第24話『美紀にはやり残した事がある』
「さぁ、ここが美紀の部屋だよ」
小夜の手を握りながら美紀の部屋に入った明の目の前には、普段から嗅いでいる美紀の匂いの元が部屋全体に漂い、鼻を刺激した。
明が床に座ろうとしてる途中に、おぼんの上に水を二人分用意した美紀が部屋に入り、小夜は明に声をかけてから部屋を出た。
美紀は小夜が部屋から離れる音を聞いてから、
「さぁ明! ここは私の部屋だよ。文音の部屋じゃないからね? それでね、今日ここへ誘ったのは明に色々教えたい事があるんだよ。それを明に一杯教えたくて、今日呼んだんだよ」
美紀は右をチラリと見て、ベッドに視線を一瞬だけ向けて視線を戻した。
「明って、いつも寝る時はどうしてるの?」
「んーっとねぇ…」
明はゆっくり立ち上がり、ベッドに手が当たるとすぐによじ登って掛け布団をめくった。
「ねぇねぇ、美紀も来てー」
「えっ… そこに?」
「そうだよ。文音役やって」
「分かった」
美紀はベッドの上に乗り、明の隣に倒れた。明が見える様に横たわり、明を見つめていると、
「いつも文音と一緒に寝てるの。ボクは」
「おぉー、いつも文音の隣で寝てるんだね?」
「そうだよ。ボクは文音と一緒に寝たいからねー」
明は美紀に抱きつき、美紀を抱き枕の様な扱いで寄り添う。
美紀は何とか離れようと頑張るが、明の力は女子でも振り払えるはずなのにしっかり腕を組まれている。
逃げられない腕の組み方をしている。
美紀はすぐにそう考えた。
「ちょっと〜、私トイレに行きたいんだけど…」
「行くの? じゃあボクはここで待ってるから」
明は素直に手を解いてくれたので、美紀は逃げる様にトイレへ走って向かった。
トイレから帰った美紀が部屋に入ると、ベッドの上で明が熟睡していた。
トイレには数分程度しかいなかったのだが、明には長く感じたのか寝てしまった様だ。
「ちょっと! ここで寝ないでよ!!」
明をユサユサ起こして何とか起こす事が出来たが、明は目頭をゴシゴシしている様子だと本当に寝ていたらしい。
寝付きが良い様だ。
“良いなぁ…”
美紀は、つい明を見て寝付きの良さを羨んでしまった。
「おはよー文音ー」
「私は美紀だよ!!」
明は美紀の顔をなんとなく見て、
「あ、間違えた」
あくびをした。
「ねぇ、ボクのおやつはある?」
「それならもう用意してるよ! はい、これはプチシューだよ!」
明に一個手渡し、自分の分も手に取った。
「いただきまーす!」
明と美紀は二人同時に口に入れ、ほっぺを抑えた。
「おいしーね」
「うん、美味しいね」
沢山買っておいたプチシューはあっという間に無くなり、おやつタイムが終了を迎えた。
「ねぇ明。明はこの後何かするの?」
明は「うーん」と考え、
「お話する!」
美紀は目を輝かせた。
「何話す!? トレンド? それとも恋バナ!?」
「世界の終わりについて」
「おっ、おぉ…」
美紀は「明からこんな単語が発せられるのか」と、絶句しながら固まった。
「いっ、良いよ… 話そうか…」
美紀の何処かで不穏な何かを感じた。明はキラキラしながら話をしているからより怖く感じてしまう…
「あのさ、もうすぐ世界が終わるんだよね?」
「え?」
美紀は最近のニュースを思い出したが、その類のニュースは無い。
明はどの記事を読んで言ったのか?
美紀は聞いてみる事に。
「明…? それって何月何日なの?」
「一二月二一日!」
「それ、七年前の記事だよ!!」
逆に日付だけで分かった美紀もなかなかの者なのだが…
「あのね明、世界の終わりはもうしばらく無いから大丈夫だって」
「そうなの? じゃあさ、美紀は世界の終わりを見たいって思う?」
「見たいけど、多分見られないと思うよ? だってさ、世界が終わる時には人類は何百年も前に滅亡してると思うからね…」
「おー」
明は特に驚きもせず、拍手をしてくれた。
「それに、世界が終わるまで人類が生きてたとしても、きっと精神が壊れてて発狂してると思うな〜」
「おー」
明は美紀の話を聞き、相槌を打ってくれる。
美紀はそんな明を見て、一つ考えた。
「それでさ明。最後の日には何をしたい?」
「えっ、ボク?」
イキナリ話を振られてビクッとなった明だが、美紀から聞かれた質問について頑張って考えてくれた。
「えっとね… 大好きな人と一緒にいたいなー」
「それって誰!?」
美紀は期待を込めて言うと、
「文音!」
美紀は明の前で体を倒した。
“思ってたのと違う…!”
