021 晩夏の防衛戦 決着
一章ラストです。
最後の戦いは前作の焼き直しです。
二章は9月10日より開始します。
「アリシアは右、ロギは左に立つが良い」
アザンディオスが玉座の間での立ち位置を事細かに決める。アリシアは困惑しながら言われた通りにする。アリシアは右利きのため、右側に立った方が聖剣ファイアブリンガーを振りやすい。ロギは攻撃手段を持たないので完全に賑やかし要員だ。三人の少し前方に2体のクラウンガーディアンが剣を掲げて状態で直立している。本来ならこの2体だけで決着が付くほどだが、アザンディオスはインテリア程度にしか考えていない。
「ふむ、まあこんなものか。次までにはまともな内装を期待する」
玉座の間を照らす魔法燭台の位置や明るさを微調整してある程度気に入るライティングが完成した。違いが分からないと言えばアザンディオスの解説レクチャーが半日は続きそうなのでアリシアは無言を貫く。
「善処する」
ロギは玉座にふんぞり返るアザンディオスにそうとしか答えられなかった。『リージョン・オブ・ジ・エターナル・フレイム』には調度品についての言及は無かった。「大魔王」と呼ばれる男が満足する内装とは如何なものかイメージが出来なかった。
そしてドタバタと音がして、玉座の間が大きく開かれる。勢い良く乗り込んで来た『巨人の鉄腕』と『輝く石頭』が玉座の間の雰囲気に飲まれて止まる。
「何故止まる!?」
後ろからキスーン卿と彼の譜代騎士が遅れて入って来る。そして彼らもまたこの光景に言葉を失う。正面の椅子には圧倒的な存在感を醸し出す男が鎮座している。キスーン卿の視点では左側にはこの世の物とは思えない美姫が裸より煽情的なビキニアーマーを纏い優雅に佇んでいる。片や右側には取るに足らないみすぼらしい男だ。目に見える者はある程度正確に理解出来てもロギの本性を見抜けない程度の男でしか無かった。ロギこそがキスーン卿が指揮した討伐軍を壊滅させ、彼の命と家の名誉全てを徹底的に滅ぼす存在だ。
「良くぞ玉座の間まで到達した。余は嬉しいぞ」
アザンディオスが口を開くだけで場を支配する。ジンドが武器を握り直すも、鋼の自制心で動かない。ここで恐怖に駆られ飛び出しては死ぬ。ここの全員が力を併せたらきっと勝てると信じるしか無かった。フェインも同じ考えなのか、先ほどから無言で祈っている。相手が仕掛けないのなら、この間に少しでも準備をしないといけない。アザンディオスはそんな事をまるで気にしていない体で続ける。
「余の名はアザンディオス。人間は余の事を大魔王と呼ぶ」
「「アザン……ディオス!!」」
余りの衝撃に言葉が自然と漏れる。最悪最強の大魔王は聖女を始めとした数多の英雄が犠牲になり封印されたはずだ。それが何故こんな僻地の魔城に居るのか誰も理解出来なかった。
「封印はどうした!」
ロバートが問う。彼が過去に習った限りでは108重積層結界の突破方法は未だ発見されていない。5重積層結界ですら書痴狂ケーレニオンの入れ知恵が無ければ突破するのに1000年は掛かった。その入れ知恵があっても10年は掛かる。108重積層結界ともなれば多少短縮しても天文学的な時間が必要だ。
「面白い手品だが、中から見れば一年もあれば解除出来る」
「バカな! ケーレニオンの基本積層数式でも解けない物を!」
ロギは懐かしい名前を聞いた。だが、敢えて言及する真似はしなかった。
「ククク、貴様は何か勘違いをしていないか?」
「何!?」
「ケーレニオンに積層結界の解き方を教えたのは余だ」
「「なんだってぇぇぇ!?」」
「余の必要としていた魔法とバーターで触りを伝えたに過ぎん」
