
「そうかそうかぁ。龍生ぃにもわからんかぁ。教えて欲しいか?」
龍生は頷き「ああ、頼む」
神崎が初めて龍生が教えを請う姿を見た瞬間であった。
瑛林が得意げに、
「いいかね。君たちがここに来ることは二時間も前に私にはわかっていたのだよ。なぜなら、事件が起こること自体がわかっていたからだ。私がここに来るまでに、会議室の前やその周辺のカメラに違和感を感じていたからね。仕込まれていたのだろう、と予想できる」
龍生が食い気味に、
「だが、それでは起こるとわかっていた事件が殺人だとは限らないじゃないか? 窃盗かもしれんだろ?」
すると瑛林が龍生の顔を指差して、
「話を聞きたまえ、龍生ぃ。私は1時間半前に事件が殺人だと断定してたのだよ。つまり、事件が起こってから周囲の慌てふためきようで察したわけさ」
「具体的には?」龍生の追求に瑛林が面倒くさそうに尋ねる。
「ここまで言ったら分かってもらわねば困る。ヒントをやるとすれば図書室の前を警官らしき人間が通ったということだ」
だが、警官が通るのは窃盗が起こっても同じこと。
しかし、瑛林はその警官が通ったということ以上に情報を得ていた。
強いて言うなら、『警官らしき』という言葉からは、おそらくこの場にいて通った警官を直接見ていないことを示している。
龍生が結論を出す前に、神崎が答える。
「もしかして、その警察官が大きなビニールの服装を持ち運んでいたところを見た戸言うことかしら? それなら殺人事件の現場検証に使うし、窃盗の時には使わないわ」
すると瑛林が「バカかね君は?」
「はぁ? なんですって?」
神崎が思わず顔をしかめる。
その時龍生が結論を出した。
「足音の数だ。おそらく、警察がこの学校に入ってくるとき、車を止められる東入り口からのはずだ。だから、ここを通って現場に行くことになる。そしてその時に、足音の数が多すぎたんだろ? 窃盗なら大量に人は通らない」
「その通りだ龍生くん。タンスの話は、今届いたメールに書いてあった。あいつはかなりの情報屋だからな、それとなく推測でもしたのだろう」
瑛林が満足したように本に視線を戻した。
その様子を見て神崎は龍生を急かす。
「じゃあ容疑者がわかったんならそっちに行きましょう。警察が取り調べる前に取り調べないと私たちが捜査しているのがばれちゃうわ」
しかし龍生は落ち着いて、
「落ち着け神崎。先に警察からリハーサルを受けておいてもらうことでスムーズに取り調べができるかもしれないだろ?」
「そんな暇ないわよ。早く行きましょう」
神崎が龍生の服を引っ張って急かしていたところ、
ゴンッ!
又しても瑛林が机の上の本を強く叩いた。
「まて、今なんといった? 神崎、神崎伝説のことか?」
神崎がハッとして敬語で「は、はいそうです……」
すると瑛林が笑った。
「ハハハハハハハ、龍生ぃ? また君の運命が回ったようだ。君の運命はよほど君を楽しませようとしているということだ」
その時、こう言った。
「君の先祖、『めこみみめこのめこ』も喜んでいることだろうよ」
龍生が珍しく舌打ちをして、
「余計なことを。女はみんなそうなのか?」
その言葉にも瑛林は理解を示し、
「花園崎にも何か言われたのかね? まったく、君には同情するよ」
「くだらんことまで推測すんな」
龍生はそう言い残すとその場を去った。
「あ、待って」
神崎が後を追おうとしたその時、瑛林が小さな声で呼び止める。
ゴンッ!
同時に机を叩いた。
「はいぃ!」神崎が悲鳴のような返事をあげる瑛林が、
「待ちたまえ、神崎伝説」
神崎は小さな妖精の放つ威厳に思わず背筋を伸ばした。
「は、はい。どうしたんですか?」
「これを持って行くといい。きっと君の役に立つ」
瑛林がそう言って渡したのは小さな金色のお守り。
そこには無病息災と書かれていた。
神崎は訳も分からず受け取って、
「あ、ありがとうございます」
すると瑛林が鋭い一言。
「もし、龍生と離れたくないならそれを絶対になくさないことだ。君たちを引きつけてくれる最後の頼みなのだから」
「はい?」
神崎はそんな言葉を素っ頓狂な音で出した。
瑛林は彼女の瞳を見て頷き、呆れる。
「わかった、気にしなくていい。いずれわかるだろうよ」
すると小さな妖精は又しても本に視線を落とした。
神崎は戸惑いながらも龍生を追う。
その図書室の一角は静寂に包まれた。
「本当にこれで良かったのかね、ラグロ」
姉さんはさすがだねぇ。言われずにことを済ませてくれるんだから、重宝するねぇ。
そう私は瑛林に言った。
だが、彼女には気に食わなかったようだ。本に視線を落としながら、
「私は私のやりたいことをやったにすぎない。あの二人の男女がどのようにして出会い、別れ、結びつくのかを」
君らしいね、やはり人間と妖精の間とは君のことだ。
瑛林は「あと姉さんと呼ぶな。私は日本のマフィアか何かかね?」
見事な時間差攻撃。
それだけ言うとつまらなそうに本のページをめくった。
「さて、私もここで本を読んでいるだけではつまらないから、外へと出るとしよう。君たち人間の愚かな様を妖精の私が見て回るのだ。それとも、そんな彼らは人間ではなく、『粘土の人形』と『泥人形』かね?」
そんな君も一応粘土の人形だよ? この世に作りたもうた私に感謝の意でもあっていいんじゃないかな?
「ふん、くだらない。君は私の手を借りてお話を進めたにすぎないだろう。私は感謝ならしてもらう立場だ。さて、あと10冊読んだら見て回ろう。君たちのおとぎ話に参加できるといいんだがね」
では、楽しみに待っています。
ご拝読ありがとうございました!




