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014 サキュバス・ヒーラー イレーネ

(アリシアの安否を確認するには何が必要か……)


 ロギは前提条件を考える。ホープエンドに入場できる姿は絶対だ。となると人間に擬態出来るか人間と言い張れる姿でなくてはいけない。この時点でシャドーエルフ、獣人、そしてダークドヴェルグが候補から消える。グールとゴーレム、そして装甲獣は姿以前に人間とコミュニケーションが取れないので無理だ。彼が新種族を選ぶのは当然の帰結だ。ただその新種族を何にするかで悩む。


(カレンティーナの許可が出たし、やはりサキュバスが最善か?)


 ロギはサキュバスの有用性を知っている。それ故敵だったサキュバスの死体をリソースに魔城に忠誠を誓うサキュバスを生み出そうと考えた事は一度や二度ではない。ただ合流していないカレンティーナへの裏切りになる気がしてここまで自重している。魔将カレンティーナで召喚可能にする下位ユニットのインプは進化してサキュバスになれる。カレンティーナ不在でサキュバスの戦線投入は彼女の怒りを買うかもしれない。


 だがその心配はもはやない。初めてアムが玉座の間に踏み込んだ時にカレンティーナ由来のモンスターを召喚出来るようになった。これはケーレニオンがダークドヴェルグの召喚を認める一時間ほど前の事だ。ほぼ同時とはいえ、キングの駒の次にクイーンの駒が助力してくれて嬉しかった。未だ呼びかけには応じないが、アムから聞いた話が本当だとすると、何らかの狙いがあって老婆のフリをしている。強権を使って呼び戻すよりもカレンティーナのやりたい様にやらせた方が良いとする。


 カレンティーナが聞けば寝耳に水の事態だ。自分が不在なのに他のサキュバスを使ったと知れば不機嫌になる。アムの入室とカレンティーナ由来のモンスター召喚許可は一種の事故である。カレンティーナが自分との関係を示す証拠としてアムに手渡した髪の束を魔城が取り込んだ事でその召喚ツリーが解禁されたに過ぎない。


 ロギはカレンティーナの許可と言う免罪符を得たとして、アリシアが嫌がるサキュバスを召喚する準備を始める。


(娼婦は在り来たり過ぎる)


 全世界のサキュバスを敵に回しかねない事を考えながら手元のパネルを操作する。


(サキュバス・マトロンの死体をベースにしても英雄化は無理か。純粋にリソースの種類が不足している)


 ロギは二人目のルジャールを求めてはいない。しかしアリシアの下に送るのなら最低でも中級上位のユニットにしたい。ただの中級上位のユニットならヴィアラが居るのでサキュバスには何か特色を付けたい。


(世界樹の枝を与えるとサキュバス化したエルフか)


 世界樹の枝は世界樹伐採に苦戦しているシャドーエルフが伐採している証拠として差し入れた素材だ。ロギはシャドーエルフが世界樹を独占しようと訝しむも、シャドーエルフの世界樹嫌いは根深いと思い出し、しばしの猶予を与える事にする。ルジャール達は本気で伐採しているが、世界樹の自己治癒能力の方が高いために成果が上がっていない。もはやジャイアントストーンゴーレムか魔将アリシアを援軍として派遣して欲しいと頼まないといけない段階に来ている。それはせっかく回復したルジャールのプライドに大打撃を与えるが、ルジャールとて任務失敗よりは良いと損切りする。


 サキュバス化したエルフならエルフの少子化問題を解決しそうだが、エルフと言う理由で此度の仕事は任せられない。ロギは面白そうなユニットが出来たと思い、手元の羊皮紙にこれの作り方を書き記す。


(ブラッディ・トレントの枝を与えるとブラッディ・サキュバスか。全体的にこのトレントはハズレだな)