結界内を外にバレない様に拡張する方法とヴァンパイアしか使用できないバックドアなどはケーレニオンの得意とする魔法だった。ケーレニオンは自分の体をリッチにする魔法を既存の知識から構築した様に、彼は魔法知識の応用と発展に天才的な閃きを持っている。だからアザンディオスしか理解できない様な108重積層結界を突破するに必要な魔法を一部とは言え一般の人間が理解できる数式に落とし込めた。
「ぐぅ……」
ロバートは言葉を失う。もしアザンディオスの言が本当なら、近年書痴狂の協力で再構築された魔法大系がアザンディオスの使う魔法の劣化コピーであるかもしれない。アリシアを含めて一桁の足し算すら覚束ない者達はロバートが舌戦に負けたのに気付いたが、何故そうなったのか理解出来なかった。
「さて。そろそろ準備は出来たか?」
アザンディオスはゆっくり立ち上がる。隙だらけの立ち上がりを攻撃しようと思う者はいなかった。そんな目に見えた誘いに乗る以前に動ける者がほとんどいなかった。
(あっ、この悪い癖は『リージョン・オブ・ジ・エターナル・フレイム』のままか)
ロギは何か懐かしいものを見る感じでアザンディオスの背中を見た。アザンディオスに一つだけ欠点があるとしたら、それは相手の全力と戦わないと気が済まない事だ。下手したら相手が全力になるまで数千年待ちかねない。このままの勢いなら世界を食いつぶしかねない異星人はアザンディオスに取ってはまだ戦うステージに上がっていない雑魚でしか無かった。アザンディオスが異星人を戦うに相応しい相手と認識する頃には世界が滅んでいる。
「卑怯とは言わせんぞ!」
ジンドが気力を振り絞って叫ぶ。前衛冒険者は身体強化、ロバート以外の魔法使いは詠唱を凡そ完了していた。後は気を見て一気に畳み込むだけだ。
「当然。全力で来い! 限界を超えて戦え! 余がその全てを叩き潰そう!!」
アザンディオスが両手を広げる。余りにも傲慢にジンド達の全てを引き出し、その上で無情に全てを無に帰すと宣言する大魔王。
「「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」」
我慢できなくなった冒険者の数人がアザンディオスに斬りかかる。身体強化が発動する時間を稼げたが、発動時間は決して長くない。恐怖に駆られ理性が半分以上死んでいても一気に勝負を決めようと思うのは決して間違いでは無い。
「援護を!」
一瞬遅れてフェインが叫ぶ。フェインの祝福が更に冒険者の能力を底上げする。各種属性魔法がアザンディオス目掛けて放たれる。ジンドも覚悟を決めて二の矢にならんと大剣を大上段に構えて突撃する。
これが普通のモンスターなら冒険者は勝てた。並みの狂獣なら相打ちを狙えた。ただ単に相手が悪すぎた。全力で剣を振る冒険者を前にアザンディオスは指を振る。その衝撃で人間だった何かは液状の何かとなって壁の染みとなる。迫りくる魔法はアザンディオスが見るだけで込められたマナが霧散して自然消滅する。その強さは常人の理解を超えた圧倒的なものだ。
「うおおおお!!」
ジンドが雄叫びをあげて剣を振り下ろす。彼は死ぬを覚悟していた。そして死んでも必ず一矢報いると確信していた。
「見せてみよ」
アザンディオスをその大剣を指二本で白羽取りする。ジンドが幾ら力を籠めようと進むも退くも出来ない。それでもアザンディオスをこの場に固定できた。
「……」
ジンドの影に隠れていたスライスが無言でアザンディオスの心臓を後ろから狙う。アリシアが反応して動こうとするも、アザンディオスの雰囲気に制止される。スライス最強の切り札バックスタッブが最高の形で決まる。これを超える一撃はもう一万回放っても出ないと自信を持って言える。
「な!?」
しかし漏れるのはスライスの驚愕の声だ。アザンディオスはスライスの一撃を後ろに回した左手の指で白羽取りしていた。
「連携の良さは認めてやろう。だが些か露骨すぎるのは減点だ」
「この、化物がぁぁぁ!」
