013 シューリアの新しい仕事
「ラミア族の依頼を受けたと言う事か」
ロギはシューリアの話を聞き、要点だけ確認する。
「その通りです」
「シューリアは貢物を運んだ後の予定はあるのか?」
「魔城様に仕えるものと考えています」
(人材込みと言う事か?)
ロギはケンタウロスとミノタウロスを今一度見る。
(重騎兵と重歩兵が序盤に手に入れば攻略は有利ではある)
『リージョン・オブ・ジ・エターナル・フレイム』ではこの二兵科を如何に早く出すかで序盤の攻略難易度が劇的に変わる。魔将が弱い内に敵として遭遇したらリセットして最初からやり直す選択する。魔将なら勝てるが、決定打に欠けて無駄な時間を浪費する結果になる。
(半年遅い!)
今でも十分使い道がある。しかしロギがこの二兵科を必要としたのはホープエンドが攻め込んで来た時だ。魔城の防御力が上がり、シャドーエルフと言う戦力が揃っている状況ではオンリーワンな使い道がない。更に間が悪い事に密輸洞窟が崩落した。シューリア達をフェリヌーン隷国へ入れる方法は転移に限定される。そして彼女らの転移コストは元が取れない。エルフ討伐とホープエンド防衛がある中で無駄なリソースは吐き出せない。
「シューリアは普段どのような仕事をしている?」
ロギはこの問題を解決する糸口が無いか探す。
「商人です。偶に傭兵として戦争に参加します」
「商人か。実力の方はどうだ?」
「小規模な商いなら……と言われています」
シューリアは「大商人だ」と見栄を切りたいが、アリシアとの戦いを見られていればすぐに嘘だと露見する。
「フェリヌーンでは仕事が無いぞ」
「そ、それならこの斧で!」
「勘違いするな。シューリアが不要と言うわけではない」
「はぁ?」
「私はフェリヌーン隷国を支配した後は外に打って出る」
聞いている者達の反応は様々だ。
「西ならラストウォールが最初の敵となろう」
「西なら」と言いつつも西以外の道は無い。山脈を吹き飛ばせば南へ抜ける事は可能だ。しかしそこにはマッカデウスが暴れている。魔将が揃わぬ内から彼と戦う気はない。
「ラストウォールを落とせと?」
シューリアは優れた軍人感でどうやったら落とせるか思案する。アリシアを突っ込ませるのが最善と軍師泣かせな答えしか浮かばない。
「逆だ。ラストウォールが落ちてはならない」
「はぁ!?」
攻める予定のラストウォールが落ちては困ると言われたらシューリアで無くても困惑する。
「シューリア、商人としてラストウォールで滞在し、大量の食糧を購入できるか? 私が資金を用意する」
「買えます。穀物の値段はずっと上昇傾向ですが、旧ティファ―ニアはまだ大陸の穀物地帯です」
「なら出来る限り買い付け、ここで保管せよ」
「ここで?」
「今はロッド一本しかない。だが来月には立派な砦に作り替えておく」
「人材は……」
「姐さん、ダンジョンの力と同系統なら砦を創造出来るはずだ」
副官が横から言う。
「私と類似性があると言うか。ダンジョンか、興味深い」
『リージョン・オブ・ジ・エターナル・フレイム』ではリソースを強奪するためのボーナスステージ以上の事は無かったがこの世界ではそれが異なる可能性に思い至る。
「ええ、砦に食糧を保管すると。理由を聞いても?」
「このままではフェリヌーンから流れて来る難民が飢える」
「「?」」
これはアリシアを含めて全員の理解が追い付かない。ロギはそれを見て追加説明の必要を痛感する。
