第19話『のんびりとお散歩』
「ゴー!」
明が目の前の方向を指差しながら文音の肩をパンパン叩いた。
文音は少し辛そうな表情を浮かべながら、
「ちょっと… 休憩させて…」
文音は少し足をガクガクさせながらも、ゆっくりと歩いている。
「文音、疲れたの? じゃあ少し休もうっか!」
「うん… そうしよう…」
文音はハァーっと息を吐きながら腰を下ろし、明を降ろした。
明はさっきまで、文音に肩車されていたのだ。
と言っても、明が文音に頼んで肩車してもらったのだが。
「よいしょっと… ふぅ〜、久しぶりの地上だ〜」
「今日は涼しいから良いけど、真夏日とかに肩車を頼まないでね、明」
すると明はちょっぴり不満そうな表情を浮かべて、
「えー」
文音の左手を持って、ブンブン振った。
「あのね明。もし私が熱中症で倒れたら、明も一緒に倒れるんだよ? そしたら明は顔面強打じゃすまないよ?」
明はちょっとだけ考えて、大人しくなった。
「じゃあ、暑い日の肩車やめる」
「ありがとう、明」
「でも、文音の手は繋ぎたい」
文音は明の発言を予測してたのか、「繋ぎたい」と言う前に明に右手を差し伸べていた。
「じゃあ、行こうか。明」
「うん!」
普段から歩いている住宅地を散歩していると、明が文音の右手を今より強く握り出した。文音が明に目を向けると、明は顔をほんのりと赤くしていた。
「じゃあ、水筒の飲み物でも飲む?」
明は首を縦に振った。文音は水筒の中身をコップに注いで、明に手渡した。
明の喉に何回か飲み物が通った所で、
「おいしー」
明が喋った。
「じゃあ、もうちょっと休む?」
「うん、休む」
文音は水筒をしまい、明の隣に立った。
「平和だねー」
「うん。平和だね…」
「…ねぇ文音」
「何?」
「何か食べたい」
「じゃあ、そろそろお昼にしましょう」
「わーい!」
昼食をとる為、明の手を握って立ち上がって歩き出した。
目的地は上野公園。
大きな樹の下を目指して、二人は歩き出す…
「いただきまーす!」
明と文音、二人で一緒に焼きそばパンを頬張り、一緒にほっこりした。
「おいしー!」
「うん。美味しいね」
観光客で賑わう上野公園の噴水広場の近く。大きな木の下で、水筒に入ってるスポーツドリンクを二口飲んで数分。
明は文音をジーっと見つめていた。
「どうしたの? 明」
「トイレに行きたい!」
文音は片付けをしてから、明と一緒に女子トイレに入った。
「よし! それじゃあお散歩を再開しよう!」
明は文音の手を引っ張って走り出した。
「待って! そんなに走ったら…!」
明はダーッと走り続け、文音を引っ張った。
「ぶつかるよ‼︎」
目の前にある大きな木に正面衝突して、明の足はようやく止まった。
頭を抑えながら、文音のいる方向を見た。
「…痛い」
「ほら、一緒に行こうね?」
「うん…」
明は文音の腰に抱きついた。文音は歩き始め、十数歩歩いてから明を見た。
“歩きづらい…‼︎”
しばらく歩いてから、明と文音は公園を出て上野駅を利用して八王子駅まで電車の中で時間を過ごした。
八王子駅を降り、水筒のスポーツドリンクを飲みながら家を目指して歩くと、段々と体から汗が流れてきた。
おでこの汗をはらいながら、
「ちょっと暑いね〜… 今のうちにトイレのある場所を探しておかないとね」
「どこかにないの? トイレは…」
「待ってて。今、周りを見回すから」
文音はキョロキョロ見回してトイレのありそうな施設やコンビニを探したが、それらしい建物は無かった。
そのうちに明がモジモジしだした。
トイレに行ってからおよそ四十分。
文音は、ちょっぴり焦りを感じてきた。
“どうしよう… このままじゃ明の限界が…!”
