表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『「飾りの妻でいろ」と突き放された没落令嬢、最強の死神公爵に弟子入りする  作者: 烏丸ぽっぽ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/20

第20話:本物の間者と遭遇。実戦では全く光らない宝石が、師匠のハグで大暴走します!


王都からの監査官(かんさかん)が逃げ帰ってから数日後の、深夜。

私は喉の渇きを覚え、自室から厨房(ちゅうぼう)へと水を飲みに向かっていた。


(……ん?)


薄暗い廊下の角を曲がろうとした時、(かす)かな足音が聞こえた。

城を警備する騎士たちの、重い(よろい)の音ではない。布で足を包んだような、軽くて不自然な足音。


私は壁際にピタリと背中を預け、息を殺した。

そっと角から視線だけを向けると、黒ずくめの怪しい男が、ヴァルター様の書斎(しょさい)の扉の鍵をピッキングで開けようとしているところだった。


間者(かんじゃ)……っ!)


先日ヴァルター様が言っていた通りだ。辺境の城には、機密文書(きみつぶんしょ)を狙う敵国の(しの)びが入り込むことがある。

以前の私なら、悲鳴を上げてその場にへたり込んでいただろう。

だが、私の身体は驚くほど冷静だった。


極限の精神的プレッシャー(師匠の至近距離(しきんきょり)での顔面攻撃)に比べれば、ただの間者(かんじゃ)の背中など、全く恐るるに足らない。

私は音もなく間者(かんじゃ)の背後に忍び寄った。


「……何をしているのですか?」


「なっ!?」


間者(かんじゃ)が振り返り、(ふところ)からナイフを取り出そうとした瞬間。

私はヴァルター様に教わった通り、あえて中途半端に距離を取らず、一気に相手の(ふところ)へと潜り込んだ。

そして、ナイフを持つ手首を両手でガシッと掴み、自分の体重をかけて思い切り捻り上げる。


「ぐぁっ!?」


関節を極められた間者(かんじゃ)は、たまらずナイフを落とし、床にうつ伏せに倒れ込んだ。

私はすかさずその背中に馬乗りになり、腕を背後で拘束(こうそく)する。


(やった! 師匠の教え通りにできたわ!)


自分の成長に感動していると、廊下の向こうから(すさ)まじい足音が近づいてきた。


「ルナリア!!」


バンッ! と書斎付近の廊下に飛び出してきたのは、剣を片手に持ったヴァルター様だった。就寝中(しゅうしんちゅう)だったのか、シャツの胸元が大きくはだけている。


「し、師匠! 間者(かんじゃ)を捕まえました!」


私が得意げに報告すると、ヴァルター様は床に転がる間者(かんじゃ)と、無傷(むきず)の私を交互に見て、ふうっと長く震える息を吐き出した。

チャキッ、と剣を(さや)に納めるなり、彼が大股(おおまた)でこちらへ歩み寄ってくる。


「……っ、お前という奴は! なぜ大声を上げて騎士を呼ばない!」


「えっ? でも、私一人でも十分に対処(たいしょ)できる相手でしたし――」


「そういう問題ではない! (まん)が一、お前が傷でも負ったらどうするつもりだったんだ!!」


ヴァルター様は私の腕を掴んで間者(かんじゃ)の上から引き剥がすと、そのまま私を力強く腕の中へと抱きしめた。


「ひゃうっ!?」


「無事でよかった……。本当に、無事でよかった……っ」


首筋(くびすじ)に顔を(うず)められ、ギリギリと骨が鳴るほど強く抱きしめられる。

怒っているのに、その声はひどく震えていて、私を失うことを心の底から恐れているのが伝わってくる。


(あ、ああ……っ、だめ、師匠、そんなに強く抱きしめられたら……っ!)


ドクンッ!!!! ドクンッ!!!!


間者(かんじゃ)対峙(たいじ)していた時はあれほど冷静だった私の心臓が、大音量で暴れ始めた。


『ピカァァァァァァァァッ!!!!』


その瞬間。

私の胸元で大人しくしていたサファイアが、深夜の廊下を真昼のように照らし出すほどの、強烈な青い閃光(せんこう)を放った。


「なっ!? ここへ来て警報が作動しただと!?」


ヴァルター様が私を背中に庇い、再び剣を抜いて周囲を鋭く睨みつけた。


「まだ見えざる敵が潜んでいるのか! ルナリア、俺から離れるな!」


「ち、違います! 敵はもういません!!」


「だが警報の光がどんどん強くなっている! お前の命が、今まさに脅かされている証拠(しょうこ)だ!!」


(脅かされているのは私の乙女心です!! 実戦ではちっとも光らなかったのに、師匠が抱きしめた途端に光ったじゃないですか!!)


「ご、誤作動(ごさどう)です! さっきの戦闘の余韻(よいん)で、魔力が遅れて反応しただけですってば!」


「馬鹿な、魔力石(まりょくせき)が時間差で作動するなど聞いたことがない! やはりこの城にはまだ――」


「お願いですから、剣をしまって少し離れてくださいぃぃっ! 近いと光が止まらないんです!!」


私は青く光り輝く胸元を必死に手で隠しながら、過保護に庇おうとする師匠の背中を押して距離を取ろうと奮闘(ふんとう)した。


……騒ぎを聞きつけて駆けつけた騎士団長(きしだんちょう)レオンたちが、

「(公爵閣下……本物の刺客(しかく)と戦っている間は全く光らなかったのに、閣下が抱きしめた瞬間に発光する防具(ぼうぐ)の意味を、少しは疑っていただきたい)」

「(ああ。ご本人は『俺が守らねば妻の命が危ない』と大真面目に警戒しているが、奥様の心臓の危機を招いているのは完全に閣下ご自身だ……)」

と、青い光に包まれる私たちを見ながら、手際よく気絶した間者(かんじゃ)を縛り上げていたことなど。


強すぎる愛の発光を隠蔽(いんぺい)するのに必死な私が、気づくはずもなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