「フェリヌーンは落ちる。それは私の行動もあるが、ホープエンドとイスフェリアの内戦の方が比重としては大きい。内戦の結果、この二つの城塞都市は民を養う能力を失う。行き場のない人間は何処へ向かう?」
「西!?」
シューリアが気付く。
「でも関門がありますよ?」
家が無くなると聞いてベルが声を上げる。
「なるほど、そこで勇者が開拓した密輸洞窟が重要になると」
シューリアは流通の話となれば食いつきが早い。
「難民があの洞窟を通りラストウォールへ向かうとして、受け入れると思うか?」
「全力でぶっ殺します」
シューリアが躊躇せずに答える。百人規模ならギリギリ迎え入れるかもしれない。しかし数千となれば山賊になる前に殺し切る判断を下す。
「であろうな」
ロギも同意する。
「ロギ様はそう言う人達が不幸にならない様に頑張るんですね!」
アリシアは尊敬のまなざしでロギを見る。ロギはにやけない様に努力し無言で頷く。
(アリシアの精神サポートが主で、裸の王様対策が従だ)
アリシアがティファ―ニアの王女だと声高に宣言した所で大軍を差し向けられて殺されるのがオチだ。アリシアを殺せなくても八部殺しを続けて動きを拘束する事は可能だ。それはダアガスの戦い方そのものであり、ロギはそうなった場合の対策を急ぎ講じている最中だ。しかしアリシアが名乗りを上げた時に数千の民が居たらどうなるか。大軍を差し向けるだけでは終わらない状態を作れば人間は交渉のテーブルを用意する。そこまでのおぜん立てをしてアリシアに決着を任せる。
(外交コマンドが使えたら)
ロギは未だ選択出来ない外交ボタンを忌々し気に睨む。ボタン一つで降伏勧告や従属勧告が出来る非常に便利な機能だ。外交を封じた最後のプレイ以外では中盤以降は弱小国を武力で脅して従属させたものだ。『リージョン・オブ・ジ・エターナル・フレイム』の仕様上、最後には強くなって裏切るので従属させた国に滅ぼされる事が頻繁に起こる。それがラストプレイの外交放棄に繋がった。
「分かりました! 魔城様に忠誠を誓い食糧の買い付けを開始します!」
シューリアが良い笑顔で言う。彼女は内心フェリヌーンへ行きたくは無い。ラミア族への借りを返すために動いたが、可能なら商人として活動し続けたい。
(良い笑顔だ。無理やりこっちに連れて来るよりは期待できる)
ロギはフェリヌーン隷国が生き辛い国なのを知っている。まともな職を持つ人間なら絶対に来たくない。
「貢物は転移で貰うが、構わないな?」
「はっ! 大丈夫です!」
シューリアの命令でミノタウロスが貢物をロッドの近くに置く。転移の魔法陣そのものは余り大きくないのでロッドの近くに置く必要がある。ミノタウロスが作業をしている中でロギはヴィアラに話す。
「ヴィアラにはシューリアとの連絡を頼む事になる」
「お任せください」
ロギは貢物を魔城に転移させ、魔城から金貨が詰まった袋をアリシアのいる場所へ転移させる。
「手始めにはそれで始めよ」
「こ、こんなに!?」
「足りぬか?」
「だ、大丈夫です! 必ずや!!」
シューリアはおっかなびっくりで金貨の袋の中を確認する。銀貨であると内心祈っている様だ。しかし中身は全部金貨であり、持ち逃げすれば数十年は遊んで暮らせる。
「お嬢様のパトロンだけあって太っ腹!」
「金貨しか無くて最初は苦労したんだから」
ベルが素っ頓狂な声を上げ、アリシアが天然ボケなツッコミを入れる。
「残るは貴様らか」
「……」
レグは座ったままロギを睨む。ポーションで回復したとは言え、本調子には程遠い。
(どうしたら良いんだ?)
