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『「飾りの妻でいろ」と突き放された没落令嬢、最強の死神公爵に弟子入りする  作者: 烏丸ぽっぽ


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19/20

第19話:王都からの嫌味な監査官。精神攻撃の成果と、青い閃光による愛の証明!?


ペンダントの誤作動(ごさどう)(という名の好きバレ発光(はっこう))事件から、数日後。


その日、辺境(へんきょう)の城に王都から『監査官(かんさかん)』を名乗る中年の子爵(ししゃく)がやってきた。

執務(しつむ)で少し遅れるヴァルター様に代わり、私が応接室(おうせつしつ)で彼のお茶の相手をすることになったのだ。


「ふん。没落寸前(ぼつらくすんぜん)の実家から押し付けられたそうですが、死神公爵(しにがみこうしゃく)の『飾りの妻』の居心地(いごこち)はいかがかな?」


ソファーにふんぞり返った子爵は、私を小馬鹿(こばか)にしたように鼻で笑った。


以前の私なら、身分の高い貴族からの嫌味に萎縮(いしゅく)して、震えて(うつむ)いていただろう。

だが。


(……なんだろう。全然、怖くないわ)


毎日のように『氷の死神』から放たれる実戦(じっせん)レベルの覇気(はき)や、逃げ場のない至近距離(しきんきょり)での顔面攻撃(精神的プレッシャー)を浴び続けている私にとって。

子爵のねちっこい嫌味など、そよ風以下のノーダメージだった。


「ご心配には及びませんわ。とても充実(じゅうじつ)した、刺激的(しげきてき)な毎日を送っております」


私が堂々と微笑(ほほえ)んで紅茶を飲むと、子爵は面白くなさそうに顔を(ゆが)めた。


「強がるのもいい加減にしたまえ! どうせ夜な夜な公爵閣下(かっか)(おび)え、部屋の(すみ)で泣いているだけだろう! お前のような無能(むのう)令嬢(れいじょう)が――」


ドンッ! と。

子爵が声を(あら)げ、テーブルを強く叩いて身を乗り出してきた。


その瞬間(しゅんかん)


(ふところ)に入られた!)


毎日五百回木剣(ぼっけん)を振り、組み手特訓(とっくん)で身体に染み付いた反射神経(はんしゃしんけい)が、無意識(むいしき)に作動した。

私はスッ……と椅子から滑るように立ち上がり、極限(きょくげん)まで重心(じゅうしん)を低く(しず)め。


手に持っていたティーカップのソーサー(受け皿(うけざら))を、身を乗り出した子爵の喉元(のどもと)急所(きゅうしょ)ギリギリで、ピタリと止めた。


「なっ……!?」


「……お茶が、こぼれてしまいますよ? 子爵様」


完全なる無意識の反撃(カウンター)体勢。

もし私が短剣(たんけん)を持っていれば、彼の喉笛(のどぶえ)一瞬(いっしゅん)で切り裂かれていただろう。


その確かな『死の気配(けはい)』を感じ取ったのか、子爵は顔面蒼白(がんめんそうはく)になり、ガチガチと歯を鳴らして完全に固まってしまった。


そこに。


「――俺の妻に、何をしている」


応接室の重い(とびら)が開き、ヴァルター様が絶対零度(ぜったいれいど)の声と共に現れた。


「ひぃっ!? こ、公爵閣下! 私は何も!!」


ヴァルター様は怯える子爵を一瞥(いちべつ)もせず、真っ直ぐに私のもとへ歩み寄った。

そして、私の手からソーサーを優しく取り上げると、そのまま私を腕の中へとギュッと引き寄せた。


「ルナリア、すまない。俺が遅れたせいで、こんな(やから)の相手をさせてしまったな」


「し、師匠(ししょう)! 大丈夫です、私は何も……っ」


「無理をして強がるな。こいつに暴言(ぼうげん)を吐かれて、さぞ怖かっただろう」


(いや、震えていたのは完全に子爵の方なんですけど!)


