第55話『電話』
家でのんびりと過ごす秀。今日は仕事が久々の休みなので、こうして部屋でゆっくりしている。
「ふぅ〜、今日はゆっくり出来そうだな」
本棚から本を取り出して、しおりのページをめくって読んでいると、スマホから着信が入った。
「ん、誰だろう……」
スマホの画面を見ると、「来宮」からの電話だった。秀は相手をするかどうか悩んだが、来宮の性格を考え電話に出た。
「はい、俺だけど?」
『久しぶりだな秀、元気してたか?』
来宮がいつもと変わらないテンションで話しかけてきたので、秀は内心ホッとした。
「どうした来宮? もう寂しくなったのか?」
秀は少しふざけた言い方で来宮に言ってみると、来宮が急に静かになった。
「……き、来宮?」
秀は来宮の様子を察し、真面目なトーンで心配する。
『…………えぇ。一人だと寂しいので電話したんです』
“おっと、これはマジの発言だな……”
来宮は前よりも素直になってきた。今は意見をぼかしながらも言う様になってきた。
そんな来宮が「寂しい」と、秀に伝えた。
「分かった。俺も一人で暇だったから、お前の相手してやるぞ」
『ありがとう秀。せめて長電話にならない様にするから、最後まで私のそばにいてくれ』
「おぉ、いてやる」
来宮は今、恐らく心が暖かくなっているだろう。秀は何となく電話の向こうにいる来宮の様子が想像出来ていた。
『あのさ秀、この前一人で動物園に行ったんだ。給料である程度お金が入ったからな』
“おっ、一人で動物園に行ったのか。来宮も随分と大人になったなぁ……”
『そこにいたペンギンが可愛いかったんだ! もぐもぐタイムになると、もっと可愛かったんだ!』
“やっぱり来宮は子供だった……‼︎”
ペンギンを前に大はしゃぎしている来宮を想像して、頭を抱えた。
『なぁ秀……』
「なんだ来宮?」
『ペンギンが社会で働く時代が来たら、世界は一体どうなっているんだろうか……?』
かなりマジなトーンでアホみたいな質問をしてきた来宮に、やや引いていると、
『人間と共にペンギンが働き、人間の言葉を喋るペンギンに進化したら、この世界は劇的に変わると思うか……?』
来宮の声には一切のウケ狙いがなく、純粋に秀からの答えを待っている。
秀はなるべく来宮のテンションに合わせようと、それなりのセリフで答える。
「そうだな。劇的に変化はしなさそうだが、闇に満ちた社会に抵抗する事なら出来そうだな」
『皇帝ペンギンならぬ、抵抗ペンギンですか。なかなか面白い発想をしますね、秀は……』
「今のどこに面白さがあったんだよ……」
『そういえば、秀は仕事休みなんですか?』
「いや、今更気付いたのかよ‼︎」
『えぇ、てっきり休憩時間の合間に話していたのかと……』
「だとしたら、時間的におかしいだろ。まだ朝の十時だぞ?」
『そうですね、秀の仕事場はもっと後に休憩時間があるんでしたね。まぁ、私と職場が同じなので粗方スケジュールを知ってますが……』
「知ってて言ったのか……?」
『いえ、先程の発言は本気でしたが?』
本当なのか嘘なのか。この発言に対して疑問があったが、無視して話を進める事にした。
『それよりも、聞いて下さい秀。私の給料が上がったんですよ! これは栄誉ある褒美です!』
「おお! やったな来宮! お前もついに真面目な働きぶりが認められたのか〜」
『当たり前ですよ、我の存在は如何なる人間の目にも映る存在。影の濃さなら誰にも負けませんよ!!』
まぁ、間違った事は言ってない。
どちらかと言うと、来宮の言動が影の濃さを決定付けているのだから。
『なので秀、もしお互いに余裕が出来たら…… その……』
急に来宮がモジモジしだした。言うのが恥ずかしい事なのだろうか?
「なんだ、来宮? 言えそうか?」
『いっ、言えますよ……!! その、秀? もし、もしですよ? お互いが休みの日でお金に余裕があり、そして今よりももっと深い絆に結ばれた暁には…………』
来宮は勇気を精一杯振り絞って、自分がしたい事を告白した。
『い、一緒にどこか遠くに行きたいです……‼︎ 駄目でしょうか……?』
“俺と「デートがしたい」って事か……”
思えば、二人は学生時代に両思いになったが、デートをした事が一度も無かった。
「……おぉ。お前と一緒に、どっか良いトコ行こうな」
しばらく来宮は無邪気な喜びの声を上げ、
『えぇ! 一緒に旅行しましょう!』
嬉し泣きをしながら答えた。
『あわよくば、秀と一緒にお風呂に入れるホテルが良いです……』
「分かった分かった。知らない人とお風呂入らないんだろ? 今度二人で入れるホテルを探そうな」
『秀が望む場所なら、私は何処へでもついて行く覚悟はありますよ?』
「いや、共倒れだけはしないでくれよ?」
『えぇ、分かってますよ。では秀、私はもう寂しくないので切りますね。それではまた会おう』
来宮からの電話が切れた。秀はスマホの画面を見ながら、
「そういえばアイツ、北海道に行きたがってたなぁ……」
修学旅行の準備中、来宮が「自然を楽しみ、自然の中で夜を過ごしたい」と言っていた事を思い出す。
「いつか来宮と一緒に、北海道に行けたら楽しいだろうなぁ…………」
来宮「……………………」
(気分が最高潮に到達する)
来宮「いやぁーーーー‼︎ 言っちゃいました‼︎ ついに言ってしまいましたよ‼︎」
(ベッドの上で大暴れする来宮)
来宮「秀と初めてのデート…… これは運命の選択なのだろうか……?」




