第26話『学校祭(後編)』
「…さっきから、私の事見てるでしょ?」
「えっ、えっと〜…」
美紀は辺りを見回し、彼女の目を見ない様にした。
「み、見てたけど…」
美紀がキョロキョロしてる時、壁伝いで歩く明の姿が目に入った。
彼女が美紀の目をジッと見ながら、
「…明が気になるの?」
「えっ…?」
美紀はキョトンとなって彼女の目を見た。
が、彼女の目から何か普通じゃない『何か』を感じ、すぐに目をそらした。
美紀はさっきの発言をしっかり聞いている。
耳を疑うセリフをハッキリと…
「…私、あの子の名前言ってないんだけど」
すると彼女は表情が全く変わらずに距離を数ミリ離し、
「…そうだね。確かに言ってなかったね」
さらに距離をとり、
「…あの目が見えない子って明って言うよね?」
「えぇ、そうですよ…」
突っ込まずに答えると、今度は彼女の口から、
「…文音は元気にしてる?」
「えっ…?」
この人は、前の学校のでのクラスメートだったのだろう。
だとしたら、あの二人を知ってるのも納得だ。
「あ、はい。元気ですよ…」
さすがの美紀も身構えたが、かのが両手で緊張を解く様にジャスチャーをした。
「…敵じゃないよ。私は人だよ」
「いや、それは見て分かりますけど…」
美紀は緊張を解いたが、それでも彼女から感じる『変な気』は常に放たれていた。
『その気』は、彼女の周りがガラスのヒビが入った様な視界になっていて、彼女自身は色遣いが壊れて液晶テレビ画面の内側にヒビが入った時の画面の様な体になっている。
今は彼女は動いていないが、もし少しでも動くとあまりの壊れた色彩バランスを前に嘔吐く程。
「何だか、普段見ない制服だなぁ〜って思って見てて…」
すると彼女は自分が着てる制服を見て、前と後ろの身だしなみまで確認した。
「…私は東京の人間じゃないんだよ。見た事がないのも無理ないよ」
「やっぱり、遠くからわざわざ来てくれたんですね。ありがとうございます」
「…カレー、美味しかったよ」
彼女の微笑みを見て、美紀はお辞儀したが、まだ彼女との会話に違和感を感じている。
それが何なのか。
それが分からない。
「あの、アナタは明と文音の知り合いなんですか?」
「…うん。知り合いだよ」
「あ、じゃあやっぱり––––」
「…一緒に暮らしてた仲だよ」
「はい…?」
美紀はキョトンとした顔で彼女を見ていると、
「…部屋は別だけど、一緒に歯磨きしたり食事したりしてたんだよ」
「そ、それって… 寄宿舎での生活なのかな?」
彼女はポーカーフェイスを崩さずに答えた。
「…うん、寄宿舎だよ」
すると彼女は突然周りを見渡しながら美紀の手を握った。
「…ねぇ、ちょっと場所を変えようよ。一緒にロールケーキを食べながら、ね」
美紀は困った表情を見せたが、彼女を見てると何故か『断る』という選択が本当にしていいのかと考えてしまう。
そしてそのまま抵抗せずに甘味処コーナーに行ってしまった。
実行委員である美紀は、とうとう客と一緒に甘味処の席に座ってしまった。いつ仕事が入ってもおかしくない時間になったが、その事を伝えようとする前に彼女から話が始まってしまった。
「…最近、物騒な事件が多いね」
「そ、そうだね… デモとか火事とかを毎日報道してるからね。私が絶対に許せないのはアニメ会社の放火事件だよ! 相手が普通じゃない人だったらしいから、何処を燃やしたのか想像出来てないかもしれないけど…」
「…じゃあ、犯人は何を考えて事件を起こすんだろうね?」
「おぉ、そう来たか…」
美紀は犯人の事を考えようとしたが、ふと我にかえった。
「いや、この話はここでする様な中身じゃないですよ。そもそも、ここは学校祭の会場です。ここではなるべく祭の話か今後の予定の話にして下さい」
少しだけ強めに伝えると、彼女は黙り込み、ロールケーキを食べ続けて完食した。
席を立ち、何歩か歩いて美紀の方を見て、
「…今のは場違いな話だったね。不謹慎だったよ」
そして小包を取り出し、美紀に差し出した。
「…これ、文音に渡してね。気になったら箱を振っても良いよ」
「振るのは良いんだ…」
一応箱を振ってみると、特に大きな音は出なかった。
“柔らかい…?”
美紀は中身が気になったが、マナーとかを気にして聞かない事にした。
「これは、文音にしっかり渡しておきますね。来年も来て下さい!」
彼女はゆっくり振り向き、
「…また来るね」
昼が近付き、そろそろ美紀の出番がやってくる頃の時間。美紀は文音が担当するスペースを訪れ、店員に事情を説明した。
実行委員として店員スペースに入り、文音を呼んだ。
「文音! ちょっと来て!」
文音には直接声が届かなかったが、明のおかげで文音の耳に届いて美紀の許に来てくれた。
「どうしたの、美紀? 何か手にしてるけど…」
美紀は演技臭い笑みを浮かべながら箱を文音に手渡した。
「コイツは、アイツが遺した思い出の結晶だ。文音、アイツの分まで生きてやるんだぞ…」
「どうして『努力、友情、勝利』がテーマの漫画みたいなセリフでこれを…」
箱を開けてみると、中には手紙と手袋と犬の手人形が入っていた。文音は何秒か中身を見て、美紀を見た。
「ねぇ、これは誰から渡されたのかな?」
美紀は目をそらして、正直に答えた。
「聞いてない… あっ、でもね、すごく不思議ちゃんみたいなオーラがあって、話し方がワンテンポ遅れてる子だったよ」
「えっ…」
文音は心底驚いた顔で美紀の目を見て、
「七海ちゃんが来たの?」
「七海ちゃん?」
「あっ、ごめん… 名前を聞いてないんだっけ…」
文音は体育館にある自分のカバンに箱を丁寧に入れて、チャックを閉めた。
「私が中学の時の親友でね、中学を卒業してから東京を離れて、一人暮らしをしながら高校を通ってるんだ」
「へぇ〜、どこにいるの?」
「そこまではちょっと…」
しばらくして、美紀は「はっ」となった。
「あっ、もうバンドの時間だ! 急がないと!」
美紀は焦らながら着替えを始めた。
「焦ったら駄目だよー」
文音が注意をしたが、もう美紀は更衣室に入ってしまい、聞こえなかった。
次回掲載日 2019年11月17日 午後1時




