第13話『恐怖の味噌汁』
「ねぇ小夜ちゃん…」
小夜の目の前で美紀が懐中電灯で顔を照らしながら急接近してきた。
「あの世の話をしてあげよぅ~…」
小夜はビクビクしながら震えていると、美紀は大きな声を出して小夜にあの世の話を始めた。
「あのよー!!!」
小夜は美紀の声にビクゥッ!と反応した。
天海宅にて。
キッチンで料理をしている明は手探りで材料を手に取り、ゆっくりと小さな鍋に入れていった。
トポトポと鍋に具材が入る音を聞きながらキッチンを移動してる時、隣の家から文音がやって来て、キッチンの前で明の料理の臭いを嗅ぎ始めた。
「ねぇ明、何作ってるの?」
明は文音の声に反応して、声がした場所に目を向けて、
「今日、麩の味噌汁だよ」
普通に答えた。
「恐怖の味噌汁…」
文音の頭の中では飲んだ者の心を支配する、まさに恐怖の味噌汁がそこにはあった。
が、それ自体は無く、ただの聞き間違いなのは誰も知らない。
文音の耳は、「恐怖の味噌汁」と聞いた。
これは決してわざとではないのは確かである。
「確かに明が料理したとなると、それが恐怖の味噌汁なのも納得だよ…」
「…あれ? 文音、恐怖の味噌汁って何?」
「え… 恐怖の味噌汁じゃないの?」
文音の金髪ツインテが少しだけ上がった。
「うん。ボクが作ってるのはただの味噌汁だよ? 別に特別な具材とかは入ってないごく普通の味噌汁だよ?」
「明、それ少し見せてね」
明の横を通り、IHの上に乗ってる味噌汁の具材を凝視し始めた。
ワカメや豆腐、少しだけ濃度の濃い味噌で出来ており、別に怖くも何とも無かった。
「あれ? 劇毒物とか、ベニテングダケとかは入ってないみたいだけど…」
「逆にそんな物ドコにあるの?」
文音はお玉で味噌汁をすくって、ジッと見つめた。まずは手で扇いで臭いを嗅ぎ、どんな食材が入っているのか確かめてからお碗に注いだ。
「あぁ… 文音が先に飲んじゃった…」
今の文音には脳の奥まで声が届く事は無く、文音は明を少し気にしつつも味噌汁を一口飲んだ。
目を閉じてしばらく味わった後、目を一気に見開いた。
“味噌が濃いッッッ!!”
明に見られない様に振り向き、くどい味噌の味に苦しんだ。
「どう? 美味しい?」
明は味噌汁の味を確かめてない。だから飲んでくれた文音に文音の服を引っ張りながら味の感想を求めていた。
咳き込みながらも味覚が元通りになる様に水を飲みながら、文音は明に味の感想を伝えた。
「うぅっ、確かに味噌が濃過ぎる…」
「明は目が見えないんだから、料理を作る途中の味見は何回もしないと駄目だよ?」
「うん… 分かった…」
文音は濃い味噌の味を出来る限り調節してから、お碗にもう一杯味噌汁を盛り付けた。
「ほら、少し味を薄めてめたよ。飲んでみて」
明は文音からお碗を受け取って、味噌汁を口へゆっくり注いだ。ワカメが三枚入り、豆腐が一切れ入って良い味を出していた。明はじっくり味わってから飲み込んだ。
「…美味しい!」
明の表情は、ほっこりまったり。
平和な表情である。
「ところで、どうして味噌汁を作ろうと思ったの?」
「お父さんお母さんが神社祭の設営補助に行ってて、お昼はボクしかいないから、お昼御飯を自分で作ろうかと!」
文音は味噌汁と、ボタンを押し間違えて炊飯が出来てないお米を目にしてから、溜め息を吐いた。
「全く… どうして私抜きでやろうとするのよ。前が見える人の助けが必要でしょ?」
文音は明の手を握ってまな板に手を当てた。
「さぁ、今度は私と一緒に味噌汁を作るよ! 準備は良い?」
「はーい!」
これから、明と文音の味噌汁教室が始まります。
少なくとも1000文字超えの料理パートですので、金髪ツインテの美少女と黒髪サイドポニーのボクっ娘美少女が味噌汁を作る場面を想像して頂ければ幸いです。
「それじゃあこれから味噌汁を私が作るから、明は私が頼んだ材料を取ってね」
「はい! 今日はお願いします、先生!」
「先生って… まぁ良いか」
文音はまず、小さい鍋に水を五人分入れてからIHに乗せ、中火で熱を加え始めた。そしてすぐに明に目を向け、明の肩を軽くつついてから最初の注文をした。
「明、下の引き出しから乾燥ワカメ。冷蔵庫から豆腐を持って来てくれる?」
「はーい!」
鍋の水をじっくり観察していた明は、ゆっくりと手を伸ばして周りに手を伸ばしながら下の引き出しに入っている乾燥ワカメらしき物に手を伸ばし、それを文音に見せた。
「文音、これかな?」
「うん、合ってるよ。じゃあその中から一枚取ってまな板に置いてくれる?」
