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仲良くなったからにはタメ口くらいきくけれど



お腹いっぱいご飯をご馳走になった私は、彼の助けを借りて、小さなあの街から、この国の王様がいる大きな王都までやってきた。

彼に私のことはほとんど話してない。たぶん別の世界から来たのだということも、この街で何があったのかも。なのに、私がこの街にいたくない、と言ったら、彼は一もニもなく頷いて、躊躇うことなく私をあそこから連れ出してくれた。

彼の操る馬の背に乗って、丸2日の距離に王都はあった。魔物、とは何度か出くわしたけれど、彼が本当に瞬殺で倒してしまったので、怖いと思う暇さえなかったくらいだ。彼の体にしがみついて目を閉じていれば怖いことは何にもなかった。強い彼はこの王都の騎士なのだそうだ。

王都では、あの不細工な男の影響なんて関係なくて、仕事はすぐに見つかった。食堂のウェイトレスさんみたいなもの。非常に忙しいお店でちょうど人手が足りなくなったから新しく雇う人を探していたらしい。給料はそこそこ、なんとか生活する分には困らないし、まかないつきで食費はほとんどかからないからありがたい。

私の家が見つかるまでは彼の家にお世話になった。狭くて申し訳ないです、という彼に、なんで謝るの?と思うくらいの大きな一軒家だった。騎士というのはどうやら高給取りらしい。そして、私の新居もすぐに決まった。彼が探して来て、保証人になってくれて、お金も全部払ってもらった、私の新居。それまでに、タメ口をきくくらいにはお互い仲良くなった。


そこまでされて、それでも、彼は私に何一つ要求しなかった。無茶な命令をされたこともなければ、どんな小さなことでさえ彼のために何かをするよう言われたこともない。そして、何度か同じ屋根の下で夜を過ごしたけれど、当然の如く同じ布団で寝ることは一度もなかった。


彼はひたすらにお人好しだった。友人だから、をまるで免罪符のように振りかざして、彼は私にただただ親切にしてくた。

「ランちゃんの笑顔が見られるだけで俺は幸せだから、君がそんなにお礼を言う必要なんてないんだよ」と何回言われただろうか。結局、はじめに渡されたお金も返そうとしても大丈夫と言われまだ持ったまま。


「流石に、心苦しいよなぁ」


そうは思うが、私が彼に出来ることなんてたかが知れてる。彼が望むことと言えば、私が幸せでお腹いっぱい食べて楽しく笑って過ごす、とかいう、お前は私の母親か?と思うようなことばかり。

今、私は幸せだ。いつの間にか異世界に居て帰れず、不幸なことに変わりはないけれど、それでも、泣きたくなるような絶望を感じてはいない。それは、彼がいてくれたから。だから、私は彼にありのままの自分で接する。私が幸せだと思っていることがちゃんと彼に伝わるように。それは彼のお陰なのだと伝わるように。












その日は久しぶりに彼のお休みの日と私のお休みの日が重なって、私は朝から彼の家にお邪魔していた。

背中には暖かな彼の体温、分厚い胸板は弾力があって張りがあって。そんな彼の胸に身を預け、私は彼の胸の前で本を読んでいた。焦っている彼の雰囲気と、私を包むカチコチに固まっている体、頭の後ろから聞こえてくるドキドキとうるさい心音に私は少し嬉しくなる。少しでも、意識して貰えていたら良いのに。


「ラ、ランちゃん。あの、これは、ちょっと近すぎない?」

「ダメ?私は、ラーシュに後ろから抱き締めてもらうと安心できるからこうしていたいのに」

「えっ!?いや、ダメじゃないけど…。俺、臭くない?」


何を気にしているのか、彼はとっても良い匂いだし、たとえくさくてもラーシュなら構わないのだが。


「くさくないし。ねぇ、ラーシュもっとぎゅってしてよ」

「ぎゅって…。俺達、友達だよね?この距離は流石に…」

「ラーシュだから抱き締めてほしいの」


私は読んでいた本を脇にどけて彼の方へ向き直る。そして、分厚い筋肉に覆われた胸に顔を埋めてグリグリと擦り付ける。張りがあるのに柔らかくて気持ちいい。頬に感じる熱と爆音に近い彼の心臓の音。頭の上から何度かごくりと唾を飲み込む音が聞こえてくる。私はそれに気を良くして彼の引き締まった腰に腕を回しぎゅーっと抱きついた。


「ちょっ!!ど…どうしたの?何かあった?」


彼の何故か心配そうな声に私は思わず笑ってしまう。優しい優しい彼の性格だと、ともすれば奇行とも取れる私の行動さえ心配の対象になるらしい。


「ふふっ、なんにもないよ。ただ、もっとラーシュと仲良くなって、二人で一緒に幸せになれたらなと思って」


私は彼に向けてにっこりと笑いかける。彼はびっくりするほど綺麗な、宝石のような緑色の瞳をしている。彼はそんな綺麗な瞳を眩しそうに細めて頬を赤く染める。私が笑うと彼は顔を真っ赤にして照れる。たぶん、だけれど、脈がないわけじゃ、ないと思う。


私は、当然の結末として、彼に惚れてしまった。


そりゃ、顔がかっこいいのも大きいけれど、一番はやはりその暖かくて優しい彼の真っ直ぐな心に惹かれたんだ。



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