明をおぶって、周りを見ながら歩き出す文音。しかし、周りはほとんどが住宅。
公共のトイレは何処にも見当たらない。
「ちょっとマズイなぁ…」
焦りを隠せなくなってきた文音は、近くを歩いている一人の男子に近くのトイレの場所を聞く事にした。
「すみません! この近くにトイレがある場所を知りませんか!?」
相手の男の子はゆっくり振り向きながら、丁寧に答えた。
「それなら、この先を二十メートル程先を右に曲がって、その先を道なりに歩けば公園があるから、そこのトイレでヤると良いよ」
「この子は悪い人じゃないよ!?」
「じゃあもう… ベンチに行くしかないよ…」
「私は正樹さんじゃないからね!?」
文音はハッとなり、男の子の目を見て質問を投げかけた。
「それじゃあ、この近くに身長が小学生並で、腰より長い髪が特徴的な思春期が暴走気味の少しエッチな女の子はいませんか?」
「『少しエッチな女の子』だなんてヒドイよ‼︎」
「やっぱり美紀だったか…」
「ど、どうして分かったの?」
「声が隠しきれてないから?」
「うぅ… 分かってた! 私の声は目立ってるって…!!」
美紀は涙を拭って、
「でも、男の子の声にはなってたでしょ?」
「まぁね。それより美紀、もう一回聞くけど… トイレって近くに無いかな?」
「それなら、さっき私が行ってたトコで見かけたよ! 付いて来て!」
美紀は文音の背中で我慢している明を見て、歩きながら案内し始めた。
ちらちら後ろを見ながら、
「もうすぐで着くよ! 頑張って!」
「うん! 明、我慢出来る?」
明はゆらゆらされながら、
「うん… 我慢出来る…」
突然、美紀が向こうを指差して文音の方を向き、
「ほらソコ! 神社が見える!?」
「うん! 見えるよ!」
「階段に気を付けてね!」
長い階段を一段づつ登り、やっと境内に辿り着いた。
文音は明を下ろして、呼吸を整えた。
美紀は明を心配しながら、
「明! 歩ける?」
「うん、歩けるよ…」
「じゃあ付いて来て!」
美紀は明の靴を脱がせてから自分の靴を脱ぎ、文音はその隣で靴を丁寧に脱いで神社の中に入った。
「小夜ちゃん! トイレを使うから!」
美紀の声が聞こえた小夜がふすまを開けると、すぐ目の前を美紀と明と文音が通った。
「えっ? え? えぇ!? どういう事!?」
小夜は三人でトイレに入る様子を見て、トイレを見ながら状況の整理を必死にしたが、意味不明な状況に混乱が続いた。
が、しばらくすると明がスッキリした表情で出て来た事で、小夜の頭もスッキリした。
「その子がトイレに行きたかったの?」
「うん! いやぁ〜、間に合って良かったよ〜…」
小夜は美紀をややジト目で見ながら、
「美紀…」
美紀は頭に『?』を浮かべながら小首を傾げていると、文音が疑問を抱いた。
「ねぇ美紀。さっき、その子に対して『小夜ちゃん』って言ってたけど、知り合いなの?」
美紀は「やらかした!」と言わんばかりの表情で小夜を見た。
小夜はまだジト目をしていた。
「くそう! くそう!」
美紀は涙目で自分の詰めの甘さに頭を抱えた。
「え〜、というワケでして… 私は小夜ちゃんの神社で居候をしてます」
「下宿じゃないんだね」
「うん、そうなんです…」
文音はちょっぴり暗い表情の美紀を見て、
「黙ってるから、元気出して?」
「うん! 元気出す!!」
「切り替え早ッ!!」
「…と言う訳で、これからも美紀をよろしくお願いします」
小夜は文音達に対して深くお辞儀をした。
「いえいえ、こちらこそ…」
文音と明は深くお辞儀をした。
次回掲載日 2019年 9月29日 午前10時




