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闇に堕ちた騎士が照らされるとき



「あれ、ラーシュだ。お仕事中?」


ランちゃんのスカートがふわりと翻る。天使のようにまばゆい笑顔を浮かべた彼女は俺に気付くと、1人ぽてぽてと近づいてきた。以前、ランちゃんと一緒にいた大柄な2人の男に挟まれて、けれどその両腕は今は何にも触れてはいなかった。それを見て彼女の優しさに胸が熱くなる。


「そうだよ。ランちゃんはお休み?」

「うん、今からご飯食べに行ってくる」

「そっか、気を付けてね」

「ありがと。ラーシュもお仕事頑張ってね」

「うん、ありがとう」


ひらひらと手を振ってランちゃんは俺から離れて行く。そして、友人2人のもとに戻り、笑顔で話しながら歩き出した。


ランちゃんの笑顔を見る度に、あの日のことを思い出す。

あぁ、失わなくて良かった、と。

今、俺とランちゃんは俺の家で一緒に暮らしている。もし許してくれるならば、生涯死ぬまでランちゃんと共に生きていきたいと思ってる。そう告げると、ランちゃんはそれを受け入れてくれた。俺の家族にもランちゃんは挨拶をしてくれたし、仲良くしてくれている。


一緒にいる時間が長くなればなるほど、ランちゃんのことがますます好きになっていた。ランちゃんはこんな俺にだけ愛を捧げてくれる。

素直で、自由で、少しわがままで、とても優しい、謎の多い人…。

未だに、俺は彼女の過去の話を聞いたことがない。家族のことさえも…。もう一歩踏み込んで聞くことが怖い。ランちゃんは聞けば答えてくれるかもしれない、けれど、もし聞いたせいでこの関係が崩れてしまったら?

ランちゃんの過去がどんなものでも、俺は変わらずランちゃんを愛するけれど、そんな風にランちゃんの過去を嗅ぎ回る俺をランちゃんは快く思わないかもしれない。


気にならない、と言えば嘘になる。ランちゃんのことなら本当はなんだって知りたい。


けど、俺はきっと、ランちゃんのそばに居られなくなったら、もう正気ではいられない。

毎日が薄氷の上を歩いているような感覚。何らかの要因で薄氷が割れてしまったら、と想像して。嫌われたくなくて毎日どこか怯えている。

そんな俺に、ランちゃんは知ってか知らずか、いつもと変わらない態度で接してくれた。






その日、騎士団の仕事を終えて自宅に帰宅するとランちゃんが家で待ってくれていた。ランちゃんが職場でもらってきてくれた晩ご飯を一緒に食べる。嬉しくてついついがっついてしまった。


「ごちそうさま。ありがとう、ランちゃん」

「うん?ご飯もらってきただけよ?」

「持って帰ってきてくれたし、一緒に食べてくれたから」

「大袈裟だよ。ふふ。私がラーシュと一緒に食べたかったの」


嬉しいランちゃんの言葉に思わず目眩がする。ランちゃんが腕を伸ばして俺の首に抱きつく。心地よい重みを感じる。柔らかなランちゃんの体は甘い香りがした。


「ねぇ、ラーシュ、私ね夢があるの。自分のお店を出すの。可愛い外観のレストラン。ジークとレイがね、協力してくれるって。…もし、お店が出せたら、ラーシュが一番のお客さんになってね」


ランちゃんは意外とリアリストだ。だから、これは、たぶん実現できる、いや、する夢なのだろう。その未来に俺の居場所があることに心の底から安堵する。


「もちろんだよ。…俺に何かできることはある?お金が必要なら」

「ねぇ、ラーシュ、そういうこと言わないで。私はラーシュに応援してもらえたらそれだけで頑張れるから。貴方に負担をかけたいとは思わない」

「負担だなんてそんな!俺が出来る応援なんてこれくらい」

「……なんだか、最近、出会った頃に戻ったみたい」

「え?」

「貴方も私もお互いに遠慮して、怯えて…。好きって、思いを伝え合ったはずなのに」


ランちゃんが俺の首に頭を埋める。その表情は見えないけれど、悲しそうな声に胸が痛くなった。それはきっと、俺の心が弱いせいだ。


「っごめん…不安にさせて。俺のせいだ」

「どうしたら、ラーシュは私のこと信用してくれるのかな」

「え?俺、ランちゃんのこと疑ってなんてないよ!」

「…疑われてなくても、信用はされてない。私にいつ嫌われるかって怯えてる。私も一緒だったからわかるよ」

「それは…」

「いいよ。ラーシュの信用を勝ち取るのも私の役得だから」


ランちゃんは優しく笑う。たぶん、出会った時と変わらない。俺を安心させるための笑み。

聞いても、良いのだろうか?彼女のことならなんでも知りたいと願う、情けない俺を晒しても、嫌わないでいてくれるだろうか。どこまでも惨めで醜い俺の本心。


「もし、よければ…嫌なら言わなくて良いんだけど、ランちゃんの家族のこと、聞いてもいい…?」

「へ?…うん、もちろん」






強い光に照らされて浮き彫りになる暗い影、しかしそれすらもまばゆい光は余すところなく照らし出す。

彼らは光の道を歩む。





〜Fin〜





この度は、闇堕ちワンコ騎士と不幸な蘭 -表- を最後までお読みいただきありがとうございました。

今作品は題名にある通り-表-ルートの作品となります。この2人の-裏-ルートの作品は、今後ムーンライトノベルズ(性描写があるためです)にて公開予定です。もし18歳以上の読者様で当作品を気に入ってくださった方がいらっしゃいましたら、そちらも覗いて頂ければ幸いです。



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