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レッドアイ  作者: kikuna
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第一章 予兆06

 もう一つの目的。


 僕は寺を出ると、改めて確認してしまう。

 こんな所で何を取材して来いと言っているのか、苗代の頭の方がミステリーだと思う。あの人の頭の中を解明した方が、よほど面白いものが書けるのではないかな。

 くねくねと伸びる坂道を見て、さっさと踵を返しバス停へと戻る道を、僕は選んだ。

 バスが来るまで、たっぷり30分以上はある。

 来る時、さほど時間がかからなかったように感じた僕は、空を見上げ、天気もいいことだし取材もあると自分に言い聞かせ、坂道をゆっくり下って行く。

 僕とすれ違う人すれ違う人がいちいち、えっという顔をしては、素知らぬふりをする。

 確かにこの場所には不釣り合いな格好ですよ。一流女優に会いに行くのだからと言われ、バーバリのスーツを一式をあてがわれ、そのままの服装で、こんな山道を歩いている僕が悪い。この靴も苗代からの借り物で、若干足に合っていない。さっきから親指の下あたりが歩くたびに痛みが走っている。僕だって、好きでこんな格好をして登山道なんか歩いているんじゃない。ある程度の情報を持って帰らないと、苗代から何を言われるか想像しただけで恐ろしくなる。

 僕は憤慨しながら、黙々と坂を下って行く。

 ようやく辿り着いたバス停で立ち止った僕の目の前を、一人の女性が通り過ぎて行くのを、何となく僕は目で追ってしまっていた。


 何だろう?


 ふと感じた違和感。

 少し興味を持った僕は無意識のまま、その女性の後をつけ出していた。

 どうしてそうなった。と、後で苗代に訊かれた時の為に、散々自分の中で言葉を連ねたが、バカバカしいことに気が付き、獏は足を止める。

 ただの思い付き。直感だった。何か曰くつきに感じたから。そんな言葉を連ねたところで、またあのニヤついた顔をされておしまいだろうと、予測が付いたからだ。

 苗代は僕に対し、すべてに於いて軽佻で失礼極まりない。本人に直す気などさらさらなく、むしろ正しいとさえ思ている。

 考えただけで、むかっ腹になった僕はバス停へ戻り、時刻表を見やる。

 腕時計に目を落とそうとして、付けていなかったことに気が付く。

 ポケットをまさぐる僕は、えっと思い顔を上げる。

 目の端に例の女性が映っていた。


 自分よりだいぶ先を歩いていたはずの彼女がなぜ?


 幾筋か伸びる脇道。

 どこか寄り道をしていたと考えれば、そんなものはすぐに解決できること。しかし、どうしてかその時の僕はすぐにそう解釈することが出来なかった。

 

 目の前を通り過ぎる彼女がチラッとこちらを見た気がした。

 ワンピースのすそがひらひらと風に泳ぎ、僕は磁石に吸い寄せられるように彼女の後について歩いて行く。

 そんな時にさえ、僕の理性は働き続ける。

 僕は自分で思っているより余程、苗代にバカにされることが好きではないようだ。

 後を歩きながら、頭の中は言い訳でいっぱいだった。  

 言わなければいいだけのこと。同行しているわけでもあるまいし、苗代は東京にいる。例え僕が、ここで一人の女性と恋に落ちてもばれるはずがない。

 こんな感情は僕に初めてのものだった。

 一言も話したことがない今あったばかりの人なのに、まるで待ち人にやっと会えたようなそんな嬉々としたものが、いつの間にか僕の中に芽生え始めていた。


 10分ほど下ったところで、その女性は自分の家であろう門をくぐり、中へと消えて行く。

 レンガつくりにされた洋館。この景色に合っているような合っていないような。一見、ペンションを思わせる佇まいで、表札には兵藤と記されてある。

 僕は徐に人差し指でこめかみを強く押し、数回の瞬きをするとその場を離れて行く。


 この感情は邪魔なもの。すぐに浄化する必要がある。


 腕時計に目をやる。


 少し長めの息を吐き、僕は後ろを振り返る。

 バスが走って来るのが見えた僕は手を挙げ、乗せて貰う。

 都会では考えられないことである。

 まさかこんな場所で沢山のものを見せられるとは思わなかった僕は、苗代を恨む。

 いつもカバンに忍ばせてあったサングラスがなくなっていた。

 きっと苗代の仕業だろう。

 観光で訪れた人たちの帰る時刻には、まだ早かった。バスは僕以外にだれも乗っていない。窓外に目をやると、まだまだ大勢の人が写真を夢中で、撮っている姿があった。

 見ているのが辛くなった僕は車内へと視線を戻し掛け、ふと目に留まったその景色にくぎ付けになる。

 木々の合間から見え隠れしたいた看板だった。


 能力開発研究所。


 僕はもう一度確かめようと、後ろへと首を伸ばす。


 ボッコ。


 水面にできな空気の泡が、頭に浮かぶ。


 引っ切り無しにポケットの中、携帯が唸っていた。相手は分かっていた。今はとても喋る気になれず、僕はそれを無視して、目を閉じる。 

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