ジンドが気を吐くも体は一向に動かない。そこにアザンディオスが力任せに回し蹴りを放つ。最初に当たったスライスはその場で天地分断されいつ死んだのかすら認識出来なかった。そしてジンドの巨体は当てられた衝撃で頭が天井に潰されるまで上に打ち上げられた。かくして『巨人の鉄腕』は全滅した。
「待たせたかな?」
アザンディオスはフェインに向き直り問う。
「拙僧の神に祈る時間を与えてくださり感謝の極み。さあ、拙僧の信仰を見せましょうぞ!」
アザンディオスはこの世界に神が居ない事を知っていたが、フェインの信心に免じて黙っていた。フェインの魔力を纏った特攻はアザンディオスに通じず、フェインは然したる結果を残せず死んだ。
「く、来るな!」
「何故、開かない!?」
キスーン卿と譜代騎士は醜態を晒していた。余りに無様な姿にアザンディオスはため息をつく。そして指を水平に動かす。それが処刑人の剃刀であるかの様に3人の首は宙を舞い廊下にボトボトと落ちた。声を掛けていれば命乞いを始めたかもしれない。配下になるのを認めたら忠誠を誓うのではないかと心配になったほどだ。この手の輩には一切容赦が無いアザンディオスが居て良かったとロギは安堵した。
(あれが貴族か。ここまで酷いのは助かるが、予想より酷いと戦略を立て辛い)
ロギはアリシアの記憶で見た貴族が下の下だと思っていた。それがキスーン卿を見て、あれでも上澄みかもしれない事実に戦慄を覚えた。これから戦う事になるホープエンド、そしてイスフェリアの貴族の出来次第では戦略の大幅な見直しが必要になって来る。バカはどう行動するか予測出来ないから怖い。手勢とリソースが限られている魔城の現状ではこの手のイレギュラーこそが最大限警戒すべき脅威だった。
「さて、貴様はどうする?」
「誰も居ませんよ、は通用させてくれないってか?」
ロバートの姿がブレながら現れる。彼は戦いが始まると同時に透明化ポーションを飲んで隠れ偲んでいた。
「その気なら余の呼びかけには答えまい?」
(そうなのか?)
ロギは逃げの一手をうつのだとばかり思っていた。
「それはどうも。ならこっからは手品の一つでも見せるぜ」
ロバートは腰のベルトから禍々しい色のポーションを取り出した。通常のとは違うその魔力回復ポーションは魔力限界を無視して魔力を体に詰め込む。当然、飲めば破裂せずとも相当な後遺症に苦しむ。異星人に追いつめられた人類がヤケクソで作り上げたポーションなのだから仕方がない。
一瞬の躊躇も無しにポーションを飲み干したロバートの総魔力量が一気に増える。体の節々が痛みで悲鳴を上げる。鼻血が噴き出し、目からは血の涙が流れる。
「そのままでは体が魔力に耐えられずに破裂するぞ」
「魔力の総量まで計れるとは、大魔法は本当に化け物が!」
アザンディオスはさも当然の様にロバートの限界を見抜いた。しかしこれが出来る存在は人類側にそう多くない。だがそんなアザンディオスだからロバートの行動に興味が湧いた。言葉をかわそうにも、ロバートは詠唱に集中し出した。
「……穢れし炎の祝福をこの身に宿し……」
「第3階級魔法のインフェルノか」
アサンは詠唱から魔法を言い当てた。
「……」
ロバートには突っ込む余裕は無かったが、これも大抵の人類には出来ない。詠唱は秘儀であり、第2階級以上の詠唱は厳重に秘されている。詠唱中に漏れ聞こえた単語から正解を当てるのは至難の業。ロバートの認識では魔法王国の最高位魔法使いで無いと不可能だ。
「手品の割には手が込んでいるでは無いか」
両手を組んで満足げに魔法の発動を待つアザンディオス。
(妙だな。『リージョン・オブ・ジ・エターナル・フレイム』では魔法階級はユニットごとに決まっていたが、あの男がそれを放てる存在だとは思えない)