 コーティレルの本体は勇者レイオス戦を前に全部マナに返した。それから得られた莫大なマナのおかげでアムとクラウンガーディアンの強化が間に合った。本体とは別に何本か枝が手に入ったので、これは強化パーツとして残してある。ブラッディ・サキュバスは普通のサキュバスに殺人衝動と食人癖を追加する。アリシアの件が無くても使い道がない。『リージョン・オブ・ジ・エターナル・フレイム』はこの様に明らかに駄目なコンビネーションを自力で試す余地があった。


(隠しチートユニットを探すために手動で何十時間も色々な組み合わせを試したのが懐かしい)


 『リージョン・オブ・ジ・エターナル・フレイム』では一般的なモンスターをボタン一つで作れた。それとは別に上級者用のカスタムビルドを用意していた。熱心に使ったプレイヤーは数人だけで、大半は掲示板に上がった「最強のモンスター」レシピを参考に再現するだけだった。


(他に残っている素材は勇者パーティーの狩人か。サキュバスに射撃スキルを追加してもな)


 結果だけ見ると決して悪くはない。ただ求めている性能ではない。


(スキルから何か見繕うか?)


 ロギはマナを大量に注いで強いサキュバスを作れば良いと諦めだす。しかし最後に余ったスキルを試す。スキルの追加はあれど種族そのものは強化されないのでスキルだけでは非効率だ。


(ん? 希少な魔法スキルは問題無く入るか。ケーレニオンの持っている四属性魔法の杖が使えるモンスターが出来るのか!)


 ロギはその新発見に小躍りしそうになる。しかし四属性魔法の杖は得ていない。ロギとアリシアでは使い道が無いので他の四つから三つ選んでいる。ロギは軽く考えるも、人間社会では四属性を使えると言うだけで神の如く崇められる。


(しかしやはり回復魔法とサキュバスの相性は悪いみたいだ)


 ロギはロールプレイに拘る所がある。清楚な女性が実はサキュバスだったは、ロギの中の設定厨にドストライクだ。しかし清楚だけでは弱い。ここはもう一歩先んじた何かが欲しい。そこでサキュバスが使えない回復魔法を扱えたら擬態の精度が天元突破するに違いない。


(回復魔法……回復……あのエミリーを素材に使えないのは惜しい事をした!)


 ロギは逃がした魚は大きかったと後悔する。しかしアザンディオスの行動が上手く行けば大戦略上多少楽が出来るので強く非難は出来ない。


(そう言えば世界樹は回復薬の材料になるとか)


 サキュバス・マトロンに世界樹の枝を追加してサキュバス・エルフにする。そこに回復魔法スキルをダメ元で追加すると、見事に回復魔法を覚える。


(凄いぞ! これは大発見だ!!)


 ロギは玉座の間で小躍りする。回復魔法を使えないサキュバスに回復魔法を与えられたのは快挙だ。


(エルフで無ければ! エルフで無ければ!)


 ロギは頭を左右に振って何か案が無いか考える。いっそ人間の死体を百体ほど追加すればエルフの部分が薄れるかもしれない。死体のストックが少ない状態で無ければ本当に試していただろう。


(世界樹の枝を抜いたら回復魔法だけ使えるエルフが残ったりするか?)


 『リージョン・オブ・ジ・エターナル・フレイム』では選択出来ないコマンドなのでロギは無理だと思いつつもヤケクソで試してみる。そしてロギの予想に反してサキュバスの表記からエルフが消える。そしてエルフの能力が全体的に下がるも、追加したスキルはそのまま残る。


(抜けた? ……いや世界樹の枝は消費扱いのままだ。これではまるで世界樹の枝を触媒として使っているみたいでは無いか!)


 ロギは余りの事に放心する。この理論が他にも適用出来るのならロギは『リージョン・オブ・ジ・エターナル・フレイム』では夢想したが実現できなかった特殊設定のモンスターを生み出せる。


(世界征服が楽しくなって来た!)


 大陸には不幸な事に、ロギが目覚めてから初めて大陸を制覇する理由が出来てしまう。


「さて、早速召喚だ!」


 玉座の間に魔法陣が浮き上がり、膨大なマナが素材を食い尽くしながらサキュバス・ヒーラーをロギの眼前に創り出す。しばらくすると170センチほどの恵体がロギの前で膝をつく。全身を覆うシスター服は明らかにサイズが一つは小さく、激しい動きをせずとも何かがはみ出しそうだ。帽子から漏れる銀髪が唯一残っているエルフの名残だ。


(あ、そう言うのをカスタマイズし忘れた!)