だが、ヴァルター様は私を過保護(かほご)に抱きしめ、大きな手で私の背中を優しく()でてくれる。

私を(かば)い、(いつく)しむような甘い声。

密着(みっちゃく)した胸板から伝わる、圧倒的(あっとうてき)な安心感。


ドクンッ!!!! ドクンッ!!!!


私の心臓(しんぞう)が、本日最大音量(おんりょう)警鐘(けいしょう)を鳴らす。


『ピカァァァァァァァァッ!!!!』


私の胸元のサファイアが、目を開けていられないほどの(まばゆ)い青い閃光(せんこう)を放った。


「なっ!? 警報(けいほう)だと!? 貴様、俺の妻にどんな危害(きがい)を加えた!!」


ヴァルター様が子爵を凄まじい剣幕で睨みつける。


「ひ、ヒィィィッ!! 危害なんて加えていません! そ、それにその光は!!」


子爵は腰を抜かして床にへたり込みながら、私の胸元の光を見て絶叫(ぜっきょう)した。


「そ、それは王都でも限られた者しか手に入れられない『永遠の愛を(ちか)蒼の宝玉(あおのほうぎょく)』! 着けた者の『愛の(たかぶ)り』に反応して光るという……! ま、まさか、あの血も涙もない死神公爵のことを、目が(つぶ)れるほど熱烈(ねつれつ)に愛しているというのか……っ! な、何という常軌(じょうき)(いっ)した令嬢だ! お、恐れ入りましたぁぁぁっ!!」


子爵は完全に戦意(せんい)喪失(そうしつ)し(というよりドン引きして)、脱兎(だっと)のごとく応接室から逃げ出していった。


「……逃げたか。意味不明なことを(わめ)いていたが、やはりあいつは、お前を狙う暗殺者(あんさつしゃ)だったようだな」


ヴァルター様は大真面目(おおまじめ)な顔で(うなず)いている。


(ち、違います! ただ私の『愛の昂ぶり』に恐れをなして逃げていっただけです!)


私は顔から火を()きそうになりながらも、必死(ひっし)誤魔化(ごまか)すための理論(りろん)をひねり出した。


「そ、そうです! きっとあの男、訳の分からない戯言(たわごと)で私たちを混乱(こんらん)させようとした、高度な精神攻撃の使い手だったんです! (だま)されてはいけません!」


「なるほど……『愛』などという、お前が最も動揺(どうよう)しそうな言葉をあえて選び、(すき)を作ろうとしたわけか。卑劣(ひれつ)な奴め。だが、よく()えたな」


師匠は完全に納得(なっとく)した様子で深く頷いた。


よかった、誤魔化せた……!


「だが、警報の光がまだ(おさ)まっていない。やはり精神的ダメージを受けたのだろう。念のため、部屋で身体を(くま)なく確認させてくれ」


「ダメージなんて一切(いっさい)ありません!! これはただの魔力詰(まりょくづ)まりです! お気遣(きづか)いなく!」


遠慮(えんりょ)するな。俺に身体を(あず)けろ」


「だから! それ以上近寄(ちかよ)らないでくださいぃぃっ! 光が、光がもっと強くなっちゃいますぅぅ!!」


……廊下(ろうか)(ひか)えていたメイド長のマーサが、「(あの子爵、まさか王都の貴族界に『氷の死神の妻は、夫を光り輝くほど熱烈に愛している』という真実(しんじつ)を広めるという、(きわ)めて有能(ゆうのう)な働きをして帰っていくとは……)」「(そして当の公爵閣下は、ギミックの真実を告げられてもなお『妻が暗殺者に狙われて心拍数(しんぱくすう)が上がっている』と大真面目に勘違(かんちが)いしておられる……)」と、青い光が()す応接室の扉を見つめながら、満足(まんぞく)そうに頷いていたことなど。


必死に師匠から()まわりながら()でダコになっている私が、気づくはずもなかった。


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