1 女体化してしまったらしい
「……ここ、どこだ?」
まるでダメな、ニート歴10年目の佐嘉龍希は見知らぬ場所で目を覚ます。手には砂がついていて、目の前には海が見える。海岸だろうか。龍希は立ち上がり、身体についた砂をはらう。
「海なんて久々に見たな。引きこもってばかりじゃ、見えないものもあるのか」
大学受験に失敗し、浪人という名の引きこもりニート生活を満喫していた。ゲームしたり寝たりと、ろくなことをしてこなかったのは間違いない。
「くそッ、頭が痛てェ……ん?」
声が、甲高い。まるで、女の子みたいに。龍希は頭を傾けながら、少し重たいと感じる胸元を触ってみる。
すると、弾力があった。BからCカップくらいか……いや、おかしい。龍希はまぎれもない男。不養生な生活をしていたから、体型もやせ細っている。ましてや、胸だけ出っ張っているなんてことはあり得ない。
「なんなんだよ。おれ、女になっちまったのか? 悪い夢としか思えん」
引きこもりに性別なんて関係ないが、この胸は邪魔だ。どこかで聞きかじった情報では、Cカップの重たさは約250グラム。両方で500グラム。ただでさえでも悪い姿勢が、より悪くなってしまう。
ザーッ……と海の音を聞きつつ歩き出した龍希は、乳首に痛みを覚える。ブラジャーをしていないからだ。下着なんてなにを買えば良いか分からないが、とりあえず必要なのは分かった。
そうして海岸から道路のほうへ向かうと、
「ヒトの子よ、私はヘーラー。〝大天使〟です」
なんか良く分からない、宗教勧誘か頭がイッちまっているピンク髪の女と遭遇した。龍希は当然無視し、溜め息をつきながら家へと帰るためにスマホを開こうとした。
「ちょ、ちょっと待ってください!! なぜ私を無視するのですか!?」
しかしスマホがない。そして、土地勘もない。これは困った、と龍希は立ち往生する羽目になる。
「おーい!! 私のことが見えていますか!? 見えていたら返事してください!!」
こうなったら、交番にでも行って道を尋ねてみるか。引きこもりにとって、そのミッションは重たいが、それ以外に方法が思い浮かばない──。
「無視しないでください!! 私のこと見えていますよねッ!?」
さっきからピンク髪の女がやかましい。龍希は、心底苛立ちながら返事した。
「見えてる上で無視してるんだよ。なんでテメェみてェなバカと、わざわざ話さなきゃならねェんだ?」
龍希は、直感でこの女が愚かなのを悟っている。だから相手にしなかったのだが、いい加減うるさすぎて面倒なので反応してやった、という感じだ。
「え……ひどくないですか?」
「ひでェのは、その髪色だろ。分かったら失せろ、アバズレビッチ」
確かに龍希は10年間ニートだったが、案外高校生までは明るいキャラクターでもあった。あの頃は、6人から告白されて付き合っていたくらいだ。なので、女性への免疫はしっかりある。そう思うと、ひどい転落人生である。
「嫌です! 私は貴方のお付きの大天使ですから!!」
「……あ?」
「お付きになったら、そのヒトから離れることはできないのです! し・か・も、私は貴方に対して最大限のサポートができます!!」
「あぁ、そうかよ」
舌打ちし、龍希はピンク髪の女(自称天使)を見上げる。
身長は龍希より高く、顔立ちが整っていて、体型もスマートかつ抜群。髪の毛はピンクのロングヘアで、サラリとした髪質が特徴的といえよう。
「で? 大天使様よ。一体なにをサポートしてくれるんだ?」
「たとえば、女性用下着店でどんなブラジャーが良いかをアドバイスできます!」
「……あ? 女の下着?」
「え? だって貴方、龍希って名前でしょう? 女の子ですよね?」
「なるほど。そこまでキラキラしてる名前だと思ってなかったけど、おれの名前は女っぽく感じるんだ」
佐嘉龍希は、女体化してしまったらしい。




