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レッドアイ  作者: kikuna
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第六章 覚醒08

 僕の記憶はいつでも曖昧で、不確かなものだった。

 温かな陽だまりを、母さんに手を引かれ歩く。

 隣で父さんが、少し遠くへ行ってみないかと言い出した。

 「それじゃ、新しい靴を買ってあげなきゃね」と、母さんが言ったんだ。

 ライラックの匂いがして、僕はその先の記憶がまったくない。


 次に見た景色は色鮮やかなもので、見知らぬ男性が僕に笑いかけていた。

 「誰?」

 「今日から君は生まれ変わる。是非、君の能力を貸して欲しい」

 「何を言っているんですか?」

 「君は僕が作った傑作作品。いわば君の父親も同然。現に君は僕の息子、采沢柊歌として、この世に実在させられている」

 「どうして?」

 動揺する僕の目を見て、采沢は冷たい目で微笑む。 

 

 テーブルに肘をつかせ、組まれた手の形や、口元で人差し指だけを立たせ、目を細める仕草やどれもこれもが、僕の悪夢として幾度も見るようになったのは、水沢がやって来た直後からだった。

 

 戻ってきた僕に、苗代が首を竦める。

 「もう良いのか?」

 僕はしばらく苗代の顔を見たのち、

 「僕には関係がない人ですから」

 ムッとしながら言い返す僕に、苗代は口元を緩ます。

 「やっぱり無理か」

 「無理です」

 車がゆっくり発進させられ、河北が呆然と立ち尽くしている姿が、バックミラーに映る。

 僕は頭を振る。

 僕はまんまと騙されてしまったってことか。

 ハンドルを握る苗代の指が、リズムを取っていることに気が付いた僕は、初めてそのことに気が付く。

 すべて苗代の思惑通りだったとしたら……。

 澄ました顔で運転する苗代を、僕は鋭く睨む。

 あの日、僕は優奈だと思っていたのは河北だったということか。

 前後する僕の記憶が、頭の中で蠢く。

 

 道を覆う木々も、その合間から見え隠れしている空、全てが色を失くして行く。

 僕は振り返り、小さくなってしまった河北を見る。

 僕を一瞥した苗代が、カーラジオを点ける。

 暗いニュースが流れる中、僕らは先を急ぐ。

 「秘密など、そう守りきれるものじゃない。気が付いた奴らを片っ端から死に追いやっても、すぐに次が湧いて出て来る」

 「そうやって何人もの人を、その手で殺めたんです」

 皮肉めいた僕の言葉に、苗代はさあとだけ答える。

 

 あの白いブランコに乗っていたのは、僕。水沢が現れ、母さんの様子がおかしくなった。

 「こんなはずじゃなかったのに……」

 母さんが僕の手を握る。

 ゆらゆらとカーテンが揺れ、僕の視界から母さんたちは居なくなった。


 「……何のために?」

 「地球は確実に滅びる。藏下佳代の言葉は、戯言として扱われ、無駄に月日が過ぎてしまった。たぶんそうなることも分かっていたんだろうな。だから夫の心を操り、生後間もない優奈を連れ去らせ、采沢に近付いた。采沢は遺伝子学の第一人者。細胞分裂配合の研究をしながら、堕胎で訪れた患者の子を密かに、あの研究所で自分が培養させた羊水で育ては、その子供を高い値で売りさばいていた。その一人が怜美。まさか兵藤の手ですり替えられていたことを知らずに、売ってしまった。それが瑠羅だ」

 顔を顰めてみる僕に、苗代は言葉を継ぐ。

 「以心伝心。そんな戯言をあいつらはやり遂げた。お前があの研究所に送られてすぐ、優奈は本当の瑠羅の存在を知った。怜美もうすうす自分と同じ感性を持つ人間がいることを感じていたんだろうな。そして、自らあの研究所を訪れた」

 「でも、瑠羅は僕よりずっと先に居たって」

 「あいつ特有の能力だ。かすかに残っていた自分の記憶を駆け巡らせ、忍び込んでいたんだろう。おそらく、母親である佳代からも、何らかの電波は受け取っていただろうしな」

 

 巨大な船体が目の前に現れ、僕は車から降り、目と顔、静脈を認証させゲートを開く。

 のろのろと車を走らせてきた苗代も同じように認証を済ませ、歩いては居る僕の横で車を走らせる。

 芝が植えられ、花壇には色とりどりの花が植えられている。巨体な船の陰に車をすべり込ませ、苗代も僕の横に並んで歩く。

 本来持ち合わせていなかった感情を植え付けた理由を、僕はもう一度父さんに会って、訊いてみたかった。

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