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幼馴染は性格に難あり

 ロビリオと私は生まれた時から婚約をしていた。

 それはつまりロビリオと私は幼馴染だということにもなる。

 そしてロビリオと幼馴染ということはロビリオの兄弟とも幼馴染ということでもある。


 私の目の前に現れた黒髪の美青年、デューギル=ゲイズ=コルテリア。

 ロビリオの三歳上の兄である彼も私とは幼馴染ということになり、私は彼をデューちゃんと呼んでいた。


 しかしいくら親しい仲とはいえ、これはないわー。

 もがけばもがくほど絡まる網って、完全に私を受け止めるためというよりは、捕縛よね?

 身を呈して抱き止めろとは言わないけれど、これはないわー。


 文句の一つでも言ってやらないと気が済まない。

 けれども私が何か言おうとしても網が邪魔して、もがふがとしか発せない。

 なんとか解けないものかしら。

 護身用のナイフで切ってしまえば簡単なんだけど、網をよく見れば目は細かく精巧な作りをしている。相当腕の立つ職人が作ったに違いない。切り裂いてしまうのは勿体無い。


「お!いい具合に絡まってるな」


 私が網から脱出しようと、もだもだ転がっていると近くまでデューギルが来た。


「一度捕縛すれば対象を絡め取り、内側からの脱出は困難」


 デューギルは私を助けず見下ろしたままだ。


「むふむふ、ふががっ!もがっがー!むーむーっ!」


 にやにやしてないで早く助けなさいよ!

 っと言いたかったんだけど、やっぱり言葉になってない。


「これ、刃物は試したか?」

「ふがーーーっ!」

「ふむ、内側からの強度を試したかったんだが、まぁいいか」

「ふぬーーーっ!」


 デューギルが折りたたみのナイフを取り出し網に当てる。


「やはり刃物も効かないのか。研究所の奴らめ良いものを作ったな」

「ふぎーーーっ!」

「うるせぇなぁ。吠えても分からねぇよ」


 デューギルの手が網にかかり、巻きついた網を器用にほどいていく。

 ごろごろと転がる私。

 私が何度やっても全然解かれなかったのに呆気なく、私は自由を取り戻した。


「内側からほどくのは難しく、外側からは容易。言われていた通りだな。後は予算内での生産と、今回は召喚魔法の応用で射出したが、それをどうするかだなぁ」


 呑気に呟くデューギル。


「ちょっと!助けてくれたのには礼を言うけど、乱暴すぎじゃない?打ち所悪ければ失神、さらに悪ければ死んでたわよ?!」


 やっと喋れるようになった私はそう苦言を呈した。


「それにさっきから何?ぶつぶつと!もしかしてこの網の性能の実験台に私を使ったの?!」

「細かいことは良いじゃねえか。お前はロバを止めて欲しくて俺は網の性能を試したかった。お互い叶えられて円満だろう」


 言いながら、ボサボサになった私の髪を直してくる。

 なぜか神々しくすらある笑みを浮かべながら。

 その仕草は木漏れ日輝く王宮の中庭とかでやられたら多分女の子はイチコロだろう。

 私には通用しないけどね!

 そんな笑み一つじゃ、私は懐柔されないぞ!


「それにお前の身体能力ならあれくらいとっさに受け身を取れると確信してたからな」

「まぁあれくらいなら……そうだけど」


 実際、私は無傷だった。

 ロバや馬の扱いは不慣れなのでどうしたらいいか分からなくなるが自分のことだけなら日頃の護身術鍛錬のおかげで割と私は何でも出来た。


「ああ、やっぱり。こぶのひとつも出来てない」


 あ、こいつ髪を直すついでにこぶの確認までしていたな!

 なんて抜け目ない。


「まぁ、ちょっと乱暴だったが、俺とお前の仲だ……許せ」


 そんな謝罪一つで許されると思ってるのかしら。

 さすが面の皮が厚い。

 怪我はしてないけど結構苦しかったのよ?

 幼馴染とか皇太子とか以前の問題だ。


 デューギル=ゲイズ=コルテリア。

 彼はコルテリア帝国皇太子、次代皇帝に名を連ねる存在だ。


 世間一般では文武に長け健康でめちゃくちゃ有能な皇太子とされている。

 しかし彼の人となりを知る周囲は皆、必ずこう付け加える。

 ただし性格に難あり。


 そしてそんな横暴な皇太子様に屈しないのが私、アンゼリカ=ノアラードだ。


「あら、殿下。女性は往々にして欲張りなものでしてよ?」


 わざと慇懃に言ってやる。

 それも彼に習えば「デューギルと私の仲だから」というやつだ。


「お言葉だけじゃ足りないわ」

「ほう?それは不調法ものゆえ失礼した。して、レディは何をご所望かな?」


 あ、なんかノリノリで乗ってきたし。


「今の実験結果と、網の製造後のノアラード家への優先的使用権を」


 ノアラードでは小さい頃から転んだらタダじゃ起きるなと教育されている。

 いやーお父様とお兄様に良いお土産ができたなー。

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