美紀は咳払いをして、話をまた少し変える事にした。
「あのさ、明の好きな人の話を聞きたいな〜」
すると明は目を輝かせながら口を開いた。
「あのね! 廣明君は小さい時から一緒にいてね、よく文音とボクと廣明君の三人で色んな所に遊びに行ってたんだよ!」
明の恋人とは幼馴染の関係の様だが、この頃から明は彼に好意を持っていた。
「でね、廣明君とずっと一緒にいたいって思うのは何でだろーって文音に聞いたら、『それはね、明が石黒君の事が好きだからだよ』って教えてくれたの」
「うんうん」
美紀は真面目な顔で聞いているが、心の中では一歩踏み込んだ関係が妄想されていた。
明と彼氏が結婚する姿。
前に見た光景をイメージしながら、美紀は現在進行形の妄想を続けている…
「だからボクは廣明君が好きなんだよ!」
美紀は妄想に浸っていて、とうとう明の話が耳に入らなくなっていた。
明は美紀に近付き、
「美紀ー?」
「…ぅあっ! 何? 明…」
「美紀ー、大丈夫?」
「う、うん! 大丈夫だよ! アハハ…」
笑ってごまかしたが、完璧にごまかした自信は無い。
しばらく黙っていると、明が辺りを見回し始めた。
「どうかしたの? オバケがいるとか?」
「そろそろ文音が帰って来るから、トイレに行きたい」
「あっ、そうか。夕方前には文音が迎えに来るからね… トイレに案内するね! こっちだよ!」
美紀は明の手を繋いでトイレへ案内し始めた。
「世界ってね、実は地球の事じゃないんだよ〜」
美紀の話を交えて。
「世界中の人達は『世界が終わる』って大騒ぎしてるけど、実は『世界の終わり』って『地球の終わり』じゃないんだよ。『世界の終わり』は『人類の終わり』を意味してるんだよ。もし私が死んだら、私が作った『自分の世界』が終わって、明や文音の世界から私が消えるんだよ。もし私の世界が終わったら、復元される事もなく全く別の世界がそこに生まれるんだよ。それが例え見た目が同じでも材料が全く違うし、例え同じ材料で作ったとしても作る前の時間に作っていないから、『似ている何か』になるんだよ。これが『姉妹や兄弟』なんだよ。じゃあさ、『双子』はどうやって出来ると思う?」
明はトイレの前で悩んだが、答えが出て来なかった。
「材料を半分にして小さく作るか、同じ材料をもう一つ用意するんだよ。そうすれば『双子』が出来上がるんだよ。そして子供が出来た瞬間にその子供の『世界』が出来て、その子供の親の『世界』に子供達がやって来るんだよ」
「美紀って、結構難しい話するんだねー」
「あぁ… ちょっと変かな? やっぱり…」
「うん、変だよ。美紀らしくない」
「ハッキリ言われちゃったかぁ〜…」
美紀は明のトイレを見守りながら肩を落とした。
「じゃあ、今のは忘れてね」
「うん、忘れる!」
「…ありがとう」
明と一緒にトイレから出て玄関を出ると、既に文音が待っていた。明は文音の気配を感じたのか、手を伸ばして走り出した。
「文音ー! ただいまー!」
明は無事に文音に抱きつき、顔をうずめて手を腰に巻き付けた。
「おかえり、明」
文音は明の頭を撫でながら、
「今日はありがとう美紀。明と一緒に遊んでくれて」
「そこまで腰を低くしなくて良いって。元々私が明をさらったんだから」
美紀は明を見てから、文音の方へ目を向け、
「じゃあまたね。文音、明」
「またねー美紀! また明日!」
明は文音と一緒に帰りながら、後ろを向いて手を振ってくれている。
美紀も明を見ながら手を振り、しばしの間を夕日と共に味わっている…
「さて、これから明の家に行こうかな」
「そういうのは別れる前に言ってよ」
小夜からツッコミを喰らった。
次回掲載日 2019年11月3日 午後1時