 ロギはここでサキュバス・ヒーラーを創り出すのを優先して彼女の容姿を「お任せ」にしていたのに気付く。


(悪くない)


 ロギはランダムで選ばれたはずの姿に合格点を出す。ただイレーネの来ている衣装がロギの前世基準のシスター服寄りなのが多少気になる。この世界の女神官はもうちょっと露出の多い服を好む。この世界では魔法の行使には衣服が邪魔になると信じられており、高位の魔法使い程布面積が減ずる。なのでアリシアが装備していたビキニ・アーマーもそれほど変ではないと言い張れる。アリシアの様な前衛は逆にガチガチに身を固めるのが普通だと反論されては答えに窮する。


「魔城様に忠誠を誓います」


「うむ。名前が無くては面倒だろう。イレーネと名乗るが良い」


「有難き幸せ! それで私は誰を骨抜きにすれば良いのでしょう?」


 イレーネは早速魔城のために働くつもりだ。


「此度は魔将アリシアの安否を確認して来い」


「安否確認ですか?」


 呆気に取られるイレーネ。


「サキュバスの本分では無いが、アリシアに近づけるのは貴様だけだ」


「魔城様の命とあれば!」


(ルジャールやベルフラウほど自己主張が激しくないのか)


 ロギは英雄に至っていないユニットは魔城への忠誠心が自意識より強いと知る。誕生当初の時だけかもしれないが、配下の忠誠心の高さに比例する独自行動の酷さに疲れているロギにはイレーネは一種の清涼剤に思える。それはサキュバスの魅了効果では無いと信じたかった。


「その姿とその力を用いればアリシアの傍に居てもサキュバスとは疑われない」


「女性の神官に擬態する事には自信があります」


「状況次第ではそのままアリシアの下で長期任務を任せる。アリシアは敵が多い。貴様が好きに出来る敵の男も多かろう」


「それは楽しみです」


 イレーネがサキュバスらしい笑みを浮かべる。


「ホープエンドの状況は何処まで把握している?」


「領主討ち死にまでは把握しています」


「良し。ならばホープエンドが混乱するのは分かるな?」


「はい」


「アリシアが本調子ではない。ここで彼女を失うのは私の大戦略に大打撃だ」


「必要とあれば命を賭して救出します」


「そこまでの事態なら容赦なく手すきの軍を全部ホープエンドに送る」


「それは良い事です。後顧の憂いが無ければ全力で戦えます」


「無駄な戦いは控えるのが上策。……ふむ」


「何か?」


(女神官一人が東から来たら疑われないか?)


 ロギはホープエンドが人類の最東で、そこより東は壊滅した開拓村しかない。そこからイレーネが来るのは余りに不自然だ。闇に紛れてホープエンドに侵入は出来るが、その姿では逆に目立つ。レイオスの密輸洞窟を使って西から来たと言い張った方が信憑性が高い。だがそうするとやはり一人で来た事が怪しまれる。


「イレーネ一人では疑われないか気になっただけだ。イレーネは大抵の男の注意を引くほどの美人だ。その他大勢に紛れ込むのは難しい」


「魔城様はお上手ですね。ただサキュバスの宿命か男性には好かれる顔と体をしています」


「前衛を用意する」


「ストーンゴーレムではいけませんか?」


「ストーンゴーレムはホープエンドを襲った事がある。イレーネが黒幕と誤解される」


「それは私の短慮でした」


 イレーネが謝る。


「しかしゴーレムか。意外と悪くない線かもしれない」


 ロギは顎を撫でながらほくそ笑む。イレーネを信じてはいるが、アリシアに悪影響がある可能性は否定出来ない。サキュバスの魅了が効かないもう一体が傍に居た方がロギの精神衛生には良い。


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