「この大きいワカメを切るの? 包丁で?」
「うん、そうだよ。一口サイズに切るんだけど、大きさはどれくらいにしようかな…」
明を鍋の前に立たせて、見張りを任せる事にした文音は、乾燥ワカメの大きさと量について考えていた。その間に明の目の前にはとても小さな水泡が出てきて、ポコポコと音を立て始めた。その音を明は耳で聞いて楽しみ始めた。
「よし、ワカメの大きさと量はこれ位で大丈夫だね。ねぇ明! …明?」
「ふえっ!? 何!?」
「ワカメを切ったから、明には切ったワカメを鍋に入れて欲しいんだけど…」
「あぁうん… 分かったよ」
落ち着きを取り戻しながらまな板を左手で押さえながら、右手で乾燥ワカメを少しづつ鍋に入れた。
「おー、ワカメが入ってくよ」
「明、ここにこぼれたワカメがあるよ」
明の手首を優しく掴んでワカメを手渡し、鍋の上までゆっくり誘導して、こぼしたワカメは明の手で鍋に入れた。
「じゃあ次は、冷蔵庫から豆腐を持って来てくれる?」
「豆腐はパック? それとも鍋に入ってる?」
「パックに入ってるよ。それを二パック持って来て」
「分かった!」
手探りで冷蔵庫を探し、硬い物に手が当たり、それが冷蔵庫だと分かったところで扉を開け、中にある豆腐をニパック手に取ってそーっと台所に置いた。
「はい文音! 豆腐ニパックだよ!」
「ありがとう、じゃあこの豆腐を包丁で十六等分するから、よく見ててね」
「はーい!」
文音の右手にある包丁を縦に持ち、そーっと下ろして包丁を豆腐に通した。少しづつ切れていく豆腐を何となく見つめている明は、溢れている水をふきんで拭き取ろうとした。
「明、包丁が危ないから手を引っ込めてね」
明はすぐに手を引っ込めた。
「そろそろ沸騰するかな。明! 蒸気は熱い?」
明は鍋の上に手を当て、蒸気の熱を手で計った。
「うん! とっても熱いよ!」
「それじゃあ、ここの引き出しから味噌を取ってくれる? それと、ここにお玉もあるから取ってね」
「味噌と、お玉…」
明はまず味噌を落ち着いて手に取り、台所に置いてからお玉を取って味噌を掬った。
「ねぇ文音、味噌の量ってこの位かな?」
「う〜ん、もう少し増やしても良いよ」
「じゃあ、この位?」
「一回それで溶かしてみて。それから私が味見して濃度を調節するから」
「じゃあ、入れるよー」
味噌を掬ったお玉は沸騰した鍋の中に入って行った。文音は明に箸を手渡し、明は味噌をゆっくり溶かし始めた。
じわじわと味噌がお湯に溶け込み、味噌汁になってきた。味噌の匂いを嗅ぐと、鼻を少しだけくすぐり、お腹の虫を起こした。
「良い匂い〜…」
「明、そろそろ味見をするから」
明の手をそっと掴み、お玉に残った僅かな味噌を溶かしながら小皿に移し、文音はそっと口に流した。
「まだ味噌が足りないかな〜… ねぇ明、少しだけ味噌を掬ってくれるかな?」
「少しだね。少しはこれ位かな?」
「もうちょびっと増やしてくれるかな?」
「じゃあこの位?」
「うん、それを鍋に入れてね」
「入れたよ! じゃあかき混ぜるよ!」
味噌を削りながらお湯に溶かし、味噌汁の色になってきたところで文音が味見に入った。
小皿に味噌汁を一口分注ぎ、軽く息を吹きかけてから口にして、味噌の濃さを確かめた。
「どう? 濃いかな…?」
「うん、とっても美味しいよ。明も飲んでみてよ」
明が飲みやすい様に五回程息を吹きかけて冷まし、明の口に味噌汁を注いだ。
明は最初の数秒を舌で味わって飲み込み、後味を堪能してから感想を口にした。
「美味しい…!」
明の表情は、周り一面に花が咲いてそうな平和そのとをものを演出した表情になっていた。
「じゃあこの味噌汁をお椀によそって、米も炊けたからよそって、後は明の両親が帰って来るのを待つだけだよ!」
「じゃあボクはお米をよそうね!」
「じゃあ私は味噌汁を担当するね」
食卓に両肘を付け、手を組んで口に当てて俯く文音と明の二人。食卓には両親の夕食が置かれており、明と文音の夕食も用意されている。
しかし、明と文音は既に夕食を食べ終わっている。
二人の周りには、無音の世界が訪れていた。
「ねぇ文音… お父さんとお母さんの夕食、どうしようか?」
文音は微動だにせず、
「勿体無いから、私達が食べようか…」
「そうだね… そうしようか…」
明の両親が帰宅途中、車がオーバーヒートした。
現在、文音の両親が明の両親を乗せて迎えに来るのだが、帰りは夜の十時を過ぎる。
明と文音は、静かに両手を合わせた。
「いただきます…」
「いただきます…」
次回掲載日 2019年8月11日 午前0時