ロギのイメージでは「獣人は強いが使い辛い」ユニットだ。そしてアリシアとの戦いを見る限り、ロギの想定より輪をかけてこの傾向が強い様に見える。一切制御出来ずに最後は勇者まで呼び込む大失態をおかして自滅したウェアウルフ小隊の悪夢が蘇る。周りが敵だらけのために魔城に被害は無かった。しかし魔城が村を支配していれば、ほぼ確実にその村に被害が出ていた。
「戦わせろ!」
レグが唸る様に言う。
「戦場を求めるか」
「俺様達は戦士だ! 飼殺される位なら戦って死ぬ」
ロギはシューリアを横目で見るが、彼女はもう口を出す気が無い。下手な事を言ってロギの不興を買ったりミノタウロスの下剋上を恐れている。ミノタウロスは同族の副官をトップに添えて結果を出せば良いと思っている節がある。シューリアが致命的なミスをしない限り副官から裏切る事は無い。そしてシューリアはレグへの援護射撃はその致命的なミスになる可能性をひしひしと感じている。
「戦場なら用意してやろう。功があれば何を望む?」
「国だ」
「獣人の国か?」
「そうだ」
「イスフェリアの跡地で良いのならやろう」
「何処だ?」
ロギはズッコケないので精一杯だ。
「ラストウォールから関門を通った所にある城塞都市だよ! 何回も教えただろう!!」
堪らずシューリアが叫ぶ。シューリアまで馬鹿と誤解されては堪らない。
「ああ、あそこか。鼻の詰まる香水の匂いが薄らいだ所か」
「あの地のサキュバスは全員そこのアリシアが殺し尽くした」
ロギは直感からサキュバスの事だと考え話題を振る。
「そうか! ならラストウォールの腐臭もなんとかしてくれ」
「フェリヌーンを落としたらな」
ロギはここまで話が通じているのか通じていないのか分からない相手は初めてだ。なので切り口を変える。
「女子供はどうする?」
「戦えない奴が不用ならここで殺す」
国盗りの足手纏いには生きる価値が無い。
「入用だ」
これが味方なのかと頭を抱えたい思いを押し殺す。
「預けてやる」
「預かろう」
(これで良いのか? 誰か獣人に詳しい奴はいないのか?)
ロギとレグの間で合意が成立する。
「ヴィアラ、獣人は洞窟を通れるか?」
「可能と思います。ただ食糧と水が必要です」
「これで足りるか? 他には?」
ロギは酒と肉を大量に転移させる。
「十分です……」
「存念があるのなら申せ」
「はっ! 実は通路の途中に断崖絶壁があり、どうも下の方で川が流れている模様です」
「通れないと言うわけでは無かろう。……モンスターか!?」
「一体も確認出来ませんでしたが、南から来るのではと懸念します」
「うむ、良く知らせてくれた! 後日調査部隊を組織する」
「はっ!」
「さてと、残るはベルか」
「わ、私!? 肉付きは良いですが食っても美味しくありませんよ!?」
ベルがさっとアリシアの後ろに隠れる。
(普通は逆じゃないのか? いや、ベルの事だ。これが普通だ)
「案ずるな。取って食う気など無い」
「本当?」
「ロギ様は食に五月蠅いから。ベルは食当たりを心配して食べないよ」
ロギはアリシアに弁当の差し入れをしている。それをベルは「美味しい」と言ってつまみ食いしている。真実を知ればどんな反応が返って来るか。ロギは今度の機会にばらそうと考える。
「今日見聞きした事を黙っているだけで良い」
「お嬢様の雄姿を自慢できないなんて!」
シューリアとレグがビクッとする。
「アリシアが魔将なのは対外的に格好が悪かろう?」
「あ、ああ! 前回ホープエンドを襲ったのは!?」
とろいベルはやっと気づく。
「私だ」
「間に合って良かったよ」
「う、う~。お嬢様が敵で味方で……。うあ~ん、分かりません!!」
「大丈夫、大丈夫。私はベルの味方だから、ね?」
アリシアがベルに抱き着いて宥める。
「私とアリシアの関係は半端な理解では真実には辿り着けん。黙っているのが最良だ」
ロギが畳みかける。ここでベルが頷かなければ殺すしかない。アリシアが同意してくれる可能性は低い。
「わ、分かりました! でもパトロン様が悪い事をすれば必ずお嬢様が立ち塞がりますよ!」
「え? ちょっ……」
「ははは! それは良い。アリシア、その時が来れば雌雄を決しようぞ。」
「分かった。でも私はロギ様を信じているから」
そこには二人にしか分からない確かな絆がある。
ロギはアリシアとおまけのベルをオリールの近くのロッドに転移する。シューリアはミノタウロス達を連れてラストウォールへの帰路に付く。獣人達は酔いつぶれて出発は明日になりそうだ。ロギは何とかうまく事態を納められたと安堵する。
応援よろしくお願いします。