ロギは知らない方法でより高位の魔法が放てるのなら、それは魔城の脅威となると見抜いた。更に魔法には決まった量のマナを注ぐ事で発動すると思っていたが、ロバートは超過マナをこれでもかと注ぎ込んでいる。それでも魔法の威力が少し上がるだけだ。アザンディオスも大した事が無いと気にしていない。ケーレニオンがこの場に居れば、マナの過剰供給による魔法の変質について講義したかもしれない。もしそれが現実だとすれば魔城とアザンディオスは本来存在しない位階の魔法までいつか放てるかもしれない。ロギが考える間に魔法発動が近づく。
ロギならここで魔法発動を潰したが、アザンディオスは最後まで見守るのだろうと諦めた。
「……炎よ、嵐となって我が敵を撃て、イィィィンフェェェルゥノォォォォ!!」
ロバートの第3階級が発動する。本来はこんな余裕を持って詠唱は出来ない。ロバートが死を覚悟していたのと、アザンディオスが絶対に動かないという自負があって初めて可能だった。命と引き換えに放った炎の嵐はアザンディオスを中心に玉座の間を光と熱で溢れ返らせた。術者のロバートの衣服は燃え上がり、ロバートも重度の火傷をおった。第3階級ともなれば、本来は屋外で放つ。玉座の間みたいな狭い範囲で放てば術者も大怪我を負う。
ロギは咄嗟にアリシアに魔法防壁を掛ける。玉座は自動で防御した。ロギは一瞬掻き消えるも、魔法の発動が終わるのと同時にその姿は帰還した。
「はははっ、酷い火傷のはずなのに痛みが無い」
ロバートが呟く。もはやその命は風前の灯火。それでも今しばらくは死ねない。インフェルノの効果を確かめたい。確かめたら絶望するのは分かっていたが、魔法を少しでも齧った者の意地があった。
「第3階級魔法を室内で放つとこうなるか、実に興味深い」
まずは声がした。そして魔法が終わる。そこにはアザンディオスが立っていた。
「やはり、効かないのか」
しょせんは手品だと自重するロバート。ロバートは魔法学園の入学式で見た手品を真似ただけ。命を削って上位階級の魔法を放つのは学園の重要な研究テーマだ。それをパトロン用に視覚化したのがロバートの放った魔法。まともな魔法使いは大道芸の類として決して使わない。
「十二分に効いたぞ。我が服を焼くとは」
しかし、アザンディオスの答えは意外なものだった。アザンディオスはロバート同様に服が燃え尽きていた。高速の再生力で肌は綺麗に見えるが、一度骨が見えるまで体が燃えた。燃えた服は次の瞬間には新しい物に変わっていた。
「服かよ。まあ俺にしては上出来か」
ロバートは満足げに言う。玉座の間もアリシアと玉座以外は燃え尽きていた。本来はロバートの実力では傷一つ付かないクラウンガーディアンは跡形もなく溶けていた。本来ならそれに気付くが、ロバートにはもうそんな思考力は残っていなかった。
「左様。誇るが良い、貴様は見事にこの大魔王に一撃を入れたのだ」
アザンディオスが手放しで称賛する。ただの消化試合と思った一戦。そこでこれほどまでの攻撃を食らえるとは思っていなかった。ロバートの実力について言及するのは野暮であろう。
「何処まで、計画通りなんだ?」
ロバートは問う。答えは返って来るとは思っていない。答えを知ったところで何も出来ない。それでも知りたかった。
「最初からだ」
アザンディオスがあっさり答える。戦略を考えれば黙っているのが正解だが、大魔王の矜持が答える事を選んだ。
「全部掌の上かよ、閉まらね……」
言い切れずロバートは後ろに倒れる。その命の炎は既に消えていた。
(最初から……。やはり私の知らない所で大きな計画が動いている)
ロギもまた、アザンディオスの発言から何か感じ取った。魔将は何を考えて動いているか分からなかった。それでも彼らは魔城と共にあると信じるしか無かった。こうしてキスーン卿が率いる討伐軍は包囲が始まる前に逃げた数人を除いて全滅した。
応援よろしくお願いします。
二章開始前に誤字脱字のチェックと数か所書き直す予定です。




