第18話:騎士団との合同訓練。誤作動の青い光が止まりません!
ペンダント事件の翌日。
今日は月に一度、城の騎士団が集まって行われる合同訓練の日だった。
広大な修練場には屈強な騎士たちがずらりと整列している。
「いいかルナリア。今日は多人数での立ち回りを学べ。だが無理はするな」
訓練の開始前、ヴァルター様が私の肩にポンと手を置いて囁いた。
至近距離で見下ろす青い瞳。
心配そうな、過保護すぎるその低い声。
ドクンッ!
(だ、だめ! 心臓、落ち着いて!)
『ピカァァァッ!』
「なっ!? 警報が作動したぞ!! 誰だ、俺の妻に殺気を向けた奴は!!」
ヴァルター様がバッと振り返り、修練場に集まった騎士たちをギロリと睨みつけた。
氷の死神の凄まじい覇気に、屈強な騎士たちが「ひぃっ!?」と一斉に後ずさる。
「ち、違います師匠! 誰も殺気なんて向けてません! ただの誤作動ですっ!」
私は慌てて、修練着の胸元で青く発光するペンダントを両手で覆い隠した。
昨日からずっとこの調子だ。
彼に優しくされるたび、顔を見つめられるたび、私の心臓は跳ね上がり、この『命の危機サイン』が無慈悲に作動してしまう。
「誤作動なわけがあるか。王都の魔術師の最高傑作だぞ」
「私の魔力波長が不安定なだけです! ほら、もう消えましたから!」
必死に深呼吸をして恋心を抑え込むと、なんとか青い光は収まった。
ヴァルター様は腑に落ちない顔をしていたが、やがて騎士団長を前に呼んだ。
「レオン。お前がルナリアの相手をしろ。剣の軌道を教えるだけだ、絶対に当ててはならないぞ」
「は、ははっ! 承知いたしました、閣下!」
指名された若き騎士団長レオンが、ガチガチに緊張しながら木剣を構えた。
私も木剣を握り、彼と向かい合う。
「奥様、よろしくお願いいたします。……あの、どうか怪我だけはなさらないでくださいね。私が閣下に殺されますので」
「ふふっ、お手柔らかにお願いしますね」
レオン団長は深呼吸をすると、「い、いきます!」と私に向かって木剣をゆっくりと振り下ろしてきた。
実戦を経験した私からすれば、止まって見えるほど遅く、完全に手加減された一撃だ。
私が木剣でそれを受け止めようとした、その時。
「やめろ! その軌道で打ち込めば、受け止めたルナリアの手首に変な負担がかかるだろうが!!」
ドンッ!!
ヴァルター様が瞬きする間に私たちの間に割って入り、レオン団長の木剣を素手で弾き飛ばした。
そして、そのまま私を庇うように、背中にギュッと抱き寄せる。
「ひゃうっ!?」
「ルナリア、怪我はないか! 今の一撃、関節を痛める恐れがあった!」
背中に密着する、分厚い胸板。
私を気遣う、焦ったような甘い声。
そして、どんな小さな衝撃からも私を完全に守り抜こうとする、圧倒的な過保護。
ドクンッ!!!! ドクンッ!!!!
私の心臓が、大音量で警鐘を鳴らし始めた。
『ピカーーーーーッ!!!』
「なっ!? また光った!? レオン貴様、剣に呪いでも仕込んでいたな!!」
「し、仕込んでません! というか私、まだ奥様の剣に触れてすらいないんですけど!?」
冤罪をかけられたレオン団長が悲鳴を上げる。
違うの! 呪いじゃないの!
私の胸元の青い光は、師匠のその過保護すぎるバックハグのせいなの!
「ええい、今日の訓練は中止だ! 医務室へ連れて行く!」
「し、師匠! 大丈夫ですから、下ろして……っ」
私の抗議も虚しく、ヴァルター様は私を軽々と横抱きにすると、修練場をズンズンと歩き始めた。
至近距離の端正な顔。
揺れるたびに伝わる、彼の大きな鼓動。
私の胸元のサファイアは、もはや直視できないほどの青い閃光を放ち続けていた。
『ピカァァァァァァァァッ!!!!』
「くそっ、発光が止まん! まだ見えない刺客が追ってきているのか!? ルナリア、俺から絶対に離れるなよ!」
「も、もうやめてくださいぃぃっ……!!」
……取り残された修練場で、騎士団長レオンが「(公爵閣下……あれ、どう見ても『命の危機』じゃなくて『恋のドキドキ』に反応してますよね)」「(ああ……閣下が奥様を抱きしめるたびに光が強くなっている。ご本人は、ご自身の過保護が原因だとは夢にも思っていないのだろうが……)」と、青い光を放ちながら遠ざかっていく主君の背中を見送りつつ、深く同情の溜息を吐いていた。




