生きるためには仕方がないと諦めて娼婦になろうとしてみたけれど
雨に打たれて、私は空を見上げる。曇天の空は薄暗く、降りしきる雨は細く長い矢のようだ。顔にたまりゆく雨を払って、閉じられた戸を見つめる。
私は往生際悪くどうしようかと頭を悩ませていた。
きらびやかな娼館の前、私は溜め息を吐く。
夕方とはいえまだ今は早い時間である。こんな曇天のなか人影はほとんどない。
異世界に来て1ヶ月。
自分一人ではもう生きていけそうにないことを痛感していた。
24歳の誕生日の夜、気付いたらこの世界にいた。訳のわからない状況にパニックになったのは初日だけ。死にたくなくて、なんとか生きていくために働くことにした。
必死になって働き口を見つけて、なんとか住むところも用意してもらえて、一安心と思っていたのに、その店の常連客である不細工な男に目をつけられてしまったのが運のつき。不細工な彼は居丈高に私に命令したのだ。俺の愛人になれ、と。私は嫌だと言った。だって、彼には既に妻がいて子供も居て、私は体のいい暇潰しくらいにしか思われていなかったから。
けれど、この判断は悪手だった。何故なら、男はこの街ではわりと影響力の大きい人物であったから。私はそのお店を解雇され、他のどのお店でも雇ってもらえなくなってしまったのだ。他の街に行きたくても、街の外はいわゆる魔物が跋扈していて、それをどうにかする手段など持ち合わせてはいなかった。
私に残された道は、娼婦になることだけだった。
何故娼婦なのかと言えば、解雇されたお店で最後まで親切にしてくれた人に教えてもらったのだ。この街の花街には、あの不細工な男の影響力も及ばないらしい、と。
そんな不確かな情報だけを頼りに、私はここまでやって来たわけだが、それでもまだ迷っていた。もしこの店で雇ってもらえたとしても、私は見知らぬ男に身を売ることになるのだ。それは、辛いこと、だろう。もしかしたら、あの男の愛人になってた方がマシだったと後悔することになるかもしれない。けれど、今の現実として私には住む家もなく、食べるものもない。これ以上、ひもじい思いや怖い思いをするのは嫌だった。ならば、迷っている場合じゃないだろう。
私が突っ立って考え込んでいる間に雨はほとんどやんでいた。雨に濡れてもさほど寒さを感じないのは気温が高いからに他ならない。もしもこの世界にも冬があるとしたら、そう考えて私はゾッとした。
ようやく何をしても生きていく覚悟を決めた私は、きらびやかな娼館の扉を叩いた。




